恋するパリ通信〜もも子さんの素敵なお直し

2022年11月28日(月曜日)

「サステナブル」や「SDGs」がファッション業界でも合言葉になっている今日このごろ。仕事で出会う人や友人との会話にも「最近欲しいと思う服が見あたらないし、持っている服を直してでも着たいよね」そんなことが話題に上ります。ちょうどそんなとき、パリでお直しを手がけるSemoda Knitwearの本田 もも子さんのことを知り、お話を伺いに行ってきました。

 

ていねいにお直しを進めるもも子さん。

 

アルメニア系フランス人のパートナーとSemoda Knitwearを立ち上げ、パリ郊外にアトリエを構える本田 もも子さん。彼女が現在に至るまでの経緯をうかがってみると「私は幼いころから編み物に夢中な子どもでした。時期によって波はありましたが、高校生の時に編み物熱が再燃。同時に、日本のシステムに息苦しさを感じていたので海外に住みたいと思い、英語を習い始めました。その後、布はく工場に就職をしてお金を貯めながらアパレル関連の技術を習得し、フランス語の勉強も始めたのです」とのこと。

 

クリーニングに出したのに虫に食われてしまった私のニットをもも子さんが診察中。

 

そんなもも子さんのターニングポイントは25歳の時。「フィガロジャポンのパリの手芸屋さん特集で手芸材料の名店・ウルトラモッドの記事を見て、やはりモードならパリ!と、ワーキングホリデーを申し込みました。そしてビザが下りると、ウルトラモッドに履歴書とモチベーションレターを書いたんです。するとラッキーなことに、ウルトラモッドで働けることになったのです」 こうしてあこがれのウルトラモッドで夢中になって働くのですが、あっという間にワーキングホリデーの期限、一年が終了。日本への帰国を余儀なくされたのですが、継続して働けるようにウルトラモッドがワーキングビザを申請してくれ、なんとビザが下りたのです(パリで暮らすには、このビザがどうにもこうにも厄介なのです!)。

 

もも子さんの作業台には愛用の道具たちが。

 

そうしてすぐパリに舞い戻ったもも子さん。「お金もなく大変なことがたくさんありましたが、朝起きて仕事に行くのが嫌だなと思ったことはなかったんですよね。オートクチュールを手がけるメゾンのお客さまがコレクションに使うものを探しにきたり、ヴァンドーム広場のハイジュエリーのディスプレイやエルメスのウィンドウをデコレーションする方がお客さまにいらしたり、とても興味深い人たちとの出会いがたくさんありました。仕事をしながら専門用語を覚え、色の表現などフランス語の繊細な言いまわしを覚えていったことなども、とても楽しい思い出です」

 

毎シーズン大量に捨てられる毛糸の見本台帳を友人から譲り受け、無駄にせず大切に使う。

そんなもも子さんは2015年にウルトラモッドを退職し、ブルターニュ地方のセントジェームスで働くことに。セントジェームスではニットの技術を上げること、そして興味があったニットのお直しの技術を獲得するという目標があり、ここで5年働くという計画を立てたそう。「ウルトラモッド時代にニットのお直しはできないのか? お直しするところはないのか? とお客さまによく聞かれたんですね。昔はウルトラモッドの近くにLa remailleuseというニットのお直し屋さんがあったのですが、老夫婦が引退してしまっていたらしくて。なのでニットのお直しには需要があるのでは? と思っていたのです」

 

ニットの編み地見本も大切な材料に。
このダーニングきのこは、なんとお友だちの父上の手づくり!

 

こうしてセントジュ―ムスで働きながら技術を習得し卒業した今では、週に一度ウルトラモッドでニットのお直しのお客さまに応対しているという。 「おもしろいことに、ひとりのお客さまからハイブランドとファストファッションの両方を渡されたりするんです。値段に関係なく『気に入っているニットを直してほしい』とみなさん思っているようですね。お客さまは若い子からご年配の方までさまざまで、お母さんから譲り受けたニットをお直しして着たいという方も多いです。これまでで特に印象に残っているのはヴィンテージショップの方が持ってこられたミュージアムピースをお直ししたこと。糸の素材や編み方で時代もわかるんですよ。SDGsが唱えられる今の時代にマッチしたのかもしれませんが、お直しがたくさんの人に注目されてよかったと思います」

 

こちらもヴィンテージショップから落ち込まれたセリーヌのブラウス。少しの糸でお直しできるので、袖口裏の縫い代からそーっと糸を引き出しているところ。繊細な作業は息を飲むほど。
ヴィンテージショップからお預かりしたエルメスのカーディガン。袖が穴だらけだったのでカットし、同じようなリブを付け直したそう。

 

やりたいことが明確にあって、幸運の女神も味方につけて! 目標とタイムリミットを掲げて迷いなく突き進むもも子さんの中には、まるで青い炎が静かに燃えているよう。その佇まいにノックアウトされつつ、私も大切なニット3枚のお直しをお願いしました。もも子さんのお話しにもあったように、一枚は大好きな人から贈られたファストファッションのニット、もう二枚はハイブランドのもの。値段とは関係なく、穴を直してでも着たいものを大切にしていきたいなと私も思うのです。できあがりが今からとても楽しみです。

 

本田 もも子
Instagram @semodaknitwear
https://semoda-knitwear.com

 

 

TAKANAKA MASAE
雑誌や広告でファッションコーディネーター&スタイリストとして活動中。
パリに住んではや20年、毎日自転車でパリの街をパトロールしています。
Instagram 移動花瓶屋さん @cabin.e.paris パリの日常 @massaetakanaka

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