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ホテル ラ・スイート神戸ハーバーランド 総支配人 檜山 和司さん「おもてなしの真髄」とは?┃街のプロわざを「みつける」

2022.4.14

ホテル ラ・スイート神戸ハーバーランド 総支配人 檜山 和司さん「おもてなしの真髄」とは?┃街のプロわざを「みつける」

その道のプロだけが知っている「街のプロわざ」は、みんなにうれしい暮らしのアイデアに違いない!ということで、ホテルマンとして初めて「黄綬褒章」を受章された檜山和司さんに、仕事観、プロならではの技、檜山さんご自身の使命について、たっぷりお話を伺いました。

profile

檜山和司さん

神戸市生まれ。35年を超えるホテル勤務の間に、三ツ星レストラン「アラン・シャペル」「ラ・コート・ドール」に13年間在籍。1996年度第一回日本メートル・ド・テル コンクール優勝。2014年兵庫県技能顕功賞(知事表彰)受賞。2015年「メートル・ド・テル」として初の神戸マイスターに認定。2015年「クープ・ジョルジュ・バティスト協会」より特別栄誉賞を授与。2017年厚生労働省より「平成29年度 卓越した技能者(現代の名工)」をメートル・ド・テルとして西日本で初めて受賞。2019年春の褒章でレストランサービス業界初の「黄綬褒章」を受章。現在、ホテル ラ・スイート神戸ハーバーランドで総支配人ながら日々サービスの現場に立ち接遇を行うとともに、教育機関での教鞭やプロ対象の実技セミナー開催など後進育成と文化の継承・発信に力を入れている。

お客さまにサービスを提供するにあたり、檜山さんが最も大切にしていることは何ですか

今日もそうなんですけれど、出会いというのは偶然ではなく必然だと思っています。私の人生の中で、今日みなさんにお会いするということは「組み込まれていた」と言ったらおかしいかもしれないですが、人生の中で決まっていたひとコマだということですね。私は日々たくさんの方とお会いしますが、それらは偶然ではなくて「今日は会うべくしてお会いしている」という意識でいます。だから、その時に私自身の全身全霊をかけておもてなしします。人生の中の不思議なご縁でつながりお会いしているという感謝の気持ちを、毎日忘れないよう肝に銘じています。

一緒に働かれている方にも、今のような話を共有されているのでしょうか?

そうですね、新入社員の教育は普通は人事部の教育担当が行う場合が多いかと思いますが、実はラ・スイートでは私が行っています。ラ・スイートのスピリッツや、おもてなしとはこうあるべきだよね、という基本中の基本は私が最初に教えるんです。それが、スタッフ全員が同じ認識で働くことにつながっていると思います。

檜山さんはこれまでラ・スイート以外でもご活躍されてきたかと思うのですが、その経験から見たラ・スイートのよさはどんなところでしょうか?

そうですね、ラ・スイートのよいところは、神戸の中で他のホテルとは違う面があることだと思っています。大型ホテルでもない70室ほどの小規模なホテルですが、ひと部屋は70㎡くらいでゆったりとした空間が特徴です。また、実はこのホテルは震災復興事業のひとつにあたります。阪神淡路大震災から10年経った2005年、神戸の人口はようやく戻ったものの賑わいが戻らなかったんです。そこで神戸市が、この辺りのウォーターフロントの一等地を一般企業に譲りましょうという震災復興の事業コンペを行いました。十数社競合の中から選ばれたのが、ラ・スイートだったんです。なので、ラ・スイートはここから神戸の街を元気にするという、大きな使命を持って生まれたホテルでもあります。

目の前に神戸港が広がる一等地をいただいたので、私はよくお客さまに「ここはまるで地中海リゾートみたいでしょう」と言うんです。ニースとか、モナコとか、カンヌのような高級リゾート地に行ったつもりになれる、非日常を味わえる、それがこのホテルのよいところだと思います。だからこそ、こだわりがたくさんあります。他のホテルに比べると神戸地区に後から参入したため、「他のホテルが真似したくてもできないような魅力を100個集めよう」ということで、開業前に一生懸命魅力を100個集めました。例えば、客室には煌びやかなシャンデリアを入れています。それはなぜかというと、シャンデリアは女性がいちばん美しく見える照明だからです。そこには、シャンデリアの下で魅力的な自分を発見していただき、過ごしていただきたいという思いがあります。また、客室全体の8割には大きな円形のジャグジーを入れています。650ℓで大人が3人入っても余裕のあるサイズです。残りの2割の部屋には、楕円形のジャグジーを入れて、全室ジャグジー付きにしています。日本人は普段からお風呂が大好きですが、ここでは神戸の景色をゆったりと見ながらバスタイムを楽しんでいただいて、「まるでプリティーウーマンになったみたい」というようなぜいたくな空間を味わっていただきたいと考えています。このような魅力が100個以上、ラ・スイートには集まっているんです。

お客さまにサービスを提供される中で、最もうれしいと感じる瞬間はいつですか?

高額な代金を支払っていただきながら「どうもありがとう」と感謝されて愛される仕事って、なかなかないと思うんです。先ほどもお伝えしたように、会うべくしてお会いしているので、お客さまの人生の中のひとコマを優雅なひとときに演出する。記憶に残るひとときを過ごしていただくということに、いつも苦心しています。それがお客さまにとっては、「記憶に残るようなひとときをありがとう」ということになるんですね。少々高いお値段になるかもしれませんが、「あの時よかったよね」といつまでも記憶に残るというか、そう感じていただけるとうれしいですね。ただ宿泊していただくのではなく、人生の思い出を作っていただくような、そういうホテルにしたいと常々思っています。

特に印象的な、お客さまとの思い出はありますか?

私はいくつかのホテルを経験していて、さらに遡るともともとはフランス料理の料理人から始めたんです。途中でサービスに目覚めて、「やるんだったらフランスのミシュラン三つ星の支店で働こう」と思い、2店舗で働きました。ミシュラン三つ星の支店で働いていたときの、私がいちばん最初にレストラン・ウエディングを担当したお客さまがいまだにお越しになってくださるんです。記念日に、ラ・スイートにわざわざ。30年ほど前になるので、もうお子さんも大きくなられていますが、そのお客さまは毎年結婚記念日にお越しくださいます。ホテルの仕事だけではないと思いますが、我々の仕事というのは、お客さまとすごく長く、一生お付き合いするようなお仕事なんです。なので、一回販売して終わりというような関係ではなくて、末長くお付き合いすることになります。

毎日すごくたくさんの方とお会いになると思うのですが、みなさんのお顔を覚えていらっしゃいますか?

「あれ、以前お会いしたかな?」ということは分かります。お会いしたことが1〜2回ではなかなか難しいかもしれませんが、顔と名前が合致してお話しできることがいちばんですよね。「いつもありがとうございます」と言えないシーンだって、あるかもしれませんからね。(笑)なので、機敏に目や表情でお客さまの気持ちを察知しなければならないんです。今日はあまり常連扱いしないでね、という目をされたらそのようにします。

フェリシモのお客さまから「顔を覚えるコツを教えてほしい」という質問をいただいているのですが

そうですね、相手にお会いしたときにさまざまなことと関連づけて記憶にひも付けしていくと、覚えやすいと思います。その方の髪型とか、服装とか、身だしなみとか、持ち物とか、センスとか。あとは顔立ちが芸能人の誰々に似ているとか。いちばん特徴のあるところ、目鼻口耳、どこか分かりませんが、そういうところをデフォルメして名刺などにメモしておくのも覚えやすいかと思います。ただ、この方法ではマスクが強敵です(笑)。例えばその方がベルルッティの靴を履かれていたら「ベルルッティの〇〇さん」とか、ファッションの特徴やセンスを見て「英国紳士の〇〇さん」とか、あとはワインの好みとか、そういう事柄でひも付けていくのもよいと思います。こんな風に楽しみながら覚えてみてはいかがでしょうか。

これまでのお仕事経験のなかで身についた特技はありますか?

若い頃にフランスのホテルで働いていたことがあったのですが、フランスには毎年8,000〜9,000万人もの外国人のお客さまがいらっしゃるため、言語に頼ることができないんです。言葉が通じないかもしれないので、フランスのホテルマンは簡単な挨拶をしながら頭からつま先までを一瞬で見て、その相手を素早く判断して、その相手に応じたサービスを提供しようとします。社会的地位や、年収、人格などを察知します。持ち物も見ていて、新品でピカピカの高価な物を持っている方なのか、ていねいに磨き込まれたよい革製品を長年大切に使い込んでいる方なのか、そういったことで扱いがちょっと変わるんです。人格的なところまで見ているんですね。さらに体調や感情、その日の目的といったことを数秒で分かろうとしていました。そういうのを見ていたので、すごいなと思いました。

日本では大体は日本語で通用するので洞察力をあまり使わなくてすむのですが、フランスではそういった豊富な経験で言語の違うお客さまをよろこばせていこうという姿勢がありました。チップ制度があるということで、お客さまによろこんでもらえたらその分、自分にはね返ってくるというのもありますね。例えば、レストランで社会的地位のある方が来店されたのに末席しか空いていない場合に、そのまま案内するのと、申し訳なさそうに案内するのでは、相手に与える印象は違いますよね。さらに、もしデザートのころに相応の席に案内できたら相手の方はとてもよろこんでくださると思います。なので、よくあるマニュアルのサービスというのをラ・スイートではしないんです。1万人いたら1万人に同じサービスを提供するのが均一なマニュアルのサービスです。しかし、私たちのお客さまは違います。例えばレストランであれば、デートの人もいれば、プロポーズの人もいれば、お誕生日や記念日の方もいて、その方に合ったアプローチをしますよね? それがラ・スイートのオーダーメイドのサービスです。

新入社員でラ・スイートに入ったとして、オーダーメイドのサービスにたどり着くまでの訓練は大変そうですね

そうですよね。なので、料理を提供する際の食器をサーブする行為ひとつだけでも注意すべき点が20項目以上あると教えてあげます。すると、「あ、こんなことまで気を遣っているんだ」と気づくんですね。オードブルのお皿だと、ちゃんと冷たいお皿に載っているかとか、あたたかい料理はあたたかいお皿に。また、食器に指紋がついていないか、ひびや欠けがないかとか、そしてお客さまに提供するときに順序の間違いがないか、美味しいと思わせる料理の説明ができるか、下げるときにお水・ワインやパン、バターは大丈夫かと。ひとつの料理を出すという行為にさまざまなチェック項目があること、サービスのグレードが違うということを実際に教えてあげるんです。でも私たちの場合は一から百まですべては教えません。ある程度の基礎的なことは理解しているため、「あ!そうか!」と同じ目線で気づきを与えるように教えていきます。

檜山さんが新入社員に教えていることは、檜山さん自身が誰かから教わったことですか?それとも全て独学ですか?

もちろん教わったこともありますけど、大体は私の経験値です。経験を教えるということですね。人生のスイッチってやっぱりあるんですよね。ターニングポイントのスイッチがね。どこにあるのかは分からないですけど、それを自分で探して見つけられるような、ヒントを教えてあげるんです。なので、「失敗はマイナスじゃなくて、失敗は貴重な経験であり、これから活きる大切な財産だよ」とかね。スイッチは体のいろいろなところにあるから、失敗を恐れずいろいろなことにチャレンジすることで何かがスイッチに当たるんです。

スイッチが入れ変わると、そこで人生が変わってしまいます。例えば、私が料理人からサービス人を目指すことになったきっかけは、お客さまからのたったひと言でした。普通は「おいしかった」「ごちそうさま」と言って帰るのに、その方は「今日は本当に楽しかったありがとう」といってくださって、「なんていい仕事なのか」と思ったんです。高いお金をいただきながら、チップまでいただいて……というね。なので、新入社員の方には、「たったひと言で人生は変えられる」という自分の経験値をちょっと教えてあげるようにしています。本には載っていないことを教えてあげるんです。

どんな職業にも当てはまることで、とても勉強になりました

そうですね、仕事の究極は、社会貢献というか、どれだけ人につくして、社会につくせるかだと思うんです。それを本心で思ってできるかですよね。なので、できるだけそう思えるように教えてあげたら、自ら進んで動いてくれるようになるんじゃないかなと思っています。先ほどもお伝えしたように、事業コンペにより神戸市の大切な一等地を購入させていただいた、譲っていただいたので、我々は神戸の観光大使のつもりでいます。神戸の食材でおもてなしをして、滞在中にさりげなく神戸の魅力をいっぱいお伝えし、お客さまが帰られた先で「神戸よかったよ〜」と家族や友人に言ってもらって、また来てもらう。普通にホテルで働いているのではなくて、神戸の観光大使のような役割をしているかどうか。魅力を伝えて、神戸のファンにするというのが我々の最大の仕事ということですね。

すごく大きな賞を受賞されたと伺ったのですが、今後檜山さんはどんなことを目標にされていますか?

「第二、第三の檜山をつくる」と言ったらおかしいんですけど、人を遺すというか、次世代を担うサービス人を育てて遺していくのが私の仕事じゃないかなと思うんですね。だから1999年から、後進の指導育成を行っています。ちょっとこの2年は新型コロナで開催できなくなっているんですけど、業界に従事するプロフェッショナルたちを相手にいろいろなおもてなしの哲学とか、サービステクニックの理論と技術、技能を、セミナーでお教えしています。自分が持っているものすべてを、毎回お教えするんです。一人の人間ができることって、人生の中で限られていますから。よく、「檜山さん、なんでそんなライバルのホテルやレストランにノウハウを全部教えるんですか?」と言われるんですけど、そうじゃなくて、教えることでみんな興味を抱き自ら学びだしますよね。そうしたら、「檜山さんみたいになりたい」と一生懸命頑張る、それをお客さまに提供して見せるわけですよ。パフォーマンスを。30人に教えたら30箇所でお客さまをよろこばそうとしてくれるので、業界全体が盛り上がるんですね。

もちろん自分の仕事も大切だけど、いかに人を遺せるか。おもてなしの文化を多くの方々に伝えて遺していきたいなということですね。先ほどお話した、パッと見でお客さまを判断するというのもひとつのスキルですけど、お客さまを喜ばせるにはいっぱい引き出しが必要です。「この方はどの引き出しを使おうか?」という、引き出しがいっぱい必要なんです。その引き出しのひとつがテクニックです。これまでいろいろと賞をいただいてきましたが、例えば「現代の名工」は史上二人目でした。現代の名工というと、宮大工とか、精密機械や陶芸家など、作られるような “物” が起点になるのですが、我々のような空間の演出家はなかなか認めていただくことはありませんでした。だから受賞することで、わざわざ東京に行かなくても、神戸でも東京で活躍されている方々に負けないような賞をもらえるよと。神戸で育ったら地元で、地元を元気にするような企業で働いてほしいなとか、そういう思いもあります。そういうことひとつひとつを教えてあげるというか、みんながみんな東京に行けなくても、関西の神戸の中でも魅力あるところがたくさんあるよと。目標というか、こんな人になりたいというあこがれでもいいんですけど、それを具体的に思えば思うほど目標に近づけることができる。そういうことを私は実際に経験しているので。だから、コンクール(日本メートル・ド・テル コンクール)で優勝しましたけど、その前に田崎 真也さんが世界チャンピオンになって、「自分もいつかはコンクールに出て、優勝したらフランス語で優勝コメントしゃべってやろうかな」なんて思っていたら、本当になっちゃったり。だから、そういうふうに思えば、そういう風に実現していくんですよね。夢はかなえるものというか、そういうことを教えてあげる、目標を見つけるヒントを教えてあげるということですね。

黄綬褒章も受章されていますよね?受章されたときの気持ちはどんな感じでしたか?

私自身すごくうれしかったですし、私が初めてだったんですよ、おもてなしの分野で受章したのは。だから、私の後に続く若い人が「私たちも頑張ったら檜山さんみたいに受章することができる」と、そういう励みになったらいいなと思いました。自分自身もうれしいし、同僚もスタッフもみんなよろこんでくれます。後進が目指してくれるようなことを、まず今まで受章できなかった黄綬褒章を、サービス業でももらえるんだという前例を作れた。実は、一度受章が流れているんです。平成の終わりごろにね、厚生労働省からね「檜山さんあの、これ “飲食物給仕人” というジャンルではいまだかつて受賞された方がいないんですよ。 “料理人” だったらすぐ出せるんですけど」って言われたんですね。「いやあ、料理人じゃないですから…そこはこだわっていて」と言っていたら一回選考が流れたんです(笑)。でも、逆に流れたから、令和元年の節目に受章させてもらえてラッキーでした。

最後の質問なのですが、檜山さんにとってホテルはどういう場所ですか?

ホテルはお客さまにとっての第二の我が家。心からくつろいでいただいて、記憶に残るようなひと時を過ごしていただきたいと思っています。第二の我が家というか、我が家以上ですよね。だから本当に我が家以上に身も心も任せていただいて、ゆったりと時間を忘れて優雅なひとときを過ごしていただく。人生の中のひとコマを存分に楽しんでいただく。そういった場所が、私にとってのホテルだと思います。社会の縮図でもあります、いろいろなドラマがそこにありますから。

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