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エリザベート

欧州ロイヤルの世界を感じて!ミュージカル「エリザベート」の魅力

ヨーロッパ王室にちなんだミュージカル作品は、昭和時代の宝塚歌劇「ベルサイユのばら」にさかのぼります。その後も多くの大型作品が上演されており、フランス革命が背景にある「マリー・アントワネット」や「1789~バスティーユの恋人たち」、冒険活劇の「スカーレット・ピンパーネル」など、数々の名作が生まれました。

こうした作品に関わっているのが、欧州ロイヤル「ハプスブルク家」です。関連作品として、特に注目したいのが、近年最も人気を集めているミュージカル「エリザベート」です。オーストリア皇帝フランツ一世の妃(きさき)であるエリザベートを主人公とし、「黄泉の帝王トート閣下」という「死」を象徴するようなキャストが登場するのも見どころのひとつ。「エリザベート」は通称「エリザ」とも呼ばれ、2000年の東宝版初演以来、2020年には20周年を迎えます。今、ミュージカル界で最もチケット難が予想される「エリザ」の魅力を徹底考察してみましょう!

気品あふれる舞台「エリザベート」の魅力

「エリザ」はオーストリア皇后エリザベート(シシィ)と、彼女を愛した黄泉の帝王トートを中心に描かれたミュージカル。ときに耽美(たんび)に、華麗に、熱く激しく、絶望、愛、死、希望と、ドラマティックな世界が格調高いウィーンを舞台に描かれます。ファンとしては、その美しさを一度は感じてほしいのです!

劇場

▽未知の領域だった「ハプスブルク家」

ファンが年々増加する魅力のひとつは「ハプスブルク」にあるでしょう。これまで日本で上演されるミュージカルの多くは、ブロードウェイ発、またはロンドンのウェストエンド発の作品がほとんどでした。そんななか、皇室や王家、貴族といった高貴系をテーマにした大型作品が登場し、乙女たちはその神々しさにノックダウンされたわけです。

そうしたなか、音楽の都、ウィーンから「ハプスブルク家」モノが登場! ご存じない方のために簡単にまとめると、「ハプスブルク家」とは、主にオーストリア皇帝・神聖ローマ皇帝としてヨーロッパに君臨した一族。約650年にわたるハプスブルク家の歴史は、ヨーロッパの歴史を形作ったようなもの。かのマリー・アントワネットもハプスブルク家の一員であることを考えれば、歴史の教科書で一度は見たことがある名前かもしれません。
舞台「エリザベート」の主人公であるシシィも、もちろんハプスブルクに関連する人物。19世紀後半、ハプスブルク家において実質最後の皇帝となったフランツ・ヨーゼフ一世の皇后です。

ハプスブルク系の作品はほかにもあり、過去には、「うたかたの恋」で知られる皇太子ルドルフの悲恋を描いた「ルドルフ ザ・ラスト・キス」の公演も。主人公となったルドルフは、「エリザベート」でも登場するルドルフと同一人物。ちなみに、「エリザ」ではルドルフの悲恋は触れられず、黄泉の帝王の誘惑により導かれるという展開。作品による描かれ方の違いも興味深いですよね。

ミュージカル「エリザベート」の見どころ

では、実際にミュージカルファンの視点で「エリザベート」の見どころをチェックしていきましょう。

地上の皇帝と黄泉の帝王に愛されたシシィの物語~あらすじ~

「エリザ」の物語は、事故で意識を失ったバイエルン公女のシシィを、黄泉の国の帝王であり、死を象徴するトート閣下が地上の世界に帰してあげることからすべてが始まります。トートはシシィに心を奪われ、シシィが心からトート(死)を愛し、連れていってほしいと願うまで待つ、というのが縦軸のストーリー。

トートはシシィの生涯に寄り添い、その要所要所で誘いに来ますが、その心はすれ違うばかり。2人の妖しい倒錯的な場面は、物語を彩る魅力のひとつです。そして、もうひとりの相手となる皇帝フランツ・ヨーゼフが、誠実にシシィを愛し続ける姿も気高く尊い存在であり、揺れ動くシシィの姿が切なくてたまらない!

ファンからすれば、「トートは、無理やり自分の世界に連れていくこともできるのに、それをしないのがいじらしく感じてしまう」もの。トートは生身の人間ではないけれど、2人の男性に愛されるシシィの姿がうらやましくもあり、揺れる乙女心を自分と重ねて、物語とは違う結末を妄想したくなりますよ。

 

暗殺者ルキーニの狂言回しが最高!

舞台の幕開けは、黄泉の国の裁判から始まります。「エリザ」のすごさは、その導入から引きつけられるところ。ガラの悪いルキーニが狂言回しを始めた途端、あっという間に舞台という夢の世界に入り込んでしまうのです。

ルキーニはシシィを暗殺した犯人であり、舞台には当時の亡霊たちも証言をするために現れます。シシィと同じ時代を生きた皇帝フランツ・ヨーゼフ、息子の皇太子ルドルフ、シシィを苦しめた姑(しゅうとめ)ゾフィー、政情不安なハンガリーの革命家たち、ウィーンの貴族たちと、次々に現れる登場人物に合わせた演出や曲の美しさに注目してくださいね。

 

登場人物の魅力~黄泉の帝王、皇妃、革命家と死のダンサーたち

主人公であるエリザベート(シシィ)は、自然豊かなドイツでお転婆(おてんば)な少女期を過ごし、束縛された結婚生活のなかで彷徨う日々を過ごします。その晩年(史実では60歳)までを描く舞台は、長い長い物語。ソロ曲「私だけに」で「たとえ王家に嫁いだ身でも命までは預けはしない」と歌い上げるシシィの想いは、自由を切望する哀しさか、それとも希望か……その感じ方も千差万別です。

登場人物のなかでも、特にファンがこだわるのがトートのキャラクター。なんといっても「死」を象徴している存在であり、いわば擬人化したようなもの。黄泉の帝王として神秘的で麗しく、女性ファンに「私も黄泉の国に連れてってほしい!」と思わせてほしいのです。

皇太子ルドルフは、出番は短いながらも強烈な印象。というのも、ルドルフはハプスブルク家の皇太子でありながら、革命家と手を組んでしまうという運命であり、トートの誘惑で死を選ぶのです。彼の死に打ちひしがれる喪服のシシィが、言葉にならないほどの哀しみを表現する瞬間も見どころです。

そのほか、精神病患者のヴィンディッシュ嬢の登場にも注目。たった一場面ではあるけれど、強く印象に残ります。シシィの孤独を代弁する重要な役で「私は皇后エリザベート」と思い込むヴィンディッシュ嬢に向けて、慰問で訪れた皇后シシィが思いもかけない優しさを見せます。

「もし代われるなら代わってもいいのよ、私の孤独に耐えられるなら。あなたの魂は自由だわ(DVD『エリザベート―愛と死の輪舞―』 2018年宝塚歌劇団月組公演より)」と語るシシィに共感し、気が付いたら涙が。同じシーンでも、東宝版DVDでは「私が本当にあなたならよかった。束縛されるのは体だけ(「エリザベート」2016年版キャストDVD 2016年東宝公演より)」となっています。宝塚と東宝、また上演年によって歌詞や演出が少しずつ違うのも、オタ心をくすぐるポイントです。

2020年の東宝公演は20周年!

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2020年には、「エリザベート」東宝版は公演20周年を迎えます。帝国劇場を皮切りに、5カ月間かけて大阪、名古屋、福岡と4都市公演が予定され、キャストに合わせて全国を飛び回るミュージカルファンたちは、移動やホテルの予約に余念がありません!

キャストの魅力~新キャスト、旧キャスト、変更キャスト百花繚乱!

登場人物の魅力は紹介したとおりですが、その根底を支えるのは、やっぱりキャストあってこそ。20周年を迎えた2020年公演のキャストは、これまた豪華な顔ぶれです。

▼シシィ役はともに宝塚出身のダブルキャストに

まずシシィ役は、ともに宝塚出身のダブルキャスト、花總まりさん、愛希れいかさんが演じられます。もともと、エリザの日本初演は宝塚ですから、宝塚ファンにとってもたまらないキャストでしょう。花總さんは、日本初演であった1996年宝塚版の「エリザベート」でもシシィ役に。もはや「エリザ界のレジェンド」です。

 

▼ファン必見!注目のトート役は?

注目のトート役は、ミュージカル界のプリンスであり、東宝版エリザの初代ルドルフ、井上芳雄さん。そして初のトート役に挑む山崎育三郎さん。「レ・ミゼラブル」ではマリウスを、「モーツァルト!」のヴォルフガング、「ミス・サイゴン」のクリスなど、甘いマスクと実力を備えたファン必見の俳優さんです。何より、前回公演ではルキーニ役だったこともあり、そのキャスティングが大きな話題となりました。そのほか、前回キャスティングされていた古川雄大さんもいらっしゃいます。こちらも前回からの進化が楽しみです。井上さんは、今回、帝国劇場には出演されず、地方公演のみとなります。

 

▼新旧入り混じる、気になるキャスティング!

フランツ役には田代万里生さん、佐藤隆紀さん。クラシック出身のおふたりは、演技はもちろん、その美声が素晴らしい。ルキーニ役は、前回に引き続き、梨園の貴公子、尾上松也さんです。さらに、2020年からの新キャストとして上山竜司さん、黒羽麻璃央さんの名前が挙がっています。黒羽さんは今回が帝劇ミュージカル初出演。2.5次元ミュージカルを中心として、既に多くの舞台で活躍されていますよね。舞台「テニスの王子様」出身というイケメンであり、ルキーニという難役に抜擢された黒羽さん。実力はバッチリですね!

 

▼若手ミュージカル俳優の登竜門的ポジション!注目のルドルフ役は?

今回、ルドルフ役は、三浦涼介さんだけのシングルキャスト。この役は、初演の井上芳雄さんから若手ミュージカル俳優の登竜門的なポジションでもあります。過去のルドルフ役には、今や数々の主演をこなす浦井健治さんや、今年「ミス・サイゴン」で市村正親さんと同じエンジニア役にキャスティングされた伊礼彼方さん、今回トート役の古川さんほかフランツ役の田代万里生さん、2015年にはなんと、ジャニーズJrから京本大我さんがキャスティングされました。ジャニーズファンの方で初めてミュージカルをご覧になった方も多いかもしれませんね。

ミュージカルファンは全国公演のラストまで見届ける!

客席

2020年開催の「エリザ」は東京、大阪、名古屋、福岡の4都市公演。今回は、東京公演では井上さんが演じるトートは観られず、逆に地方公演では山崎さんが演じるトートが観られません。ほか、尾上松也さんのルキーニは東京と大阪公演のみ。全キャストで観たいファンとしては、全国駆け抜けたいところ。

各地方の公演初日や千秋楽、そして毎週末には、遠征組が多数客席を埋めることでしょう。残念ながら駆け付けられないお留守番組は、遠征組のレポを待つのみ! SNSを入念にチェックし、「今日のトート閣下、あの場面で皮肉な笑みがさらに強めだった」といった表情の変化まで感想を発信してくれる熱いファンの声を楽しむのも、嬉しいものです。大千秋楽が終わるまで、それぞれの立場で可能な限り、エリザを追いかけるのがファン心というもの。「エリザ」への注目で、ハプスブルク家を感じられるミュージカルを楽しむ人が増えますように!

※キャストを含む公演情報は、2020年2月19日現在のものです。

参考:
DVD『エリザベート―愛と死の輪舞―』 2018年宝塚歌劇団月組公演
・「エリザベート」2016年版キャストDVD 2016年東宝公演
・「図説ハプスブルク帝国」(加藤雅彦著/河出書房)、「エリザベート 美と旅に生きた彷徨(さすらい)の皇妃」(森美与子著/新人物往来社)、ほか

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