身近な草花の小さな輝きを刺しゅうに託して

2024年3月11日(月曜日)

季節のうつろいや身近な自然をいとおしむ、刺しゅう作家の亀田 陽子さん。感性のフィルターを通して布の上に表現された小さな草花の刺しゅうからは、亀田さんの豊かなまなざしが伝わってくるようです。小さな自然の美しさを感じるよろこびと、描いたイメージを刺しゅうに変換する楽しさについて、たっぷりお話をお聞きしました。

 

針と糸で描き出す小さな自然の美しさ

身近な季節の草花をモチーフに。ブローチやネックレスなど、身につけられる形に仕立てることが多い。

タンポポ、スミレ、ヒメジョオン。近所の花壇で見かけるチューリップや、湿った木陰でひっそりと顔を出すキノコたち……。亀田 陽子さんの刺しゅう作品を眺めていると、身近な草花の美しさとその奥深さに改めてハッとさせられます。うっかりすると見過ごしてしまいそうな、暮らしのすぐそばにある小さな自然のきらめきこそが、亀田さんとっては何より大切なインスピレーションの源。季節をうつろう植物の姿を、次々と小さな刺しゅうに表現していきます。

 

定位置はリビングの食卓。昼間は刺しゅうをし、家族が寝静まった夜に図案を描くのが何よりの楽しみ。

「緑豊かな栃木県日光市で育ったこともあり、幼少期から自然は身近な存在でした。東京に越してからは、都会には自然が少ないなどと思っていましたが、都市公園や植物園など、どこにでも自然は見つけられることを知りました。マイフィールドは近くの都内最大規模の水元公園ですが、身近な植物を深く観察する楽しみに出会い、意識を向ければいつだってすぐそばに自然の営みが満ちていることに気がつきました。季節は日々変わってゆくから、毎日が新たな発見の連続。近所の土手やスーパーまでの道にも豊かな気づきがあふれているので、日々、カメラを片手に散策をしています」

 

お気に入りの作品は、いつでも眺められるよう壁に飾って。

少女時代から折りにふれて刺しゅうを楽しんできたものの、それを仕事にするとは思っていなかった亀田さん。子育てがひと段落したのを機に、「やっぱり好きなことをライフワークにしたい」と思い立ちます。

実在する草花をデフォルメして図案化した作品。亀田さんの自由な表現力が光ります。

「まだ若かったころ、体調を崩して未来に漠然と不安を感じたことがあったんです。その時、私を癒やしてくれたのが刺しゅうでした。針と糸さえあれば手軽にできて、布地の感触や糸の音が心を静めてくれ、小さなものなら1時間程度で完成させられる。そんな喜びの感覚が、ずっと心の隅に温かく残っていたんです。さて、なにを刺そう?と考えたとき、やはり自分には自然しかなかった。大好きな草花をモチーフに、『季節を切り取る刺しゅうを届けたい』、と思うようになりました」

 

 

ワークショップ用の作品見本。毎回、初心者の方が2時間半で完成させられるように図案を考えます。

刺しゅうを本格的に始めてからすぐにぶつかったのは、頭の中にあるイメージ通りに表現できないもどかしさでした。 「あのとき見た花が私にはこんなふうに輝いて見えた、こんなに美しく感じられた、という確かなイメージを表現したいのに、技術が全然追いつかなくて。私の刺しゅうは独学だし、デザインの勉強もしていないので、生地、配色、糸の幅など、とにかくいろいろ試してみて、どうやったら自分のフィルターを通した表現を形にできるかを探し続けました」

 

朝から晩まで刺し続けるトライ&エラーの日々。「もうそのへんにしておけば?」と家族に心配されながらも、亀田さんは一歩ずつ前へと進んでいきました。 「自分の未熟さに涙が出ることもありますが、あきらめずに繰り返していると、ある日突然『あっ、これだ!』と思えるスタイルが見つかるときがある。何ものにも代えがたい、至福の瞬間です」

刺しゅうの楽しさを多くの方と共有したい

亀田さんが一年をかけて観察した四季折々の雑草を一枚の布に表現した作品。「道に生えている雑草」と「道草の時間」をかけて「みち草刺繍」と命名。

ブランド名の「アオドア」は、亀田さんの自宅にある、青いドアが由来だそう。 「ドアを開けて一歩踏み出せば、その先には季節のメッセージや小さなよろこびが待っているよ、という意味を込めました。私自身も文字通り、小さなドアを開ければその先にまた小さなドアが現れるように、ひとつひとつのご縁がつながってここまで続けて来られたと思っています」

 

「みち草刺繍」

最初の転機は、素敵だなと思ったカフェに初めて入ったとき。たまたま交わした店主さんとの会話から、お店に作品を置かせてもらえることになったこと。さらにワークショップをやりたいと相談してみると、こちらも快諾。4人から始まった小さな教室は、じわじわ参加者を増やしながら、ついに7年目を迎えました。

 

図案と完成品を並べて。頭の中に浮かんだイメージを試行錯誤しながら形にしていきます。

「私にとって癒やしであり、喜びでもある刺しゅうの楽しさをみんなで共有したいという思いをずっと持っていたので、ワークショップや刺しゅう教室は自分にとって大切なライフワークのひとつです。忙しい中時間を作って来てくださる参加者のみなさんと一緒に刺しゅうをして、お互いにほめあって、最後には達成感に満たされて。完成した作品をみなさんとめでるときには、いつも感動で胸がいっぱいになるんです。刺しゅうは難しそう……とためらわれていた方でも「自分が作ったものは、どんなできばえでもかわいい! 楽しい!」と言ってくださったり、マダムクラスの生徒さんから「この歳になってこんなに楽しい時間を持てるとは思わなかった」と声をかけていただいたことは、うれしくてずっと心の支えになっています。生徒さんたちが楽しみながらどんどん刺しゅうの腕を上げていく様子を見ていると、私自身も学ぶことが多く、気持ちが引き締まります」

 

バードウォッチングも長年の趣味。図鑑・双眼鏡・カメラの3点セットが必需品。
自然観察は生活の一部。季節のうつろいや野鳥の動向を追いかけます。天気のよい日は公園で刺しゅうをすることも。

『クチュリエ2024年春夏号』で新登場の「可憐な草花をお守りのように身に着ける 刺しゅうのミニがまぐちの会」は、草花の刺しゅうをがまぐちに仕立てる楽しいキット。亀田さん監修ならではの、小さくて美しい世界観が印象的です。 「完成した作品を身につけて一緒にお出かけできるのって素敵ですよね。かわいくて実用性もあるがまぐちを、ぜひ楽しみながら作ってみてください!」

 

刺しゅう作家  aodoa / 亀田 陽子さん
幼少より手づくりに親しみ2017年よりaodoa(アオドア)として活動。四季折々の都市公園や里山など身近にある自然を深く知る「自然観察」に魅了され、観察しスケッチしたものを図案にし、大人の装いのアクセントになる刺しゅう小物を提案。季節感のある刺しゅう小物を2時間半でつくる「季節の刺繍ワークショップ」も人気。

Instagram:@ aodoa_
HP:http://aodoa.work

本記事で紹介した商品はこちら

可憐な草花をお守りのように身に着ける刺しゅうミニがまぐちの会

亀田さんならではの感性で表現されたみずみずしい草花の刺しゅうのキット。お守り代わりにネックレスとして身に着けられる、小さながまぐちが完成します。

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