ものづくりは一期一会。絵画のように自由なスラッシュキルト

2021年12月28日(火曜日)

カラフルでいて大人っぽい独特の色遣いと、心までやわらかくなりそうなふわっふわの手ざわり。「スラッシュキルト」と呼ばれる技法を用いた生地を使い、オリジナルデザインのバッグやポーチ、テディベアやクッションカバーなどを展開するブランド「NAKED QUILT」を営む児玉 晃野さん。個性あふれる作風について、スラッシュキルトの魅力について、そして自分の手で作品を生み出すことに込めた想いについて、お話をたっぷりとお聞きしました。
 

「好きなことだけを本気でやってみよう」

スラッシュキルトとは、ドイツ発祥のキルトの技法のひとつ。児玉 晃野さんが初めてスラッシュキルトを知ったのは、芸術系大学のファッションデザインコースに通っていたときのこと。布の成り立ちを学ぶための何気ない授業が、後に児玉さんの人生を大きく動かす運命の出会いとなりました。

大学を卒業後、会社勤めをしたり、フリーで衣装制作の仕事をしたりと表現の場を求めてさまざまな挑戦を繰り返しつつも、うまく前に進めないもどかしさを感じていた児玉さん。悩んだ結果、「お金にならなくていいから、好きなことだけを本気でとことんやってみよう!」と一念発起します。「そのときにふと思い出したのが、授業で学んだスラッシュキルト。あれかわいかったなぁ、と思っていろいろ調べてみたら、歴史ある技法の割には、日本ではあまり専門的に追求されていなかった。どうせやるなら、ほかにまだやっている人のいない分野で勝負したい。スラッシュキルトの枠が空いてるなら、自分がやるしかない!と、心を決めました」

大容量だったり、持ち手の調節が可能だったり。使い勝手のよさと個性が共存する人気のオリジナルバッグは、アートを日用品に落とし込んだようなたたずまいが魅力。

自分の世界を布の上に自由に表現

こうして児玉さんが立ち上げたブランドが「NAKED QUILT」。落ち着いた色合いのスラッシュキルトが主流な中、児玉さんはほぼ独学で自分だけの新しい表現を追求していきます。児玉さんの読み通り、スラッシュキルトを専門にしている作家がほかにほとんどいなかったこともあって注目を集め、小規模のマルシェに出品中にバイヤーから声がかかり、すぐに百貨店で出店するように。こうしてじわじわとファンが増え、今ではWEBショップに出品するたびに数分ですべて売り切れてしまう人気ブランドに成長しました。

布を重ね、縫い、裁断して、洗いをかけ、乾燥させる。作業の工程はごくシンプルですが、児玉さんの手から生まれるスラッシュキルトは唯一無二。その魅力の源は、独特の色合わせやモチーフ遣い。カラフルで愛らしく、どの作品も一度見たら忘れられないインパクトを放っています。

忙しくなってからは作業工程を部分的にスタッフに任せることが増えたものの、スラッシュキルトの色や柄を決める作業だけは今も必ず児玉さん自身で行います。その姿は、まるで絵筆を持って真っ白なキャンバスに立ち向かう画家のよう。無地の布を絵の具のように使って、感性のおもむくまま、布の上に自由な形で配置していきます。
 

光あふれるアトリエで日々ミシンを踏む児玉さん。スラッシュキルトに使うカラフルな布は、思い立ったらすぐ切り取れるよう、つり下げたままディスプレイ。

予定調和ではない色合いに惹かれる

「柄を作る作業はいちばんクリエイティブな時間。スラッシュキルトは重ねる布の色や形で印象がガラリと変わるところが本当におもしろいです。重ねた後に裁断することで、下の布がどのように顔を出すか、また裁断面の色がどう出るかなど、完成してみないと予想できないことも多い。花や猫などのモチーフものはなんとなくの予想図がありますが、幾何学的な模様は完全に一回勝負。ライブペインティングのような感じで、その時の自分のすべてをぶつけます。だから作品はすべて一点もの。ときどきお客さまから『またあれを作ってほしい』とリクエストいただくこともあるのですが、なにしろすべて偶然から生まれたものだから、逆算ができない。同じものを作ろうとしても、絶対に無理なんです」

明るくポップで、どこかアンバランスな魅力を秘めた作品たち。創作のインスピレーションはどこから生まれているのでしょうか。

「直接的に影響を受けているものはないですが、ふだんから気になるのは、自然の中では決して見つからないような、予定調和ではない色合い。東南アジアで見る不思議な色のバスやチープな電飾など、ちょっと違和感を感じるような人工的な美しさからエッセンスをもらっているのかもしれません」
 

誠実でいたいから、常に100%の作品を

お話を聞けば聞くほど伝わってくるのは、誰よりも児玉さん自身が「私の作品は最高にかわいい!」と心から思っているということ。

「自分の作品に自信を持つということは、デビューしたころからずっと変わらず大切にしている感覚です。逆に言えば、自分で最高だと思えないものを出すのはお客さまに対して不誠実だし、プロとしてあってはならないこと。ある程度制作に慣れてくると、実は惰性でこなせてしまうことも出てきます。でもそこに甘えてしまうと、途端に作品に緊張感がなくなり、魅力もパワーも消えてしまう。伝わる人には伝わるし、何より自分がいちばんわかる。だからいつでも、注ぐエネルギーは100%。常に最高の作品をお届けすることは、お客さまに対する礼儀であり、自分自身に対するプライドでもあると思っています」
柔和な笑顔の中に、一本筋の通った揺るがない哲学を秘めた児玉さん。作品を手放すのが惜しくなることはないのでしょうか?
「逆に、よい作品ができたときほどお客さまにお渡ししたいんです。以前、お守り感覚で私の作品を持ち歩いてくださっている通院中のお客さまが、『みんなからすごく褒められて、病院のヒーローになっちゃったのよ!』と言ってくださって。自分の手を離れた後に作品が大切にされているエピソードを聞くと、本当にうれしい気持ちになります」

無心で作る喜びと、心を込めて届ける思いの深さが、児玉さんが創作を続ける理由なのかもしれません。今日も児玉さんのアトリエからは、誠実なミシンの音が聞こえてきます。
 

 

① できあがりをイメージしながら、生地を重ね置く ② 8mm前後の間隔で、斜め45°でミシンをかけていく。 ③ ミシン線の間をスラッシュカッターで切る。 ④ 洗濯機で洗いをかけて乾燥させたらスラッシュキルト生地が完成!

 

スラッシュキルト作家 児玉 晃野
東京都在住。高校で縫製技術、大学でファッションデザインを学び、会社員、フリーの衣装制作などを経て2016年にスラッシュキルトのブランド「NAKED QUILT」をスタート。素材から手がける一点ものの作品が人気。現在は個展会場やWEBでの販売をベースに活動中。
https://linktr.ee/naked_quilt

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