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森山未來の使う/使わない Vol.2

2021.12.10

森山未來の使う/使わない Vol.2

からだの感覚を大切にするがゆえに便利なものを「使わない」森山さんに、vol.2では、身体を使った表現活動についてお聞きしました。森山さんは、20代中盤で既存のダンススタイルにとらわれないコンテンポラリーダンスと出会い、自分なりのダンス表現を模索。2013~2014年に滞在したイスラエルでの経験が、その後の表現活動に大きな影響を与えたそうです。

profile

森山 未來(もりやま みらい)

1984年、兵庫県生まれ。幼少期からさまざまなダンスを学び、15歳で本格的に舞台デビュー。ダンスで培った表現力をベースに、映像、舞台、パフォーミングアートなど、カテゴリーにとらわれない表現活動を行う。2013年には文化庁文化交流使として1年間イスラエルに滞在。日本だけでなく、海外にも活動の場を広げている。

演じることと、踊ること。

日本人の場合は、演劇にしてもダンスにしても、ベースに「器」感が存在しているように思います。神事を起源にもつ日本の芸能において、演者は「器」だという考え方。能にしても、この世界にいないはずのものを人間のからだを容れ物にして降ろしてきますよね。

イスラエルのダンスカンパニーにいたときに、自分の踊りが異質だと気づいたんです。その理由は何かと考えたときに、日本人特有の「器」感があるのではないかと。ヨーロッパでは実存主義的な考え方がベースにあって、パフォーミングアーツにおいても「ここに私がいる」という自身の存在の圧倒的な強さが現れていた。でも自分はそうじゃない、と気づいたときに、その違いに興味を持つようになりました。

日本の俳優の中には、自分自身を空っぽにして、自分じゃない何かがここにいた、という役への向き合い方をする人がいます。僕もかつてはそういう風にやってきた感じはあるけれど、そこに空虚感も感じていたんです。

役者とダンサーで違いがあるとすると、役者の場合は、例えば殺人者や浮浪者など、ある意味いくところまでいく役がある。肉体も精神もズタボロになるところまで持っていかなくてはいけないとなると、演じる自分自身の身心のバランスが崩れることもままある。でも、ダンサーは日常でいくら精神的に不安定だったとしても、最終的には自分のからだを立たせないことにはパフォーマンスが成立しないから、首皮一枚のところでからだとメンタルがつながらざるを得ない。

ダンスの側面からも演じることを見てきたこの10年は、自分を空っぽにして役を入れるのではなく、その時々にある自分のからだの状態で演じられる方法を探してきたように思います。今は役を演じているときに、自分自身がそこにある感覚がない、ということはない。役によっては自分の人生では出会わないであろうシチュエーションや言動をとるキャラクターもいますが、日本人の特徴である器感は意識しつつも、自分自身を完全に失わない距離感で役にアプローチするようにしています。

惹かれる役とは?

物語は、登場人物に善人、悪人といった色付けをして、ストーリーを転がしていくわけだけど、善人ですと言われている人の善人性ってなに?と思う。ストーリーの中の誰かの視点から見るとその人はやさしい、というのは演じてみると疑わしい。悪人もしかり。世間で悪人と言われている人の中から、悪人じゃないところを探すことの方が魅力的だったりする。その人だって、悪事を働こうとしてずっと生きてきたわけじゃないし、中身を知った上でなぜ悪人と呼ばれてしまっているのか、悪人的な振る舞いをしてしまっているのか。そこをとらえることにおもしろみを感じます。

撮影や舞台が終わった後、役を引きずるか?ですか。引きずるというより蓄積されていくという感じかな。仮初めでも一定の期間、自分のメンタルからは生まれ得ない行動様式を通ることで、自分の中でも発見がある。逆にこういう行動をとることでこういうメンタルになるんだ、とか。そういう発見は実生活にも地続きでつながっていく感じがします。実生活では出会いの中で行動様式が変化していくと思うけど、それに似ているかな。

からだを使えばこそ、頭もことばも使う。

ヨーロッパでダンス作品に参加しておもしろかったのが、抽象的な作品を創っているにもかかわらず、振付家は作品のひとつひとつや部分部分、大きなコンセプトひとつに対しても、すべてに説明できることばを持っているということ。抽象的なものにもロジックで作品を結び付けられる技術があるというか、そういう考え方があるということを新鮮に感じました。

例えばジャズダンスなら、見ている人もジャズダンスを見ているという共通認識があるから、むずかしくならないけど、ルールのない身体表現はものすごく抽象的になる。だからそこにどうコンセプトを持ってくるのか、どういうロジックでお客さんと接続していくのかということにことばを意識的に用いています。でも、作品はロジックだけではおもしろくないので、直感的な動きも必要になってくる。論理的な動きと直感による動きのバランスを遊んでいるというのかな。

撮影場所:淡路島洲本市、farm studio テーブルと燕 撮影場所:淡路島洲本市、farm studio テーブルと燕

「森山未來の使う/使わない」他のエピソードはこちら

森山未來の使う/使わない Vol.1

森山未來の使う/使わない Vol.3

 

STAGE
『Newcomer/Showcase#3
森山未來×国内ダンス留学@神戸7期
Re: Incarnation in Nagata』
森山未來が振付を担当した若手ダンサーたちの舞台。
出演/秋田乃梨子 石山樹野 川崎萌々子 楠田東輝 久保亜樹子 小松菜々子
2022年1月21日(金)・22日(土)
▼ArtTheater dB KOBE 前売2,500円
▼お問い合わせ:http://db-dancebox.org/
 078-646-7044(NPO法人DANCE BOX)

ARTIST IN RESIDENCE
アーティストサポートプログラム『エラ・ホチルド×中野信子×森山未來「Dance of Death」(仮)』
来秋に控えた新作公演のリサーチ&クリエーションのための公開イベント。
出演/エラ・ホチルド 中野信子 森山未來他
2022年1月9日(日)・11日(火)
▼デザイン・クリエイティブセンター神戸 無料(事前予約)
▼会場お問い合わせ:http://kiito.jp/
 078-325-2235(KIITO)

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みんなの感想みんなの感想

  • 1. sanneyさん 2021年12月11日 18:34

    人との出逢いと同じく「役」との出逢いにも発見があり、それが蓄積されていくというところが興味深かったです。
    人との出逢い、役との出逢い、本との出逢い、自然との出逢い…様々なことから吸収していく人ですね。

  • 2. うちのすけ。さん 2021年12月15日 11:59

    間違ってたらごめんなさい。

    本文:そこをとらえることにおもろしみを感じます。

    〈おもろしみ〉って合ってますか?

  • 3. more felissimo編集部さん 2021年12月15日 13:48

    うちのすけ。さま
    コメントありがとうございます。訂正いたしました。

  • 4. 風見鶏食堂唐揚げ大盛さん 2021年12月19日 15:54

    記事を読んでいると、以前にドラマで現代へタイムスリップした特攻隊員の役をされていた時の姿が浮かびました。物は大事に使えば最後まできちんと使えるという趣旨のセリフが特に印象に残っています。
     便利さに頼ると、身体能力が退化するのではと気になってはいますが何も変えられずにいます。
    森山さんがキッパリと使わないモードに変えたことは、周りに合わせるだけに囚われない強さでもあると感じました。少しずつでも見習わせていただきたいです。

    神戸に事務所をかまえるとのこと。
    出身地が同じで、以前から応援させていただいていたので、わあ~お帰りなさい!という気持ちです。ご活躍を楽しみにしています。

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