フェリシモCompany60th

チャレンジドの持つ個性や能力を価値として世に送り出し、障がいや生きづらさの困りごとを企画で解決する「C.C.P(チャレンジド・クリエイティブ・プロジェクト)」にまつわること。

フェリシモのC.C.P(チャレンジド・クリエイティブ・プロジェクト)は、ものづくりを通して、障がいのある人もない人も、だれもがボーダーレスにつながる社会の実現を目指すプロジェクトです。

2003年にスタートして以来、障がいのある方やご家族などの当事者性を大事にしながら、福祉事業所(就労継続支援B型事業所など)、クリエイター、メーカー、NPO、プランナーなど、多くの人と関わりながらものづくりを手がけてきました。

そして、福祉事業所とのものづくりをベースに、昨今では、発達障がいあるいはその傾向がある方たちのニーズをかなえるグッズ企画や、アートを通してチャレンジドの可能性を広げるプロジェクト、行政とのコラボレーションなどを展開しています。

プロジェクトが始まってから20年以上がたつC.C.P。その軌跡をたどりつつ、プロジェクトの現在地と、未来について、プロジェクト推進担当の景山文乃さんと企画担当の武輪幸之介さんにお聞きしました。

話し手: 景山文乃さん、武輪幸之介さん
聞き手:フェリシモしあわせ共創事務局

Q1、2024年にリリースした「日常美術館」では、作家さんの技法や思いを伝える動画を商品とともにお届けしていますね。まず、この取り組みについて教えてください。

武輪:まだ小さな日本のアート市場のなかで、いかにして日常のなかにアートを取り込んでいけるだろうかと、このプロジェクトのアドバイザーであり「世界ゆるアート協会」代表の澤田智洋さんと一緒に考えていきました。その中で「日常美術館」という言葉をご提案いただき、商品化に向けて取り組みました。「アートと暮らしをつなぐ 日常美術館 チャレンジドアートハンカチの会」は、6人のチャレンジドによって描かれたダブルガーゼ素材のハンカチを、別売りの額縁におさめ、付属のタイトルプレートを添えて飾ると、さながら美術館の展示のような雰囲気を楽しんでいただける商品です。たくさんの作品の中から、独特な色遣いや特徴的な技法の作家さんの作品を選ばせていただきました。額縁も福祉事業所で作っていただいています。さらに、制作風景の動画が見られる二次元コードが付いており、読み取ると、作家さんが描いている姿や人となりをみることができます。

Q2、ドキュメンタリータッチの素敵な動画です。オリジナリティあふれる創作方法、純粋に作品作りを楽しんでいらっしゃる様子が印象的でした。この動画のねらいは?

景山:私たちC.C.Pのメンバーが作家さんのもとへ取材に伺い、制作中の様子を見せていただき、どういう意図で作っていらっしゃるのか、どんな思いを込めていらっしゃるのかを取材しました。その取材内容をもとに編集して、澤田さんのコメントを乗せた構成で、美術館で聞く音声ガイドをイメージして作りました。

武輪:普段のものづくりにおいても、作家さんたちと密に関わってはいるものの、個人の生活に密着してその創作風景を目の前で見るのは初めてだったので、私自身もより作家さんへの愛着が深まりました。

景山さん(左)と武輪さん(右)

景山:商品の一部として、作家さんのリアルな姿をお届けすることは私たちにとって新たな試みでした。おかげさまで、SNSで動画を発信すると、特に福祉事業所の方から多くのリアクションをいただきました。C.C.Pとしては、作家さんの背景を伝えきれていないところが課題だと感じていたので、新たな切り口を広げる突破口になりました。これをきっかけに、いろいろな商品でストーリーを伝えることを続けていきたいと思っています。

作家さんに出来上がった商品を持っていくと、「すごくうれしそうで、全身でよろこびを表現してくださったことがとても印象的でした」と言う武輪さん。作品作りを通して、作家さんとの関係性もより深まったようです。
作家さんに出来上がった商品を持っていくと、「すごくうれしそうで、全身でよろこびを表現してくださったことがとても印象的でした」と言う武輪さん。作品作りを通して、作家さんとの関係性もより深まったようです。

Q3、作家さんの生活や思想を知ることで、作品への興味も深まりますね。「LITALICO発達ナビ」(*1)さまと、発達障がいがある方の暮らしをサポートするコラボ企画、スペシャルニーズサポートについて教えてください。

武輪:発達障がいがある方はもちろん、診断が出ていないグレーゾーンの方にも使っていただきたいバリアフリーの商品を開発しています。例えば、「LITALICO×C.C.P 腕に巻いていつでもやること確認 文字が書ける外れにくいタスクリストバンド(紙)の会」は、忘れ物防止やタスク管理ができる“タスクチェッカー”です。テープをちぎって、粘着面をあわせるとぴたっとくっつく構造になっていて、油性ペンで文字を書くことができます。世の中には、シリコン製リストバンドの “タスクチェッカー”はあるのですが、発達障がいがある方にとっては腕にずっとついている状態がストレスになったり、簡単に外せてしまうとどこかに置き忘れてしまったりすることがあります。そこで、あえて紙で作って使い捨てにすることでなくしたときのダメージを最小限におさえ、かつ、心理的に外しづらい状態になっているところがポイントです。

(*1)LITALICO発達ナビとは、発達が気になる子どもの保護者や支援者向けのポータルサイトです。

「LITALICO×C.C.P 腕に巻いていつでもやること確認 文字が書ける外れにくいタスクリストバンド〈紙〉の会」は腕につけたまま書けます(左) 写真右の「LITALICO×C.C.P 手荷物まとめるゴムホルダー」は、マフラーやアウターなど外出先で脱いだものをハンズフリーで持ち運べて忘れ物を防ぎます。
LITALICO×C.C.P 腕に巻いていつでもやること確認 文字が書ける外れにくいタスクリストバンド〈紙〉の会は腕につけたまま書けます(左) 写真右のLITALICO×C.C.P 手荷物まとめるゴムホルダーは、マフラーやアウターなど外出先で脱いだものをハンズフリーで持ち運べて忘れ物を防ぎます。

Q4、このシリーズは、当事者やご家族、医療従事者の方々にヒアリングをしながら企画をされているんですよね。普段の商品企画とどのような違いがありましたか?

武輪:当事者やそのご家族にヒアリングを重ね、使う人のリアルなお声を商品に反映しているので、より実用性の高い商品づくりが実現しています。座談会形式で直接ヒアリングをしたり、LITALICO発達ナビさんのホームページの中でWebアンケートも取ったりしています。また、開発期間も他の商品と比べて長く時間をかけています。さらに、放課後等デイサービスの職員の方に身に付けて使っていただいた際に、「活動中の利用者さんの様子などについてササっとメモが取れて便利」というお声をいただき、あえて用途を絞りきらずにモニター的に使っていただくことで用途が広がっていると感じています。

Q5、当事者の方にしかわからない使いやすいポイントがいくつもあるのですね。2019年に誕生した「LITALICO×C.C.P リュックの中身を整理整とん メッシュリュックインナー」がリニューアルしたそうですね。

武輪:リュックの中がごちゃごちゃして必要な荷物がどこにあるのかわからないという悩みを解消するためのメッシュ素材のリュックインナーです。商品を見直すにあたり、大人の発達障がいがある方にも実際に使っていただき、その声をもとにリニューアルしました。大人の発達障がいについては、なかなか声を上げづらく、自分の努力や工夫でなんとかしないといけないところがあるんですよね。そうした現状をなんとかしたいという思いもあったんです。

かゆいところに手が届く「LITALICO×C.C.P リュックの中身を整理整とん メッシュリュックインナー」。なお、大人の発達障がいがテーマのフリーペーパーを制作する「凸凹といろ。」さんにもご協力いただき、大人の当事者のご意見もお聞きしました。

これまでも少しずつリニューアルしていたのですが、今回のような大幅な改変は発売以来初めてです。例えば、カラー。もともと子ども向けの商品でヴィヴィッドなカラーがメインだったのですが、大人も使いやすくしたいということでパステルカラーに。また、ポケットの仕様も変わりました。ファスナー付きの大きなポケットはもともと中が見えないようになっていたんです。しかし、実際に当事者に旧商品を使っていただくと、「そこに何が入っているのかわかる」方が使いやすいということで、視認性を高めるために全面見えるようにメッシュ素材にしたことも大きな変更点です。

景山:大人へと対象を広げたことで、スマホやモバイルバッテリー、A4サイズの資料がたくさん入るようにしたり。子ども向けという視点だけでは気づけなかったポイントが多々ありました。実はこの商品、発売当初、SNSですごく話題になったんですよ。特に発達障がいと診断をされていなくても、忘れっぽかったり整理整とんができなかったりする大人の方たちにも響いたところがあるようです。こうした大人向けの商品開発ももっと手がけていきたいところです。

Q6、続いて、ディック・ブルーナのイラストをあしらった商品について教えてください。

景山:「CCP×ディック・ブルーナ バリアフリープロジェクト」という、こころのボーダーをなくそう!とのコンセプトを掲げた活動で、車いすが必要なお子さまを育てる meet me egao さんと共同企画をしているシリーズです。この企画を手がけるメンバーには、それぞれチャレンジドのお子さまがいらっしゃって、家族としての思いや当事者としての実感が込められた商品を展開しています。

例えば、「CCP×ディック・ブルーナ バリアフリー カードも入る両面窓の手帳ケース」。障がい者手帳を持たれるということは、その現実と向き合うことと同義なんですよね。毎日持ち歩くものですし、できるだけポジティブな気持ちで手帳を持っていただきたいという思いから誕生し、長く愛され続けている商品です。また、車いすにつけるワッペン「CCP×ディック・ブルーナ バリアフリー ロッテ まあるいふわふわワッペン」は、子ども用の車いすのことを知ってもらうために開発したもの。子ども用の車いすは、その存在を知らないと大きめのベビーカーに見えるんです。混んでいる場所などに行くと、「畳んで」と言われてしまうこともあって。ですから、車いすであることを伝えるための啓発グッズとしての役割を果たしています。

たくさん荷物を入れられる「CCP×ディック・ブルーナ バリアフリー 車いすに掛けて使えるトートバッグ」も人気商品で、子どもの福祉用具展「キッズフェスタ」では一部カラーが完売に。(左)「ワッペンをコレクションしてくださる方もいて。商品を愛してくださっているのだなとうれしくなります」と武輪さん(右)

Q7、大人も持ちたくなるかわいさです。「C.C.P×ディック・ブルーナ バリアフリープロジェクト」では、行政とのコラボレーションも行われていますよね?

景山:神戸市さんといっしょに、2021年に、チャレンジドの方々に無料で配布するオリジナルの障がい者手帳ケースをつくりました。また、その取り組みを知った東京都の江戸川区さんがC.C.Pに声をかけてくださって、2024年には江戸川区の紋章の「江戸川ブルー」をイメージした藍色のカバーを一緒に作りました。

©Mercis bv 左が神戸市と制作したバリエーション豊富な手帳ケース。これまで8,000部ほどの手帳を提供しています。右は江戸川区の手帳ケース。

さらに、それがご縁となり「東京都『心のバリアフリー』好事例企業」に認定していただくことができましたし、先日は東京青年会議所さまの講演にて登壇もさせていただきました。こうした行政や団体さまとの取り組みをもっと広めていきたいです。

Q8:創立から20年以上にわたり、一貫して福祉事業所らしさを大事にしながらものづくりを手がけてきたC.C.P。最後に、今後の展望をお聞かせください!

景山:20年前は、チャレンジドが作った商品が100円などの廉価で売られているのが当たり前でした。けれど、今では適正価格で販売されることが多く、事業所も消費者もアートやものづくりに興味を持たれることが増えています。一方で、実際にその市場に乗れる事業所はまだ少ないのが現状です。私たちの知らないところで魅力的なものを作っている事業所はたくさんあるはずですから、もっと出会っていきたいですし、すでに市場に乗っている事業所とのギャップを埋めていきたいですね。

C.C.P 華やかなお花たちが彩る 手染めの本革フラワーマジェステの会」は、事業所にて葉やお花の形に切り抜いたヌメ革に、布やはけで染料を塗布することで繊細なグラデーションを表現しています。

武輪:すでに技術力や商品力が整った事業所を探すのではなく、可能性を秘めた事業所とともに育っていくことにこそ、C.C.Pの活動意義があります。事業所で実際に作っているところを見学させていただくと、最初に作業をする時と比べて、量産品になって上がってくる段階ではすごく練度が上がっているんですよね。いつも驚きます。今後も、メーカーや中間支援団体などと連携しながら、“まだ見ぬ作り手”のポテンシャルを見出し、魅力的なものを作る事業所の裾野を広げていきたいです。そして、障がいがあることを前に出すのではなく、個々の作品や表現のおもしろさが伝わる商品や誌面を作っていきたいと思います。

兼任でC.C.Pに携わるメンバーは現在10人ほど。創設メンバーが引退を迎えるなど、C.C.Pは組織としても転換期に。「C.C.Pが社会に対してどんな価値を届けられるのかを問い直しながら、あらゆる形で表現していきたい」と景山さん。
兼任でC.C.Pに携わるメンバーは現在10人ほど。創設メンバーが引退を迎えるなど、C.C.Pは組織としても転換期に。「C.C.Pが社会に対してどんな価値を届けられるのかを問い直しながら、あらゆる形で表現していきたい」と景山さん。

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