繰り返す時のリズムを布に刻んで / 刺しゅう作家 御園 二葉さんインタビュー

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ノルウェー・ハルダンゲル地方に伝わるハーダンガー刺しゅうを中心に、多彩な手法をミックスさせた作品を手がける御園 二葉さん。
ふだんは教室としても使われているご自宅のアトリエで、作家活動について、刺しゅうの魅力について、たっぷりとお話を伺いました。

1枚のナフキンから伝統刺しゅうの世界へ

洋裁好きのお母さまのもと、小さなころからお裁縫に慣れ親しみ、アパレルデザイナーとして働きながらクロスステッチ教室に通ったり、結婚後に滞在した南米でスモッキング刺しゅうの先生と出会い、寝る間を惜しむほどに夢中になったりと、好奇心のおもむくままに刺しゅうの道を楽しんでこられた御園さん。

左:布の織り糸を抜くことで作る美しい透かし模様は、ハーダンガー刺しゅうの魅力のひとつ。/右:「モチーフを繰り返すことで仕上がりのサイズを自由に調整できるのもカウントステッチ刺しゅうの魅力です」と御園さん。

ライフワークとなるハーダンガー刺しゅうとの運命の出会いは、ある日ふらりと入った食器店に飾られていた一枚のティーナフキン。その繊細な透かし模様と、優雅な幾何学模様の美しさにすっかり魅了され、それからはハーダンガー刺しゅうのとりこに。基礎からハーダンガー刺しゅうを学んだのち、米国のハーダンガー刺しゅうのコンテストで5年連続入賞するなど着実に歩みを進め、2006年に刺しゅう教室「hilo」をスタート。

アジュール刺しゅうのリースは、カルトナージュ作家の広岡 ちはるさんとの共作。

現在は6つのクラスを掛け持ちする多忙な日々を送りながら、図案の提供やキット監修など、幅広い分野で活躍しています。

端正な糸運びの美しさに圧倒される、御園さんのステッチサンプラー。

「教室では、生徒さんのご希望に沿って図案をおこしたり、材料を提案したりと、制作をサポートするのが私の役目。布の織り目を数えながら刺し進めるカウントステッチタイプの刺しゅうは完成まですごく時間がかかるので、生徒さんたち一人ひとりが思い思いのペースで作品と向き合っています。『先生、見てください!』と完成した作品を披露してくれるときは、みなさん少女のようなお顔をしていて本当に素敵。教室でにぎやかにおしゃべりをしながら教える時間と、ひとりでチクチクと針を刺す時間とのメリハリは、自分にとっても心地よく大切なもの。コロナ禍では初めてオンライン講座にも挑戦したのですが、想像以上に楽しかったことが収穫で。人に教えることを通して新しい自分に出会えた気がして、とてもワクワクしました」

毎日の針仕事が心を整えてくれる

左:イニシャル刺しゅう入りのオリジナルのスタンドに、制作中の材料一式を入れて。/右:愛用の糸立てはアンティークショップで購入。ロイヤルコペンハーゲンの器は糸くず受けに。

ハーダンガーやアジュール、レティチェロやドロンワークなど、欧州各国の伝統的なカウントステッチ刺しゅう。眺めるだけで背筋が伸びるような規則正しさの中に、温故知新を感じるエレガントな模様が浮かび上がる御園さんの作品は、思わずため息がもれる美しさ。

ふたに刺しゅうをあしらった裁縫箱。

ひとつの作品が完成するまでに費やされる膨大な手間と時間の積み重ねが、その美しさをさらに奥深く、かけがえのないものにしています。

御園さんの受賞作品が表紙に掲載されたアメリカの専門誌。

「ハーダンガー刺しゅうは、特別な日に身にまとう民族衣装の装飾として発展したものですが、私は日々の暮らしに刺しゅうが自然に溶け込んでいる感じが好きなので、先人から受け継いだ伝統的なモチーフを軸にしながらも、現在の生活に心地よくなじむデザインにアレンジしています。完成まで数年かかることも珍しくないカウントステッチは、ていねいな時間をコツコツと積み重ねてゆく針仕事。毎日、たとえ数分でも無心になれる習慣を持つことは、暮らしのリズムを整え、心を豊かにしてくれるもの。また、時間がかかるからこそ完成したときの達成感は格別で、これができたんだから、自分はなんでもできるはず!という自信にもつながります」

発色の美しさに魅せられたという草木染めの刺しゅう糸。
教室の生徒さんのアイデアから生まれた、オリジナルパターンの刺しゅう枠ケース。

今回新たに監修を務めていただいた『伝統的なステッチの世界を装う カウントステッチ大人ブローチの会』は、御園さんならではの繊細なステッチが堪能できるキット。最後に、カウントステッチを上手に仕上げるコツをお伺いしました。

「基本は、穏やかな心持ちで、同じ力加減で、ひと針ずつていねいに、リズミカルに刺すこと。織り糸を正確に数えて、ひと目でも間違えたときは見てみぬふりをせずに必ず戻ってやり直すこと。ぜひ、繰り返しのリズムの心地よさと、布と向き合う豊かな時間を楽しんでくださいね」

御園さん監修のキットはこちら!

伝統的な刺しゅうの世界を装うカウントステッチの大人ブローチの会

御園 二葉さんならではのデザインで、繊細で美しいブローチを作るキット。トライしてみたかったアジュール刺しゅうやブラックワークなど、ヨーロッパの伝統的な技法を手のひらサイズで楽しめます。

ほかにも、ハーダンガー刺しゅうの基本が学べるキットも。こちらもチェックしてみてくださいね。
あこがれの美しい作品へステップアップ ハーダンガー刺しゅうレッスンの会
気持ちを整えるような日々の習慣 大人の刺しゅう Re:レッスンの会


 

刺しゅう作家
御園 二葉
(みその ふたば)さん
hilo刺しゅう教室主宰。アパレルデザイナーを経て刺しゅう作家に。2003年より、米国Nordic Needle社主催のハーダンガーコンテストにてFirst Placeを5年連続受賞。著書に『織り糸を抜いて、かがる ハーダンガー刺繍』(日本ヴォーグ社)。

HP:https://hilo2006.com

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