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とうほくIPPOプロジェクトレポート ―踊って笑って集まって(宮城県 気仙沼市)―

シリーズ第7回目のレポートは、気仙沼へ、第2期の支援対象事業名「踊って笑って集まって」の代表 高橋 知子さんを訪ねました。
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―高橋さんは気仙沼で、子どもたちにバレエの指導をされていたのですね。
15周年の記念公演を前に、お稽古場も機材も道具もなにもかも流されてしまいました。一緒に教えていた大切な先生も津波の犠牲になりました。
その喪失感や言葉にならない自責の念で、もう、一生バレエに関わることはないだろうと、当時は考えていました。
―もう一度、子どもたちにバレエを教えようと思ったきっかけは?
街で生徒の子どもたちに会うと、「先生、いつから始めるの?」と必ずたずねられました。ほかの教室を紹介したりもしましたが、子どもたちの期待に応えられない自分が苦しかったです。何より大きかったのが、亡くなった先生のご遺族の言葉でした。「遺志を継いで、気仙沼にともしたバレエの灯を消さないでください」とおっしゃられたのです。私だけでは力不足だと思ったのですが、再開を待ち望む子どもたちがいて、ご遺族の気持ちをいただいた以上、私には前に進む以外に選ぶ道はありませんでした。
―現実に再開しようとすると、さまざまな困難があったのではないですか。
バレエは、ぜいたくな習い事というイメージがあるので、混乱した被災地では、周囲の理解を得るのも難しかったです。公共の会場がなかなか借りられず、稽古場の確保に苦労しました。この時期、さまざまな事情から、生徒の中の3家族が気仙沼を離れて行きました。思うようなレッスンができなかったことも土地を離れる理由のひとつだったかもしれません。日々成長する子どもたちには「今」という時間がとても貴重です。被災地だから子どもたちが将来の夢をあきらめなければならない、というのは理不尽だと思いました。
― 結局、練習会場はどうされたのですか。
安定した稽古場を確保するために、お金はかかるのですがスタジオをレンタルすることにしました。すると、エアロビクスやヨガなどの教室を開く人たちも、みなさん同じ悩みを抱えていることを知りました。それならば、それぞれの団体がまとまって共同でスタジオを借り、時間や費用をシェアしたら、効率的に会場が使えるのではないか、というのが、ミニカルチャーセンター事業を発想した理由です。WAOという団体名は、「笑って、集まって、踊って」の頭文字をとってつけました。
これからは、ダンスでも手芸でも、被災地の人たちが、やりたいと思うことを主体的に選んでできるようになることが一番だと思います。バレエに限らず、みなさんが好きなことに取り組める場所、カルチャーを通して交流もできる場所づくりができれば、こんなにうれしいことはありません。
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― 活動を通して励みになったできごとは何かありますか。
「とうほくIPPOプロジェクト」の支援で、やっと買うことができたレッスンバー。それをさわったときの、子どもたちの笑顔が忘れられません。
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震災後は、携帯用のバーで練習していたのですが、長さも足りず、つくりもきゃしゃなので、子どもたちは、口にこそ出さなかったけれど、ずっとがまんをしていたのだと思います。
新しいバーに触れたとたん「わあ、前と同じだ」とみんな声を上げました。足を乗せてもしっかり支えてくれるレッスンバーの感触は、何不自由なくバレエ教室に通っていた、震災前の記憶をいっぺんに甦らせてくれたのでしょう。その姿に、思わず涙がこみ上げました。
― これからの目標はどんなことですか。
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今は、被災地である気仙沼でもなんとか負担できる金額で、ということで、指導者もスタッフも本当に少ない報酬でやりくりしています。将来に向かっては、ちゃんとした額を支払えるようにしていきたいというのが希望です。そのためには、地域経済が以前のように復興することが大前提なのですが、少しずつ前に向かってはいるけれど、道はまだ遠いというのが実感です。
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「とうほくIPPOプロジェクト」では、第3期の募集(2013年10月末まで)を行っています。責任者・主体者メンバーが女性であることを条件に事業提案を公募し、審査の結果選ばれた個人・団体に支援金を支給して、被災地の産業復興のきっかけづくりにつなげることを目的としています。
詳しくはこちらをご覧ください。
(取材協力:シュープレス)
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