2021.7.14
「チャイルド・ケモ・ハウス」は、小児科医の楠木重範さんが“小児がんにかかった子どもとその家族ができるだけ日常に近い生活を送れるような環境作り”をしたいと2013年、多くの人の支援と賛同を得て神戸のポートアイランド内にオープンしたアットホームな療養施設。大きな窓から日差しがたくさん差し込む、居心地の良い自宅のような施設を作った理由とは? 施設の立ち上げメンバーの一人である小児科医の楠木重範さんに、闘病中の子どもたちとその家族が直面する現状と課題についてお聞きしました。前後編の2回に分けてお届けします。
話し手・楠木重範(チャイルド・ケモ・クリニック 院長|小児科専門医)
聞き手・豊川紗代(YOU+MORE! プランドマネージャー)
自宅にいる時と同じように各部屋にキッチンがあって、お風呂があって、当たり前のようですけど、こういう療養環境ってなかなかないですよね。
小児がんになった子のお母さんは、狭い付き添いスペースに簡易ベッドを置いて寝ているのが闘病生活の現実というか、それが普通の風景なんですね。当然ながら日常とは違う大変な生活を送ることになりますから、その環境を変えていきたいと思いました。
僕は小児がん専門の小児科医ですが、小児がんは2つの特徴があって、まずは長期の療養が必要になるということ、それから抗がん剤の影響で免疫機能が低下しますから、感染予防を徹底しなければならないということです。
そういう難治性疾患の子どもたちの療養生活をより良くするにはどうしたらよいか、をテーマにしています。
うちの子がアレルギーでアナフィキラシーショックが出た時、1週間だけ入院したことがあるのですが、もうヘトヘトだったんですね。長期入院されているお子さんのお母さんもトイレの洗面で髪を洗っていたりして、とても疲れている感じでした。
これだけ医療が進んだ今でも、そういう状況は変わっていないのですか?
患者のお子さんのご家族が医療の対象になっていないという現状がありますね。
僕が勤めていた大学病院は、付き添いのお母さんが週3回、時間を決めてシャワーを浴びるスペースが一応あって、僕らが日中病棟を歩いているとタオルで髪の毛を拭いているスッピンのお母さんとすれ違うわけですよ。それが日常でした。
別の病院ではシャワースペースもなかったので、近所の銭湯を紹介していました。付き添いベッドを置くスペースもなく、子どものベッド脇で寝るしかない病院もあります。でも、これは病院の物理的なスペースの問題でもあるんですよね。
ハード面の解決は難しいので、こうした施設(チャイルド・ケモ・ハウス)の開設を目指したということはありますね。
思いの実現はなかなか難しかったと思うのですが、どうしてここまでできたと思いますか?
はっきり言って“運”は大きいです!(笑)。僕が何をがんばったということはあんまりなくて、いろんな方が共感してくださって、ご支援いただきました。
施設の清掃や、植木のメンテナンスも、いろんな企業さんがかかわっているのですよね?
夏の植栽管理はものすごく大変なんですよ。高木も結構ありますし。阪神園芸さんがそうした木の剪定や芝刈り、草むしりなどのメンテナンスをボランティアで行ってくださっています。12月はクリスマスモールの設置もしていただきました。
この施設は日差しがたくさん入るように大きいガラスがいっぱいあるんですけど、それも関西ガラス外装クリーニング協会さんがきれいにしてくださったり、いろんな方が陰で支えてくださっていて感謝しています。
人のつながりが大きいですね!
はい。うちの場合、特に個人の方のご支援が多いのが特徴だと思います。小児がんは年間1万人に一人が発症する病気で、年間の発症者は二千人くらい。そのうち約7割が完治します。
そうなると20代から40代のおおよそ800人に一人くらいが小児がん経験者で、身内に闘病経験者がいる人は、実はけっこういるわけです。人の一生で考えると、がんは二人に一人がかかる病気で、大人でも治療が「しんどいわ〜」となるはずですが、その経験を子どもがしていると想像することで共感していただくこともあります。
身近な人が闘病生活を送っていても、なかなか人に相談したり、大変だと言いづらい病気ですから、経験者やその身内の方たちに共感してもらったり、支援してもらう心強さはあると思います。
それは、本当にもう“共感”ですね! 個人の方のご支援が多いことは知りませんでした。
ええ、うちはビッグスポンサー一社とかではなく、たくさんの個人の方から支援していただいているというところで企業の方からも信頼をいただき、支援につながる。そういう流れになっているところがあるんですよ。
profile
楠木重範さん
中学2年生の時に、小児がんの一種「悪性リンパ腫」を発症。合計約3年の闘病生活の後、治癒する。1999年小児科医になり、大阪大学医学部附属病院小児科に入局する。その後、医療者、患者家族とチャイルド・ケモ・ハウス活動を開始。子どもがガンになっても笑顔で育つ社会を目指し、病気になった患者だけではなく家族も支える医療が広まるための活動を続ける。
profile
豊川紗代
生活雑貨の商品企画プランナーとして経験を積み、2013年にYOU+MORE!ブランドを立ち上げ。現在は猫部やインテリア雑貨グループのリーダーをしながら、水族館や動物園とともに新たな価値を生み出す試みに取り組んでいる。
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みんなの感想
1. ReiReiさん 2021年07月14日 13:06
家の近所にこのような素晴らしい病院があるなんて、全く知りませんでした。家族と一緒に過ごせる病院。落ち込みも悲しさも苦しさも軽減されますね。そして、院長先生のおっしゃる、完治するのお言葉は、力強く、勇気をいただけますね。うちは今のところおかげさまで、病院しらずですが、家族に何かあれば、是非お世話になりたいです。
2. くまみみさん 2021年07月22日 15:21
今 通院の放射線治療が終わり 入院での 抗がん剤治療中で、あと1回。1ヶ月に1週間の入院治療を5回の予定で、ガン治療中です。コロナでお見舞いや付き添いが無いのは 大人の私にとってみれば、静かでいいのですが、子供達にすれば そばにいつも親がいないのは 病気より辛いかもしれません。薬は良くなっても…。 甘えたい時に甘えられる身内が いつも居てくれる方法を もっと増やして、しかも 無料で スタンダードな状況にしたいです。住んでる県や市と 治療する病院の所在地が違うと 恩恵を受けられないのも きびしいと思います。
3. サラのママさん 2021年10月23日 12:01
娘が5歳の時、インフルエンザ脳症で約1ヶ月入院生活しました。
今回のお話を読んで、その頃のことをを思い出しました。
入院生活中はいつまでこの生活がつづくのか、また元のように家族で過ごせるようになるのか、不安で押し潰されそうでした。
病気は違っても、子どもを思う親の気持ちは同じです。
どうか、病気と戦う子どもさんとご家族を支えるこの活動が、これからも広がって行きますように。
私も微力ですが、出来ることを始めていきたいです。