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捨てられない、捨てたくない「好きな服を長~く着る」 ひと手間かけて「繕う」という選択

2022.12.12

捨てられない、捨てたくない「好きな服を長~く着る」 ひと手間かけて「繕う」という選択

写真/Kohei Shikama

長く着るための「基本のき」ともいえるのが、「繕う」こと。気付いたらすぐ手直しすることが、お気に入りを長く着る秘訣です。少し手間はかかりますが、繕うことで新たな魅力と愛着が復活。また大切に着よう!という気持ちがわいてきます。

最近話題を集めているのが、ヨーロッパに伝わる「ダーニング」という手法。穴の開いた部分にきのこのような道具を当てて、毛糸でちくちく埋めていきます。実は、アンケートでもダーニングを実践されている方がたくさん! 「靴下の穴はダーニングで繕う」「ニットのお気に入りはダーニングしている」などの回答が寄せられました。

暮らしの装飾家 ミスミノリコさんの、好きな服をもっと好きになる「お繕い(つくろい)」

ディスプレイデザイナー/暮らしの装飾家のミスミノリコさん。<フラウグラッド>の「暮らしのブログ」に綴られる、素敵な暮らしの演出アイデアも好評です。そんなミスミさんは、実はお繕いの達人。手づくりの<クチュリエ>の「お気に入りを長く使いたい 素敵な大人のための繕いレッスンの会」の監修も務めておられます。今回はそんなミスミさんに、繕うことの魅力や楽しみ方について、お話を伺いました。

profile

暮らしの装飾家 ミスミ ノリコ

ウィンドウディスプレイやスタイリングを手掛ける一方、日常に取り入れられるデコレーションアイデアや手づくりの楽しさを発信。2019年山形県鶴岡市にカフェ&セレクトショップ「manoma」をオープン。著書に『繕う暮らし』『小さな暮らしのおすそわけ』(主婦と生活社)など。

なぜ、お繕いの世界へ?ミスミさんのこれまでの経歴

‐‐ミスミさんの「お繕い」にまつわる経歴を教えていただいてもいいですか?

もともと手芸が好きで、子どものころはフェルトでマスコットを作ったり、洋服も自分の気に入るようにリメイクしたりしていました。大学でもテキスタイル専攻です。金工に興味があって美大に進んだんですけど、硬い素材が向いてなくて(笑)。やっぱり布とか糸とか、そういう素材が好きなんですね。大学を卒業してからは、CMの美術や博物館の模型などを作る造形会社を経て、株式会社サザビーリーグでディスプレイの仕事をするようになりました。

‐‐テキスタイルの方面には、進まれなかったんですね。ディスプレイの仕事にも興味をお持ちだったんですか?

中学生のころ、雑誌の『オリーブ』がすごく好きで、よくまねして自分の持っている雑貨を並べて、「写ルンです」で写真を撮ったりしていたんです。家の蛍光灯だから、ぜんぜん素敵に撮れないんですけど(笑)。でもサザビーリーグに入社するときに、当時の記憶がよみがえって、ああ私、ディスプレイやスタイリングも好きだったんだって思い出しました。

‐‐それからはずっと、ディスプレイのお仕事を?

会社では、全国の店舗のウィンドウディスプレイのデザインを担当していました。プロモーションに合わせたプランニングをして、装飾品を発注して、業者さんに施行を依頼して……という感じですね。プライベートでモノづくりのユニット活動もしていましたが、会社を離れてからもフリーランスでずっとディスプレイの仕事をしています。

‐‐すごく大がかりなお仕事ですよね。

そうですね。ディスプレイはとても楽しい仕事だったんですけど、シーズンごとに作り替えるので、毎回どうしてもゴミが出ちゃうし、使いまわすのも難しいんですね。新しいものをどんどん作っていく仕事に魅力を感じつつ、その一方で、穴の空いた靴下を修理したり、何かをリメイクしたり、使い捨てないような手仕事をして、自分の中でバランスを取っているようなところはありました。

‐‐仕事では使い捨てざるを得ない分、プライベートでは使い捨てない工夫をされていたんですね。

フリーランスになってからは、ディスプレイでも木材の端材や余り革などを使ったりもしてたんですけど。でもそうやってちょこちょこ自分のものを繕って使っていたら、それを見た編集者の方が、「お繕いの本を出しませんか?」って声を掛けてくださったんです。私はずっと自己流で繕いものをしてきたんですけど、その方が「ダーニングっていう手法があって、きのこみたいな道具がかわいいんです」って教えてくれて。それがきっかけで、ダーニングや、私がこれまでやってきた方法を合わせて、一冊お繕いの本を出すことになりました。

ミスミさんの「ものの選び方」と「ものとの付き合い方」

ダーニングの手法で、穴の空いた靴下をお繕い。 ダーニングの手法で、穴の空いた靴下をお繕い。

‐‐編集者さんとの出会いがあって、ディスプレイ作家の仕事と並行して、繕いものの本を出されたんですね。

そうそう、声を掛けていただいたのがきっかけで。でも、やってみてわかったのは、ダーニングって「織り」なんですよ。縦糸を張って横糸を交互に通していくんですけど、まさに平織りという基本的な織り方。その小さい織りで穴をふさぐっていうのが、もともとテキスタイルをやっていたこともあって、すごくおもしろいなと思ったんです。構造はよく知っているものだったから、例えば目を詰めるときにケーキのフォークを使ったり、ガイドステッチを入れたり、こうするとやりやすいなっていう自分なりの方法を編み出していって。本を作る過程や、本を出したあとのワークショップで、そのノウハウをお伝えする感じになりました。

‐‐繕うことを始める前と後で、ものの選び方や向き合い方に変化はありましたか?

この素材だったら直せるかもとか、そういう見方をするようにはなりました。あと、白いものが怖くなくなりました。しみが付いてもポケットとかでかわいく隠したり、白い糸で目立たなく直せることがわかったので。

‐‐購入されるときも、「繕ってでも着たくなるもの」を選ぼうと意識されたりしますか?

繕うことを意識するというより、自分のまわりに作家さんが多くなってきて、そういう方からものを購入することが増えてきたんですね。学生時代の友人が陶芸作家になったり、服や靴を作っている作家さんと知り合ったりして、展示会で買うことが多くなったんです。身の回りにあるものは、そういう人たちが作ったものになるので、やっぱり大事にしたいなって思いますよね。

‐‐自然と、長く使いたくなる大切なものが集まってきた、という感じですか?

タイミング的にそうだったのかもしれないですね。衣類に限らず、自分ができるものは直して、できないものは作った方にお願いしたりして、なるべくいいものを長く使うようにしています。 高価なものでなくても、自分が好きで着心地がよくてまた着たいものであれば、なんでも直すのがいいと思います。ワークショップでも、いらない服を練習用に持ってきたけど、手間をかけて直したら、また着たくなりましたっておっしゃる方もいらっしゃいますね。

大切にしているのは、「前よりもっと好きになる」こと

‐‐繕いものをされるときに、大切にされていることはどんなところですか?

“前よりもっと好きになる”というのはずっと一貫したテーマですね。気に入って買った靴下、大切に着ていたニット、そういうものに穴が開いてしまうとショックだけど、繕うことでもっと愛着が持てるようになったとか、かわいくなったとか、前よりもっと好きになれたらいいなっていう想いがあります。

‐‐“前よりもっと好きになる”って、すごく素敵ですね。

実は私自身が、お祝いでいただいた急須のふたを真っ二つに割ってしまったんです。すごくショックで、でも手放せなくて、ずっとしまっておいたんですけど、それを金継ぎの作家さんに依頼する機会があって、直していただいたんですね。そしたら、すごく素敵に仕上げてくださって。見た瞬間に、これは本当に世界にひとつで、直す前よりもっといい!と思ったんです。その時のうれしかった気持ちが、お繕いでもベースになっています。

‐‐ちなみに、これまでいろいろなお繕いものを手掛けてこられて、印象に残っているものはありますか?

自分のものより、本を出すときの作例にしたものや、ワークショップに持ってこられたものが印象に残っています。例えば、本を出すときの作例にするものは、服をお預かりするときに、その服にまつわるエピソードや思い出もお聞きするんです。着心地が好きだったとか、またこれを着て何をしたいとか、お父さんが買ってくれた形見ですとか。そういう思い出に寄り添いながら、繕ったあとまた大切に着たいと思ってもらえるように、贈り物を選ぶような気持ちで糸の色なども慎重に選びました。

ワークショップでも、いくつも穴が開いてしまったワンピースをお持ちになった方がいて、黄色い羊毛でニードルパンチの技法で穴をふさいだんですね。それが、ミモザのお花を散りばめたみたいですごく素敵になったんです。参加者さんも、前よりかわいくなった!って喜んでくださって。

繕うことで、本当によかった、また着れます!って言っていだけるとすごくうれしいし、自分のものだけ直していたら経験できなかったことかなと思います。

‐‐それぞれ思い入れがあるからこそ、そこに寄り添ってお繕いされるんですね。

そうですね。本の中でも紹介したんですけど、屋台で焼きそばを食べていてソースをこぼしちゃったお洋服を、ちょっとエレガントな感じに直したんですね。ダメージをなかったことにはできないんだけど、あのとき屋台で焼きそば食べたなとか、思い出も一緒に閉じ込められるんです。捨ててしまうともう見ることもないんだけど、繕うことで、その時のことを思い出せたりするのもいいなあって。

‐‐ただ着られるようになるだけじゃなく、その服が特別な存在になりますね。繕うことでステージがひとつ上がるというのが、魔法みたいだなと思いました。

「アンラッキーをラッキーに変える」っていうのは、よく言いますね。ダメージをなかったことにはできないけど、チャームポイントに変えて、世界でひとつのオンリーワンにすることができると思っています。

前よりもっと好きになるために、素敵に仕上げるコツ

‐‐これからお繕いを始める上で、失敗しない秘訣や、上手に仕上げるコツなどはありますか?

繕う前に、イメージすることですね。どうしてこの服が好きなのかとか、これからどういうふうに着たいのか。例えば、私は白いエプロンにしみができたときに、白だけで直したんです。これは白いエプロンだから好きなのであって、もし緑のワンポイントが入っていたら選んでいないなと思って。

‐‐なるほど!つい欲張って、かわいくしようと思ってしまいがちですが、そういうことではないんですね。

本当にこの色の組み合わせでいいのかな、愛着を持って着られるかなって、そこは真剣に考えますね。だから、構想には時間をかけます。それでも、あれ、違うかも?ってほどくこともあるんですけど。 コツとしては、最初のうちは、あまり突飛な色を選ばずに、そのお洋服の柄に使われている一色を選ぶのがいいと思います。

あとは、目をそろえたり、ステッチの間隔をそろえたり、ていねいに仕上げること。やっつけで直してしまうと、やっぱり着たくなくなるんですよ。仕上がりがきれいだと、着ているときや洗濯のときも楽しくなるので、そこは気を付けてもらうといいかなと思います。

‐‐ちなみに、ご自身のものは、どんな感じでお繕いされるんですか?

自分のものは、実験みたいなことをしたりして(笑)。この穴をこうして直してみようとか、練習的な感じです。長く着ているのは、シルクのレギンス。すごく気に入っているんですけど、廃盤になってしまってもう購入できないので、何度もがんばって直してます。とてもお見せできませんけど(笑)。

‐‐では最後に、これからお繕いを始める方へ、メッセージをお願いします。

本当にいつからでも手軽に始められるので、「直したい」っていう気持ちを大切にトライしてほしいです。自分にとって心地よくてまだ着たいものがあれば、生地がしっかりしているうちに、直すのがおすすめです。針を持って集中する時間って、忙しい一日のなかでもリフレッシュになると思うんですね。だから、楽しみながらやってもらえたらいいなと思います。

やってみよう

ミスミさん監修クチュリエの「お気に入りを長く使いたい 素敵な大人のための繕(つくろ)いレッスンの会」。いろいろなダメージをチクチクっとかわいくお直しできる繕いレッスンです。

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みんなの感想みんなの感想

  • 1. おきくさん 2023年02月28日 10:24

    ダーニング、ちょっとやってみようかなという気になりました!

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