毛糸に恋した少女がニット作家になる物語。

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抱きしめたいほどやわらかなのに、実はかぎ針編み。
編みあがった瞬間から、ずっと友だちだったようなくったり感に癒やされる、クチュリエで大人気のテディベアの生みの親! ニット作家のtotonaさんに編み物との出会い、動物たちを編み続ける理由など、人生の物語を交えてたっぷりお話しいただきました。

心をとらえて離さない編み物との出会い

つぶらな瞳と愛されすぎて擦り切れた鼻先、むぎゅっと抱きしめたくなるぽってり感がたまらない6匹のくまさん。こんなにふわふわで、くったりとしたテディベアが、かぎ針で編めるなんて! 衝撃的な愛らしさでクチュリエに登場し、目が合う人々のハートをキャッチする大人気の「こう見えてかぎ針編みくったり愛着テディベアの会」を監修してくださったのが、ニット作家のtotonaさんです。

監修の編みぐるみはtotonaさんが命名。そっくりな似顔絵も。

8歳のときに公園で編み物をしているおばあさんに出会い、「糸を操る魔法使いだ!」と、心が釘付けになったというtotonaさん。「最初はそれが『編み物』だということも知りませんでした。毛糸や道具もなかったので、家で見つけた菜箸を編み棒に、荷造り用の麻ひもやビニールひもを材料にして、何かを作ることに夢中でした」

幼少期は、人とのコミュニケーションがあまり得意ではなく、図書館で本を読んだり、妄想に耽ることが大好きな女の子だったとか。「編み物と出会って、楽しみというより生きがいが見つかった感じ。あのころからずっと、1本の毛糸がセーターになったり、動物に姿を変えたりして、浮き沈みのちょっと激しい私の心を、編み物がやさしくあたためてくれています」

左:ふさふさにけば立たせた編みぐるみとその道具。 / 右:クマ以外の動物たちもいろいろと。

小学2、3年生のころは、独学で編み物をしていたtotonaさん。「駅前の手芸屋さんに毎日通い、お店の人がお客さんに編み物を教えている様子をながめていました。4年生になって、小学校の編み物クラブに入るまでは、ひたすらくさり編み。お年玉でもらった500円で毛糸を買い、編んではほどき、また編んで、いよいよ擦り切れそうになったころ、また次の年のお年玉で新しい毛糸を買い足す大人になったらお給料で毛糸を好きなだけ買いたい! と夢見ていて、実際に初任給でハマナカのリッチモア毛糸を100色買いそろえた時は、本当にうれしかったですね」と、懐かしそうにほほ笑みます。

新作は贈りもののために最近編んだわんこ(右)とあみぐるみ講座のためのくまさん(左)。 

そんなtotonaさんが、人生の岐路に立ったのが17歳のとき。ニットデザイナーになりたいという夢を密かに抱きながら、「実業を継いでほしい」というお父さまの気持ちを知って悩みます。「子どものころから父の仕事を手伝っていましたが、自分の仕事にはしたくなかった。とはいえ、編み物を仕事にする自信はない……。いろいろと考えた結果、幼稚園の先生になることを決意しました」

大事にしている道具。はさみは応援してくれている息子さんからのプレゼント。

そこからさらに結婚、出産を経て、29歳でヴォーグ学園に入学。「幼稚園の先生を続けることにむずかしさを感じ、子どもを育てながら、家で大好きな編み物を仕事にできたら素敵だなと思い、あらためて編み物を基礎から学ぶことにしたんです」やると決めたらとことんやるのがtotonaさんの流儀。棒針編みからかぎ針編み、資格取得も余念なく、機械編みから染色まで、編み物に関するあらゆる技術と知識を習得します。

つまづきも個性! 編み物も人生も

不調から立ち直るタイミングで1年かけて編んだ作品(左)と一番最初にふさふさにけば立たせて編んだ作品(右2003年)

専門的に編み物を学び、ヴォーグ学園を卒業するも、すぐにニットデザイナーとしてのキャリアがスタートしたわけではないtotonaさん。動物たちを編むまでは、いわゆるニット小物やわんちゃん用のセーターを作り、それらをバッグに詰め込んで、靴の底が擦り切れるまで神戸中のお店を歩いてまわって営業をしたこともあるとか。

編み進める手は見なくてもすいすい。

今ではtotonaさんの作品と世界観を象徴するようになった動物たちの編みぐるみ。誕生には、どんなエピソードがあるのでしょうか?「家業の飲食業を継いでほしいと言いながら、私の作家活動を応援してくれていた父が2000年に亡くなったのがきっかけです。あまりにも悲しくて、自分で自分をなぐさめるように、小さいころ一緒に過ごしたくまの『ガァちゃん』に思いを寄せて作ったのが、最初の編みぐるみです。その子が何を隠そう、『くったり愛着テディベアの会』の一匹、マシューのモデルになったクマさん。たまたま立ち寄った手芸店で見つけたDMCの毛糸を手にした瞬間、『これはガァちゃんだ!』と思いました。父と同様に編み物をする私が好きだと言ってくれた息子たちの存在も力になり、動物たちを編み続けました」

左: 大好きな海外の絵本は、繰り返し見てぼろぼろになるほど。 / 右:宝物の毛糸見本帳。

その後は独学でパソコンを学び、ホームページを立ち上げ、自分で自分の作品を発信しはじめると、ぬいぐるみ専門店やデパートのバイヤーの目に留まり、販路も自然と広がっていきます。「ようやく軌道にのったころ、心とからだの調子を崩して手が動かなくなったこともありましたが、やっぱり編みたいと思ったのは編みぐるみでした。小さな動物たちはポケットに入れて持ち歩ける、大切なお守りのような存在です」

こんなに大きなサイズのものまで。10日くらいかかって編むそう。

これから編み物を始める人、『くったり愛着テディベア』を編んでみたいと思っている人へ、編み物を楽しむためのアドバイスをいただきました。「編んでいる時間を純粋に楽しんでほしいです。少しずつでも編み進めれば、あなたのベアが誕生します。目数を間違えても、それは個性。のんびりでいいのでしっかり命を吹き込んで、世界にひとつのベアちゃんを作ってください」とのこと。

ニット作家としてこれからやってみたいことは「近い将来、編み物教室を再開できたらうれしいですね。編み物をしているとリラックスして、ふだんは得意ではないおしゃべりも大好きになるので、ゆっくりと流れる時間と空間を共有しながら、心の中のことを気軽に話したり聞いたりできる場所になればいいな」と思っているそうです。 毛糸も人の気持ちも、ときどきもつれることがあるけれど、何度でも編んでほどいてまた編めるのがいいところ。心が疲れたら、totonaさんの編みぐるみでほっこり癒やされてみてはいかがでしょう。

totonaさん監修人気のキットはこちら

こう見えてかぎ針編み くったり愛着テディベアの会

編んでいるときから愛着を感じるほどふわふわ。それぞれ違う6つの個性が楽しい新感覚の編みぐるみキット。

ニット作家 totonaさん(トトナ)

神戸生まれ。幼稚園教諭を経て29歳でヴォーグ学園に入学。4年間の在学中に手編み、機械編み、染色、織り、色彩を学び、手編み講師の資格を取得。25年ほど前から、毛糸を編んで作る「小さな動物たちの世界」のとりこになる。2025年4月より編みぐるみ講師としても活動開始。

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