フェリシモCompany

100年先の森を思い、森と人との関わりをデザインする。お客さまとともに循環する森をつくる「フェリシモの森基金」とは?

三浦卓也さん

こんにちは、フェリシモ基金事務局のmotoです。

フェリシモの森基金」は、1990年にスタートしたフェリシモで初めての「毎月100円基金」です。お客さまから「自然環境のためになにかアクションできないだろうか」という切実な思いをお寄せいただき、活動がスタートしました。

その当時は、1992年にリオデジャネイロで「国連環境開発会議(地球サミット)」が開催され、1997年には「京都議定書」が採択されるなど、基金の設立は社会的に環境問題への意識が高まりはじめた頃でした。

基金により、これまで国内外でおよそ2700万本の植林を行ってきました。1999年から支援していたインドでは、砂漠が森になり、木には実がなり、農業が復活し、象の群れが帰ってくるという物語が生まれました。

そして、30年にわたり活動を続けてきた想いを受け継ぐのが、森を大切にする活動を行うために結成された部活動「森活部」です。「森活部」の部長として基金を活用した取り組みを行なっている三浦卓也さんにお話をお聞きしました。

話し手:三浦卓也さん
聞き手:フェリシモ基金事務局 

お客さまとともにはじまった、環境問題を考える取り組み

環境問題に興味関心が高まりはじめた1990年頃、フェリシモのお客さまから「人間の生活が環境を破壊をしているようで、なんだか気が重い……環境保全のためになにかできないだろうか」というお声をいただくことが増えていきました。そこで、お客さまとともにアクションを起こしていこうと、環境問題にアプローチした雑貨ブランド「ウォールデンクラブ」を立ち上げました。商品価格の一部を「未来の緑あふれる地球のため」に寄付をするというフェリシモで初めての社会貢献型のブランドで、その関連企画として誕生したのが「毎月100円基金」でした。お客さまのなんとか地球環境を守りたいという思いと、担当の森に対する熱い思いが企画を推し進めたと思います。その後、基金付きで生木のクリスマスツリーを販売したところ、たくさんの反響をいただき基金が募っていきました。お客さまからお預かりした基金を活用して、森に関する活動を行っているNPOさまなどとともに、日本やフランスなど国内外で植林を軸とした森づくりがはじまりました。その後、自然農法の第一人者である福岡正信さんとの出会いがご縁となり1999年にはインドでも活動をスタートしました。

フェリシモの森部活

植林がインドの農村復興の第一歩に

当時のインドは砂漠化が進み、深刻な状況でした。インドでは、育った木を切って薪にして使ったり、家畜の飼料にしていました。生活に欠かせないものですから、木を伐採しないわけにはいかないため、なかなか木々が育たず、森は減少していく一方でした。そこで、福岡さんとフェリシモチームは、福岡さんのアイデアで、泥団子に種を入れて空中から砂漠にまいてみようと提案したところ、インド政府に採択されました。しかし、現地で農村復興を行なっている「タゴール協会」の方たちからは、「農村の人たちが暮らしのなかで森を育てていくことが重要」とのご意見がありました。森作りにはとても長い時間がかかります。現地の農家さんが自分の手で植林することで、木々を大事にしようという気持ちを育む流れをつくっていくことこそが、真に求められている「農村復興」なのではないかということでした。そして何度も議論を重ねた結果、手法は異なるけれど「砂漠だらけのインドに緑を広げたい!」という思いは同じであることを双方で共有し、2つの方法での植林を行ってみることになりました。この時語り合ったことで、お互いの理解が深まり、その後、フェリシモと「タゴール協会」さまはインドの森づくりをともに行っていこうという協定を結びました。その際に間に入って動き回ってくださったのが、牧野財士さんでした。牧野さんは、農業指導のためにインドに渡られて、タゴール大学で教鞭を取られ、地域の文化の復興などにも尽力されておられた方です。次世代のために森をつくっていこうと、村の方たちに寄り添い続けてくださった方です。

インドの農村復興と植林について話す三浦さん

森を中心に育まれる、生命・生活・生業

インドの植林のスケールは壮大です。だからインドでは、現地の人たちが森のところどころに「FOR FUTURE GENERATION」との合言葉が書かれたフラッグを立てて士気を高めつつ、長期的に森づくりに取り組んでこられました。やがてインド政府も「タゴール協会」の活動を支援するようになり、インド各地でどんどん植林面積が広まってきました。森がよみがえることで農業が復興し、今ではマンゴーやカシューナッツの実が採れるようになり、農家さんたちの収入源になっています。

私が興味深いと思ったエピソードは、西ベンガル地方の村の方たちがその収入で寺院を建てたことです。なぜ寺院を建設したのかをお聞きすると、「森を守るためには、人々が精神的にuniteする(つながる)ための場づくりが必要」だからとのこと。寺院に地元の人たちが自然と集まって、どうやって森を守っていこうかと考え、行動する拠点になっているのだそうです。また、「タゴール協会」では、単なる森づくりだけではなく農村の復興支援の一環として、就労支援や、子どもや女性の暮らしをよくするためのサポート、地元の伝統文化の継承など、村をつくるために必要なあらゆることを複合的に行っています。インドの森は生活基盤をつくる大きな要素ですから、森が中心となって生命があり、生業があり、生活がまわっていく。森を中心に育まれる3つの「生」を取り戻す活動こそ、私たちが「タゴール協会」とともに目指したものだったんです。そしてやがて、見渡す限り砂漠だった場所が森になり、西ベンガル地方の村には象がかえる森が育まれていきました。

三浦さんも実際に訪れて感動で言葉を失うほどだったという、25年前は見渡す限り砂漠だったインド西ベンガル州の村の森
三浦さんも実際に訪れて感動で言葉を失うほどだったという、25年前は見渡す限り砂漠だったインド西ベンガル州の村の森

日本の森の本来の循環を取り戻すために

国内では、各地のNPOさんと連携して、基金の活用方法を考えていきます。森基金はもともと90年代に森林資源の不足を解消するためにスタートした企画です。しかし、時が経つにつれ森が抱える課題も変化し、人工林と天然林では必要な保全活動が異なります。現在は森林資源の活用と自然生態系の保全に尽力していこう、つまり、植えて終わりではなくて森を維持管理するための活動に基金を活用しましょうという方針に転換しています。日本国内の森には、人工林が約1000万ヘクタール、天然林が約1300万ヘクタールあります(注1)。実は森林面積は1960年頃からほぼ変化していないのですが、森林の蓄積量(いわゆる木の密度)は90年代から比べるとおよそ2倍になっているんです。

森林面積の推移
*注1:林野庁のデータより
森林蓄積の状況

これにはさまざまな原因がありますが、人工林の適切な管理がなされていないことが一因です。戦争で焼けてしまった山にスギやヒノキなどの建材に適した針葉樹が植林されました。一方、その木々が育つ過程で高度経済成長期に入り、木材の需要が急激に増えると、天然林の伐採が進み、国内では供給が追いつかなくなってきて安価な輸入材がどんどん入ってくるようになりました。やがて日本の林業は、木材を出荷すればするほど赤字になるというスパイラルに陥ってしまいました。手つかずになってしまった人工林の木々がどんどん成長して、森の密度がふくれあがっていったというわけです。人工林に生えている針葉樹は根っこが浅いので、木が大きくなると地盤が緩みやすくなり、今日の土砂災害の原因にもなっています。こうした森の資源を適切なタイミングで伐採して、商品化するなど活用して、森の循環を取り戻すお手伝いをすることが、フェリシモの森活部に求められているミッションだと考えています。

未来に森を残すクリエイティブな活動

2018年に岩手県でスタートしたのが「千年藝術の森」プロジェクトです。この森を持っておられる、500年の歴史を持つ「曹洞宗藤源寺」の住職さまが、敷地内の広大な森を針葉樹から広葉樹の森へ変えていきたいという思いを持っておられたんです。そこで、私たちは地元の人たちとともに植樹を行うワークショップを企画し、山で採れたものをシェフに料理していただいて、自然のめぐみをいただくイベントなども行っています。果樹を植えたので、参加してくれた子どもたちが大人になる頃にはシードルがつくれるかもしれませんね。そして最近はじまった新たな取り組みが、豊かな生態系を守り天然林を維持するためのプロジェクトです。神奈川県の三浦半島に小網代の森という場所があります。都心部から近い場所にある森なのですが、山から海までが連なっていて、山の上から川が流れ、湿地と森と川と海がすべてつながっているという世界的にもめずらしい場所です。美しい天然林には、ここにしかいない種類のホタルやカニなど2000種類以上の生物が生息しており、のびのびと暮らせる土壌があるんです。そういう生き物の宝庫を維持するために、流域全体を保全する活動や、美しい森の中を人間が歩けるように維持管理してくださっている方たちがいるんですね。森基金を活用して、そういった取り組みを応援する活動がはじまり、お客さまとともにワークショップ形式で整備活動を行っていきます。

広大な針葉樹「千年藝術の森」では、地域内外がからたくさんの方に集まっていただき植樹を行った

また、日本各地で木材活用の新たな取り組みが広がっています。例えば、神戸学校にも来ていただいた「VUILD」というベンチャー企業は、木材加工できる小型のCNCルーター(注2)を全国の林業産地に拡げています。デジタルデータを入力すればCNCルーターが切断してくれるというもので、全国各地の林業産地発で、木材をクリエイティブに扱う取り組みが進んでいます。私たちフェリシモの役割は、こうした木材を使ったクリエイティブな企画を林業産地の方たちとともに広めていくことだと思うんです。商品やものづくり、学びの場づくりを通して、まずは自然環境に興味を持っていただく入り口を増やしていきたいと常々思っています。

*注2:コンピューター制御の工作機械のこと

「森に寄り添う人」がいる、100年先の森

100年後、美しい森にしたいですよね。今の人工林を作った先代たちもきっと、孫世代が困らないようにと未来に思いを馳せながら植林をしてくれたと思うんです。私たちも、次世代のために、100年先の森をどうしたいのかを考える使命があります。そのためには、人工林を循環する森に変えていくこと、多様な生物が育まれる天然林を守っていくこと。この後の100年はこの2つの目標に向かって活動を展開していきます。現在は山だけではなくて自然の生態系が壊れていると言います。海に携わる方たちも危機感を持っておられて、「森は海の恋人です」という信念を持って活動している人たちがいます。ですから、切り分けて捉えるのではなくて、自然一帯で考えなくてはならない時代に来ているし、関わり方をデザインすることがフェリシモの役割だと思うんです。

森に関わるきっかけは、実は身近なところにあると思います。子育ての中で触れ合ったり、DIYがきっかけになったり、祖先が山を持っていること……だったり。そのきっかけをあらゆる方面から提案していくのがフェリシモだと思います。森の美しさは、現地で体感してもらえればわかります。実は私、最近、趣味で渓流釣りに行くんです。森があって、川が流れ、魚がいて、風が吹いた瞬間に葉っぱが落ちる。電波オフになった山奥で、竿を片手に静かに魚を待っているこのとき、私自身も自然の営みのなかに生きているんだな、と感じられるんです。きっと100年後には、ローカルと都会を行ったり来たりして、森とともにある暮らしがあたりまえになっていくのではと期待しています。薪を切って暖をとったり、あるいはテクノロジーが進化してセルフビルドで家を建てることが簡単になったりして、自然の中に身をおく時間が増えて、新しい里山みたいなものが増えていくのかもしれません。森に寄り添う人が増えて、森とともにある暮らしがあたりまえになっているといいですね。

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