フェリシモCompany

「青い地球 生命の物語り」

水中写真家

鍵井靖章さん

開催日
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Profile

1971年、兵庫県生まれ。大学在学中に水中写真家・伊藤勝敏氏に師事。1993年よりオーストラリア、伊豆、モルディブに拠点を移し、水中撮影に励む。1998年に帰国。フリーランスフォトグラファーとして独立。自然のリズムに寄り添い、生き物にできるだけストレスを与えないような撮影スタイルを心がける。約20年間、海の生き物に、出会い、ふられ、恋して、無視され、繋がり、勇気をもらい、そして子育ての方法などを教えてもらいながら、撮影を続けている。3.11以降は、岩手県宮古市の海を定期的に記録。再生の様子を伝えている。1993年、「ミナミセミクジラの海」で第15回アニマ賞(平凡社)受賞。2003年日本写真協会新人賞受賞、2013年、2015年日経ナショナルジオグラフィック優秀賞受賞など、受賞歴多数。2013年より、Clé et Photos代表。著書に『アシカ日和』(マガジンハウス)、『海中散歩』『夢色の海』『ゆかいなお魚』『二匹のさかな』(パイ インターナショナル)、『ダンゴウオ 海の底から見た震災と再生』(新潮社)、『The Shark サメたちの海へ』(誠文堂新光社)、『wreath(リース)』(日経ナショナルジオグラフィック社)などがある。

※プロフィールは、ご講演当時のものです。

講演録 Performance record

第1部

鍵井靖章さん(水中写真家)レポート

鍵井さん:
みなさん、こんにちは。水中カメラマンの鍵井です。ありがとうございます。今日は三連休の頭で大切な時間をいただきました。台風21号で関西もずいぶん被害にあわれて、ここに参加されている方で被害にあわれている方もいらっしゃると思います。改めて早い復興を願います。北海道とかいろいろ日本で災害が起きてすごく大変だと思います。発信する立場の人間として「日々、楽しいことばかりSNSで発表できないな」と葛藤しながらやっています。今日はみなさんにライブでお会いできるので、いろいろなお話をして楽しんでいただけたらと思います。今、一生懸命、標準語で話していますが、後半確実に関西弁になっていくと思いますのでよろしくお願いします。

今日はたくさんスライドを持ってきました。まず、3時までの時間でお話しさせてもらいます。途中、震災の番組も見ていただこうと思っています。基本、写真と僕のトークです。後ろの方は見づらくなってしまうかもしれませんが、がんばって話をしていくのでついてきてください。どんどんいきます。

何カ月前かな、この神戸学校の話をいただいて、聞くともう21年間で約250名の講師の方が登壇されているみたいです。中には10何年前に僕の先輩である中村征夫さんもこの場所に立たれたと聞きました。僕は兵庫県川西出身なので、神戸でこういうお話をいただけることを大変うれしく思っています。最初はまじめにしゃべっていきます。ついてきてね。

■命を感じる須磨の海

鍵井さん:
僕はお正月の1月2日、もしくは3日に須磨の海で何年かまでずっと潜っていました。関西人である僕は「世界中の海で仕事をしているけれど、最初はやっぱり神戸、須磨の海で潜るべきじゃないの」と思っていまして、その時に撮った写真を見ていただきたいと思います。

「#写真」

鍵井さん:
正月に潜るのは寒いです。水温が12度とか13度かな、正月はいっぱい酒を飲んでいるから割と二日酔いになりながら潜っていきますが、水温13度が身にしみます。これは須磨の水族館の近くの海ですが、潜って行くとこんな感じでフグが海底からこうやって僕のことを見つめていたりします。

「#写真」

鍵井さん:
残念ながら、人間生活に近い海なので海中に放棄されているゴミもこういう感じで見られました。テントかな。この中にお魚が隠れていたりします。

「#写真」

鍵井さん:
アップです。「寒いのかな」とか思いながら。

「#写真」

鍵井さん:
軍手です。軍手の下にもこういう感じでお魚を見つけることができました。アサヒアナハゼです。大きさはこのマイクより少し小さいくらいです。これ、よく見てください。本当にすみません、チンチンが出ています。これは場所によっては別名「ちんぽだし」という魚らしいです。ごめんね、何で最初にこんな。今朝、起きてから「神戸のスライドを最初に持ってこよう」と作りなおしたのですが、今、しゃべってみてこんな感じになってしまいました。ごめんなさい。

「#写真」

鍵井さん:
ヒトデちゃんとウミウシです。ヒロウミウシというみなさんの小指のつめほどのウミウシですが、これが交接です。愛を誓い合っているところです。

「#写真」

鍵井さん:
これはカップケーキみたいな物が落ちていて、そこにナマコがスルスルと寄って行っています。このナマコがカップケーキの残ったなにかを食べているとは思いませんが、そんな感じになっていたので「僕たちの生活を揶揄しているようでおもしろいな」と思って撮影してみました。

「#写真」

鍵井さん:
捨てられたかごです。その中に、入らなくてもいいのにね、こんな感じでお魚が入っていました。

「#写真」

鍵井さん:
捨てられたビニールの手袋です。僕は全然さわっていないです。捨てられながらも中指を立てていました。「誰に対して中指を立ててんだろ。きっと僕らに対してかな。おもしろいな、水中」と思って撮影をしました。

「#写真」

鍵井さん:
キジハタという割と大きなハタです。なかなか水中で死んだお魚を見かけることはありませんがこれはまさしく死にかけのお魚で、理由はわかりませんが、このところずっと低水温だったからそれに耐えられずに命を失っていくのかなと言っている方がいました。よく見てください。

「#写真」キジハタの目のアップ

鍵井さん:
そのキジハタは絶命しかけているのですが、瞳をよく見るとこんなに美しかったのです。キジハタのキジというのは、日本の国鳥、桃太郎に出てくるあの緑の美しいキジと、このキジハタの目の色が似ているからキジハタというなまえをつけたという説があるそうです。どんどん行きます。

「#写真」

鍵井さん:
神戸の最後の写真はこれです。明石のたこを海底で見つけました。何をしていたかと言ったら、これも残念ながら絶命しかけていました。僕たちが捨てたであろう空き缶を抱えて、これは何かというとヒトデ、海のお掃除屋さんです。「このたこ死ぬんかな。死なないのかな。もうちょっとかな」とヒトデがたこに近づいたり離れたりしていました。そのたびにたこは最後の力を振りしぼって腕を動かしたりしていました。きっとたこちゃんの命はそれほど長くなく、ヒトデのごはんになるとは思うのですが。

「#写真」

鍵井さん:
もう少しアップで撮ってみました。まだ生きようとするたこの目が印象的でした。最初に言いましたが、これは須磨の水族館の近くの小さな場所で2回ほど潜水した時の写真ですが、ウミウシが交尾をしていたり、死にそうになっている魚や力強く生きようとしてるたこちゃんとかちょっとしたエリアで潜るだけでこんなに生き物たちの命を感じられます。ゴミが落ちていたことは残念ですが、やっぱり命を感じる須磨の海でした。どんどん行きます。

■水中写真との出会い

「#写真」

鍵井さん:
だいたい僕は水中でこういう感じで撮影をしています。今日来ていただいたみなさんの中でダイビングをされている方も多いと思いますが、ダイビングをされていない方もいらっしゃると思いますので、こういう写真を見てください。あれが水中カメラです。空気タンクを背負って潜りながら撮影をしています。ダイビングで撮影する以外にはシュノーケリングです。フィンとマスクとシュノーケル、この3点だけをつけて生き物と対峙することがあります。

「#写真」

鍵井さん:
これはモルディブで撮影したマンボウです。あれが実際に撮影している僕です。顔だけが泳いでいるようなかわいい生き物でした。

「#写真」

鍵井さん:
これはダイビングをしながらアシカちゃんを撮影していたらしつこくまとわりついてきたアシカがいて、自撮りをしながら撮影してみました。ただこのアシカ、うれしいのが僕のスポンサーのひとつであるMOBBY’S(モビーズ)さんのタグを見せてくれています。「さすがアシカ、頭いいな」と思います。どんどん行きます。

「#写真」

鍵井さん:
この中には今年、東京での20周年記念の講演会に来ていただいた方もおられて、少し話がかぶってしまうけどごめんなさい。

「#写真」

鍵井さん:
ダイビングを始めたころの僕が写っています。わかりづらいと思いますがここです。これは僕の師匠である伊藤勝敏さんです。

「#写真」

鍵井さん:
川西阪急です。今朝もここを通ってきました。僕は兵庫県川西市生まれで20歳を過ぎるまでずっと川西にいたのですが、僕の写真家としての原点はまさしくここです。これはアステ川西と阪急百貨店の間にある通りで、このショーウィンドウに伊藤勝敏先生の水中写真がちょうどこんな感じで飾られていました。見てください。ここにどんな水中写真が飾られていたかというと。

「#写真」

鍵井さん:
海草の上に漂うカレイ。でも須磨の海しか知らなかった20歳の僕はすごく感動してしまったのです。水中写真なんて見たことがなくて「うわー、なんなんだ、この世界!」と思って。ほかは、こういうの。

「#写真」

鍵井さん:
これはウツボをエビがクリーニングしているのですが、僕はそんな生態を全く知らなくて「なに、この不思議な写真」と思って心を奪われました。あとね。

「#写真」

鍵井さん:
このカメさんの写真を見て、「へー、何これ!なんなんだろう、宇宙船みたい」と思ったかもしれません。衝撃を受けた大学生の時に僕はどんな感じだったかというとこんな感じです。

「#スライド」当時の様子のマンガ

鍵井さん:
水中写真と初めて出会ったのは大学3年で、何となく友だちと行ったデパートの写真展でした。「うわー、すげーなー!」という感じでした。高校の時の同級生と一緒に行ったのですが、そうしたらその子が「このカメラマンの先生、近所に住んでるから紹介してあげるわ」と言って「本当? 紹介して」みたいな感じです。

「#写真」

鍵井さん:
これは高校の時の写真です。この子です、この立っている女の子。僕たちはバンドをしていたのですが、この子。これ、僕。恥ずかしい。ヤバくない? だって日付ついてたよね。30年前。この前、「探偵!ナイトスクープ」にも出させてもらいましたが、最近僕がテレビとか出て、ご近所のおばちゃんの感想が「靖章ちゃん、まだ髪の毛あるな」みたいな。ハハハ。もうやめておきます。

高校の時の写真を見て話をされる 鍵井さん

「#スライド」当時の様子のマンガ

鍵井さん:
後の師匠の伊藤先生に僕は家の二階の黒電話から「弟子にしてください」と電話をしました。そうしたら「写真はやってるのか」と伊藤先生が言って「いいえ、していません」「じゃ、ダイビングは」「できません」「君が何を言ってるかわからん」とガチャンと切られました。これは本当にその時の会話ですが、切られた瞬間は少し悔しかったけど、意外と「そんな感じやな」みたいな感じでした。それから何が起きたかというと、こういうことが起きました。

「#スライド」当時の様子のマンガ(おばちゃんが伊藤先生に話している場面)

鍵井さん:
当時住んでいた近所のおばちゃんが関西のおばちゃんパワーで「伊藤はん。鍵井くん、いい子やからめんどうみたってよ」「そやわ、ご近所のよしみやないの」と言って、そうしたら伊藤先生が「わかった、ほな弟子にしよか」ということが起きたのです。だから関西の、この素晴らしい、力強いお母さまがいらっしゃらなければ、僕は今ここでこんなふうにお話をしていることはないということです。ありがとうございます。ここで来てたらヤバいな、どうしようかな、大丈夫やな。

それからすぐに和歌山県の串本でダイビングの免許を取って先生のカメラ持ちになりました。僕はライセンスを取ってすぐなので「先生、待って」と言っても伊藤先生は僕のことは気にせずに水深30メートルのところにビューっと降りていくのです。俺はもう水深5メートルくらいのところであたふたしているだけで、「どうしたらいいの。ついて行くのも怖いし」みたいな感じでした。ある意味、超スパルタです。

「#写真」

鍵井さん:
そのころ、伊藤先生が出されていたのがこの『龍宮』という写真集で、その後『海の宇宙』という写真集を出されました。中村征夫さんはじめ活躍されているたくさんの有名な水中写真家の方がいらっしゃいますが、伊藤先生の写真は、僕が大学生の時に見た時からそうですが、どこか宇宙っぽい表現があります。例えばこういう写真です。

「#写真」

鍵井さん:
これはシャコ貝の一部を撮った写真ですが、海の中に潜ったことがない僕にとっては「これはいったい何? 宇宙?」。たぶん先生のそういうところに僕は惹かれて弟子入りをお願いしました。そしてこういう写真です。

「#写真」

鍵井さん:
今だったら何がどうなっているか理解できますが、潜らない方は「何、この写真?」と思われるかもしれません。こういう写真もあります。

「#写真」カサゴの目だけの写真

鍵井さん:
カサゴという普通にいるお魚の目だけを撮った写真なのに「宇宙だな」と思いました。

「#スライド」当時の様子のマンガ(伊藤先生に「プロでやっていけるよ」と言われる場面)

鍵井さん:
そんな伊藤先生がある日突然、まだ弟子のころに「おまえ、プロでやっていけるよ」「え、本当ですか」と、その言葉通り数年後、プロのフリーカメラマンになりました。伊藤先生は僕の何を見てそう言ってくれたかわからないのですが、ありがたく不思議な出会いでした。

「#写真」

鍵井さん:
昨日帰ったら川西市から「鍵井さん、2月に駅近くで写真展して」という依頼をもらい、連れて行かれた場所はここ、アステギャラリーでした。もしよかったら来てください。

「#写真」

鍵井さん:
写真展つながりで、忘れないうちに言っておきます。兵庫県川西市火打にあるwedgeという古民家で僕が主催させてもらっているグループ展もしていますので、もしよかったらみなさん来てください。僕は来週の9月28、29日に在廊しています。

「#写真」

鍵井さん:
ごめんね、宣伝ばかりで。今、金沢の徳法寺でも写真展をしています。宗教は苦手だからお寺はどうしようかと思ったのですが、住職さんが僕の写真集を見て感動して「写真展をしたい」と連絡してきてくれたから「やりましょうか」ということで明日、トークショーに行きます。

「#写真」

鍵井さん:
モルディブの時の僕。向こう側が僕の妻、まち子です。このころからずっと一緒にいます。何でこんな写真を見せるかというと、こんなふうにライブで来てもらったらプライベートな写真を見せてもおもしろいかなと思って。水中カメラマンを志したころです。ガイドをしながら朝と夜、カメラを持って水中写真の練習に取り組んでいました。

「#写真」写真展入り口の風景

鍵井さん:
2011年、ちょうど震災があった年、今から7年くらい前に、キヤノンギャラリー品川で大きな写真展「青い地球のカシュ」をしましたが、ここで展示した作品を今日は会場に展示してみなさんに見ていただいています。これは僕の中では代表的な写真展になっています。僕は今、神奈川県に住んでいて関東圏にいるのですが、東京の大学を出た人たちは東京に昔の友だちがたくさんいますが、僕は少なくて、でも川西明峰高校の同級生の*テラオカ(寺岡)*君という友だちが来てくれました。何が言いたいかと言いますと、関東にいると昔の友だちが少ないから、カメラマンをしていても昔の友だちのよしみで、と助けてくれる人がいないのです。助けてもらおうと思っていないけれど、でも、彼がやって来て「久しぶり、どうしてんの」「今、東京に住んでんねん」「うそー」「今、僕、百貨店で働いてんねん」と言って、写真展を見た後に「この写真展、俺が働いている百貨店でする?」とポロっと言って、それがかなったのです。すごくうれしくて「地元の友だち、すげー!心強いー!」と思いました。彼がいてくれたからそごう・西武での写真展をすることができてありがたいと思いました。今、兵庫県の地元だからそんな話をしようかなと思いました。

「#写真」

鍵井さん:
僕は明峰高校で運動しかしていなくて勉強も全くしないバカな学生でしたが、高校3年の時は受験のためにめちゃくちゃ勉強しました。高校つながりで、その時に書いた卒業文集を見てください。ひとことだけ、僕は「卒業したら美しいものをたくさん写真に撮りたいです」と書いているのです。僕は伊藤先生にお会いするまで写真を撮ったこともないしダイビングもしたことがない人間でしたが、何を間違えてか僕は文集の最後にこのひとことだけを書いていました。プロのカメラマンになってずいぶん後にハッとこの文集のことを思い出してパっと見たらこういうことを書いていて、気持ち悪いじゃないですけど、何か過去に行って書き直したみたいな感じで、クラスで絵が得意だった女子が描いてくれたのだと思いますが、口絵が海っぽい写真で「へえー」と思いました。

「#写真」

鍵井さん:
先ほど見ていただいた写真展をきっかけに、僕は40歳になって初めて写真集を出すことができました。それが『海中散歩』です。その後、7年間で十何冊の写真集を出すことができて、今ここにこうやってみなさんの前に立たせてもらっているから「鍵井、順調にやってきたんじゃないの」と思われるかも知れませんが、40歳まで写真集も出せずに苦しかった僕もいました。

■全く加工しないスタイルから求められている色も作れるように気持ちが変化

「#写真」

鍵井さん:

世界でいろいろな生き物に会ってきました。例えばこのジンベイザメです。すべてが非日常でした。

「#写真」

鍵井さん:

これはマンタという生き物です。

「#写真」

鍵井さん:

これはパラオにあるジェリーフィッシュレイクといってクラゲの湖です。どんどん行こう。

「#写真」

鍵井さん:

これはクジラの交尾です。ミナミセミクジラという体長が10何メートルある大型バスみたいなクジラがいます。上がクジラのメスで下がクジラのオスです。胸びれでメスの体を支えておなかを向けて交尾をしています。

「#写真」

鍵井さん:

後ろから見たらわかりやすいです。こんな感じ。メス、オス、チンチン。潜りはじめて20数年たちますが本当にいろいろなシーンに立ち会うことができて、実はこれもひとつひとつ話したらエピソードがあるのですが、今日はたくさんの写真を見ていただきたいので。

エピソードを話す 鍵井さん

「#写真」

鍵井さん:
そのほか、僕の好きなこういう感じの写真があります。今、写真を見ていただいて何が言いたかったかと言いますと、僕は色をほとんどさわらないのです。撮ったら撮ったまま、カメラのモニターにはこの色で全部映っています。僕は去年くらいまで写真をいじらない、撮ったところ勝負のカメラマンでした。トリミングもいっさいしません。だから時々、ほかのカメラマンや編集者の人が僕の写真を見て「すごいね、鍵井さん、これまんま?」「全然、まんまです」「へー」みたいな感じです。だからこれも自然が持っている色をそのまま変えずに表現しています。これが去年までの僕のウリと言いますか、僕の中で写真家としての王道としてやってきました。こういう僕のスタイルがここに出ています。

「#写真」

鍵井さん:
そのスタイル、色を変えずに見たままの色で勝負したのが、ごめんなさい、写真集の紹介になってしまうかもしれないけれど、この『unknown』という去年出した写真集です。現時点で僕にとってはこれが集大成的な写真集で、持っておられる方も多いと思いますが、向こうにあるのでもしよかったら見てください。

それで最近、インスタとかでつながっている人は気づいているかもしれませんが、少し変えてきました。実は、僕のパソコンにはフォトショップとか色を変えるソフトが全く入っていなくてちょっと昭和なカメラマンですが、これはキヤノンの現像ソフトを使って少し色をいじっています。あとはMacについているソフトで少し色を変えてみなさんが見やすいように、気持ちを乗せやすい感じの色を作り始めたのがここ最近の僕です。

「#写真」

鍵井さん:
何でそんなことをし始めたかというと、本屋さんに行っても写真集は大きな書店だったらあるけれど、小さな書店には置いてすらありません。写真集のコーナーに行っても自分の写真集が置いてあるのはここだけで、置いてもらうだけでも素晴らしいことですが、「俺って数限られた本屋さんのたったこれだけのスペースを目標にして一年間がんばって写真を撮ってんの? ちょっと違うんじゃないの」という気持ちになってしまったのです。今はSNSで簡単にみなさんの手もとに僕の写真を届けることができます。いやらしい話、SNSで写真を発表するのは、俺は自分の財産をタダでみんなと共有しているみたいなところがあるのですが、日本で災害が続いて、「SNSでつながっている人が見てくれて、その人が朝起きた時につらい気持ちを少しでも和らげてくれるのならなんぼでも出したろ」という気持ちになりました。今はこんなことを言って、全く出さなくなるかもしれないけど、でも何となくそんな気持ちになって、「俺の写真ってどうやったら役立つのかな。もしかしたらそういう時に人の気持ちに少しでもやさしくふれるような存在であってもいいのかな」と、これだけたくさん災害が続くと思ってきました。それで「もっと届くようにするにはどうしたらいいんだろう。みんなの気持ちを盛り上げるように色をさわっていいかな」という感じになって、だから去年まで全く色を変えないことを標榜していた自分もいましたが、最近は「ちょっと色を変えてもいいのかな。本当の色ではなくて、みんなが求めている色でもいいのかな」と思ってきました。

「#写真」フェリシモ、海とかもめ部の鍵井さんの写真を使ったスカート

鍵井さん:
あとから話がありますが、フェリシモさんからこの講演会の話をいただいた時に「僕の写真を使ってなにか作ってください」と言いました。なにか作ってくれそうなので、女子のみなさん、楽しみにしていてください。これは両方とも僕の写真です。

そしてもうひとつ、どんどん話は飛んでいきます。この僕の気持ちの変化に、もうひとつ背中を押してくれた人がいます。

「#写真」

鍵井さん:
それはこの子です。Maakoちゃんと言ってInstagramのフォロワー数が10何万人いるめちゃめちゃ人気の女の子ですが、この子と一緒に月刊『DIVER』という雑誌で2カ月ほど前にフィリピンにロケに行きました。フィリピンの空港で「はじめまして」「どうもー」と最初だから緊張していたら彼女が関西弁をしゃべっていて「どこなん?」と聞いたら「池田」と言うから「池田? 俺、川西!」みたいな感じで距離がもう一気に近づいて、みなさん想像できますよね、「うそー、池田!」「川西!」「呉服橋!」みたいな感じで話がつながってすぐ仲よくなりました。

「#写真」撮影風景 複数

鍵井さん:
これは楽しみページで見てください。こんな感じで撮影をしています。楽しそうでしょ。ハハハ。こんな笑顔、最近妻にも見せていないかもしれないです。これ冗談です。ハハ。文字を起こしている人がいるんですよね、怖いな。それやめてくださいね。こんな感じです。おしりがいいでしょう? 「はい、飛んでみましょうか」って。仕事ですからね。僕、これ趣味でしているわけではないので。「ちょっと水際で飛びますか」みたいな感じで足から水がピュッ、僕のこと軽蔑していませんか。大丈夫ですか。

「#写真」

鍵井さん:
これも「写真撮ろうぜ!」みたいな感じで「ちょっとこのカメラに向けて水かけてくれ」「はーい」「もっともっと」「はーい」という感じです。すみません。ハハハ。これで撮ったあがりがこういう感じです。雑誌の仕事で行ったら必ず表紙を撮らなくてはいけないから表紙は必ず狙っていきますが、Maakoちゃんとメッセージ交換しながら「これ、表紙いいよね」「すごい素敵」となって、彼女が勝手に『DIVER』とデザインして(写真に雑誌のロゴを加工してつけて)送ってきたのを「これだよね」「これやな、新しい感じの表紙は」とか言いながら2人では超盛り上がっていたのですが、実際は全然違いました。

「#写真」『DIVER』の表紙

鍵井さん:
「ああ、ここまで違うんだ」と思って。やっぱりカメラマンとモデルさんと編集者の考えることは違うようでした。

「#写真」

鍵井さん:
俺、こんなことしてんのかなと思って。*ヒロ*さんが撮ってくれたのですが、まるで僕はおしりを撮影する盗撮カメラマンみたいな感じで。ごめんなさい。ハハハ。

「#写真」

鍵井さん:
死刑ですね、これ。どんどん行きましょう。そうそう、ごめんなさい、彼女のそんな話じゃない。そのMaakoちゃんがインスタ用の写真を陸上で撮って、ロケ中の移動バスですぐにインスタにあげるのです。その時に彼女が携帯の機能を使って色とか割と変えているのです。彼女なりの色を作ってアップしていて、そういうのを俺は途中で見ていて「自由だなー、いいなー」みたいな気持ちになりました。自然の本来の色に固執していたのですが、一般の方でも簡単に加工できるし、色なんてすぐに変えられるしと考えていたら、「僕ももう少し自由にやっていいのかな」と思って、最近は少し変えたりしています。それがいいのか悪いのかわからないけれど、色を変えることによって僕の世界がロマンチックになってきました。だから、もう少し物語的な写真が撮れたらいいなと思っています。

「#写真」

鍵井さん:
これも、実はきっかけがあります。今まで以上に青が濃いです。この前、パチンコ屋さんから「店の中の装飾を海の写真にしたいから鍵井さんの写真で行きましょう」という話が来ました。その時にこれまでの写真を見せたのですが、あまり納得されないので「ええー!くやしいー!」と思いました。たまたまその時にここにロケに行っていて、こんな感じで「一般の人が思う海みたいな感じ」を作ってみました。俺たちがリアルに見ている海というよりは、海のことを知らない人たち、もしくは子どもたちが描く海で勝負してやろうという気持ちになって、使われるかどうかはわからないけれど、これを出したらやっぱり気に入られて「あぁ」と思いました。

■海の生き物たちのさまざまな姿

「#写真」(複数)

鍵井さん:
こういう感じとか。あまり話すことがないから見ていってください。全く色を作っているわけではなくて、少し明るくしたり濃くしたりしています。

「#写真」

鍵井さん:
不思議な世界でしょう。メキシコのソコロというところです。岩肌がオレンジ色でそこにサメが寝ています。サメだから怖いのですが、撮影したらどこか遠い世界のおとぎ話のような写真だと思って。

「#写真」

鍵井さん:
これはこの前ロケに行ってきた奄美大島です。僕はロケに行く前は何も考えていなくて行ったとこ勝負なところが多いのですが、奄美大島に行ったら「鍵井さん、アマミホシゾラフグの巣を見つけました!」「うそー!」となりました。朝、飛行機に乗る時はこれに会えるなんて思ってもいませんでした。これはフグが作る産卵床です。オスがこれを作ってメスを呼んでここで産卵します。オスは一生懸命これを作ってメスを呼ぶのですが、メスが気に入らなかったりするとオスの努力は全く無駄になってしまいます。大きさはこのテーブルくらいです。

「#写真」

鍵井さん:
これは関西だから持ってきました。ジャニーズWEST、関西出身の桐山君です。めっちゃいい子でした。ごめん、関西だから持ってきたけどあまり盛り上がらないね。ええ子やったで。行こう。

「#写真」

鍵井さん:
ジュゴン。

「#写真」

鍵井さん:
ジンベイザメ。

「#写真」

鍵井さん:
これはプレゼントでみなさんに配ってもらったポストカードのイルカちゃんです。これもメキシコのソコロで撮影しました。イルカは割とイルカだけの写真になりがちですが、これはイルカだけではなくてまわりにほかのお魚も写っているから海の豊かさのふくらみがある写真だと思って今回、これを選びました。これ、またいつかゆっくり聞いて。

ウミウシ 画像

「#写真」

鍵井さん:
さっき僕は散々「もう写真集、どうしようかな」とか言いましたが、作ります。ハハハ。次に作る予定はこの子です。

「#写真」

鍵井さん:
ウミウシという巻き貝の仲間のかわいい生き物がいるのですが、それを使って写真集を作ります。編集会議の企画はほぼ通っていて、あとは営業会議の企画を通れば来年くらいにウミウシの写真集を作ることになりそうです。僕はお魚の生態に詳しいカメラマンではなく、どちらかというと色とか宇宙観とかお花みたいとかそういうのが好きなカメラマンなので、科学的に魚の生態を解説していくところが僕の写真には足りないと思っています。この写真集は、ウミウシ博士である中野理枝さんが「鍵井君、一緒に写真集作ろう」ということで「理枝さんが文章を書いてくれたら僕の色だけの写真集ではなく、プラス科学になるな」と、これまでとはまた違う一冊ができると思うのでがんばって作りたいと思っています。今日は撮りためたウミウシを見ていってください。

「#写真」

鍵井さん:
ここにいます。僕は多少色はさわっても生き物を動かすことはまるっきりないので、これも本当にウミウシちゃんがここにいてくれたのです。「ありがとう」と思いながら撮影をしました。

「#写真」

鍵井さん:
いるんです、こういうところに。ありがとう。みんなウミウシわかりますか。これです。後ろの方、ごめんなさい。ちょっと小さいです。

「#写真」

鍵井さん:
海の中ってすごい色で溢れています。

「#写真」

鍵井さん:
全然関係ないけど楽しみだから持ってきました。これはうちの家のシャンデリアです。いいでしょう。プライベートな写真はSNSに絶対あげないでおこうと思っていますが、せっかくみんなが来てくれたから楽しいほうがいいじゃないですか。これはシャンデリアを買って、近くの懇意にしているお花屋さんに持って行って、そこでお花をつけてもらいました。超かわいくないですか。生です。この時は作り立てだからこういう色で、今は茶色っぽくなってきていますがそれでもかわいいです。普通のなにかをつけたくなくて、シャンデリアもかわいいのを買ってきました。いい写真です。こういうのも。

「#写真」クロネコ

鍵井さん:
*ナナ*というネコちゃんです。この子も保護猫です。夏、土曜日にご近所の人が遊びに来て、そのままご近所の家でご飯を食べようとなって家族で移動したら窓を開けていってしまい、この子が逃げてしまったのです。命を大切にしようと思って保護猫をもらってきて育てているのに、ちょっとした家族のミスでいなくなってしまって「なんて責任を持たない飼い方をしているのだろう」と後悔しました。夜にいなくなってその晩は帰ってこなかったから翌日、暑い中、めっちゃ探したのですがいないのです。ネットで調べたらネコちゃんは帰ってくる本能があるというのでその言葉を信じようと、夜に小学校5年の娘が逃げた窓から「ミャー、ミャー」と叫んでいました。そうしたら「ミャー、ミャー」と出てきたんです。「娘、スゲーな」と思いました。うちの家は後ろが山になっていて、泥だらけになったネコがガサガサ、ガサガサ、ブワーッておりてきたらしくて、腹が減ったといってめっちゃ飯を食っていました。一日だけいなくなったのですが、家から出たことのないこのネコはその一日でどんなものを見てきたのかなと思うとうらやましいなと思いました。1歳くらいの女の子のネコちゃんです。どんどん行きましょう。

「#写真」

鍵井さん:
ウミウシ。ごめん、後ろの子、ウミウシ見えないよね。この真ん中にあるキャンディーみたいなのがウミウシです。超かわいいの。

「#写真」

鍵井さん:
かわいいなあ。ネコもかわいいけど改めて見るとウミウシもかわいいなあ。なまえはごめん、全くわからない。ハハハ。ここにもウミウシがいます。ここにガヤという植物みたいな生き物があるのですが、観察していたらこのウミウシがどんどん登ってきてピュッて顔を出したから「ありがと、カチャ」とウミウシを撮りました。

つい数日前まで行っていたインドネシアのレンベで、ガイドさんがポケットから金たわしを出して水中にバスッと差して赤と青のライトを照らし出したので「何をされるのかな」と思って見ていたら。

「#写真」黄色のウミウシの後ろで赤と青のライトが光る様子

鍵井さん:
ハハ。僕はこういうのが嫌いでいっさい撮らないのですが、この時は乗って撮ったらパっと見た瞬間に「楽しい」と思ってしまいました。これもSNSにあげようか迷ったのですがやめておこうと思って。楽しかったです。インドネシアのガイドさんも「こうしたらお客さんが喜ぶんじゃないか」といろいろ考えます。

「#写真」(複数)

鍵井さん:
かわいいね。

「#写真」

鍵井さん:
これはほぼ色をさわっていないです。後ろから水中ライトとかいろいろなライトをあてて撮りました。

「#写真」

鍵井さん:
関西だからなにかしなければいけないと思ってこんなのを持ってきました。すごくないですか、このウミウシ。これは糸満で潜った時にガイドさんが「鍵井さん、おもしろいでしょ、これ見て。顔みたいでしょ」。いつかこういうものだけで写真集を作りたいです。これは和歌山の須江です。笑っているみたいでしょう。よく見て。後ろの赤いカイメンがお化けみたいじゃないですか。見えない? どんどん行くね。

「#写真」

鍵井さん:
こういうのはよくあります。食べるのに夢中で転がってしまうカメさん。

「#写真」(2枚連続)

鍵井さん:
カメ。ウイー。ハハハ。もう1回いくで。カメ。ウイー、やめとこ。このままチョップするんちゃうかなと思ってびっくりしました。

去年くらいに小鳥の写真集がとても売れたので「小鳥みたいに撮ったら売れるんちゃうかな」と思って。

「#写真」小鳥のような魚

鍵井さん:
すみません。

「#写真」

鍵井さん:
これね、青いところを見たらホネホネロックみたいです。どんどん行くよ。

「#写真」

鍵井さん:
「散歩をしているハリセンボン」「襲われる」みたいな感じです。ハハ、かわいいな。あかん、どんどんずれていってる。

「#写真」

鍵井さん:
マナティです。アメリカのフロリダにいるのですが蝋人形の館みたいです。

「#写真」

鍵井さん:
自撮り。

「#写真」

鍵井さん:
かわいいですね。おなかのお肉が。気をつけよう。全然かわいくないですよ。口角あげて「笑顔上手やな」みたいな顔をしていますが、あくびをしたらこんな感じです。

「#写真」

鍵井さん:
「宮崎駿か」みたいな感じです。どんどん行きます。

「#写真」

鍵井さん:
アシカちゃんです。大好きです。

「#写真」

鍵井さん:
子どもでもこんなふうに後ろによけたり。メキシコのラパスというところです。

「#写真」

鍵井さん:
生まれたて、生後6カ月くらいのアシカちゃんです。僕はプロのカメラマンになって20年間欠かさず毎年10月、メキシコのラパスに通っていたのですが、今年初めてラパスに行かないのです。さみしい。会えない。

「#写真」

鍵井さん:
これがボスです。コロニーがあって、一匹のボスがたくさんのメスを従えてたくさんの赤ちゃんを産むのですが子どもがかわいいでしょう。威厳に満ちています。「妻を守るぞ」「子どもを守るぞ」「近寄ってくるやつは追い払うぜ」みたいな感じがにじみ出ているからいいなと思います。父としての僕のあこがれの姿です。

鍵井さん 水中写真

■深刻な海のゴミ問題

「#写真」

鍵井さん:
いろいろな海にずっと通っているとすごいシーンに出会うことがあります。これは水中に捨てられた網に引っかかったアシカちゃんです。

「#写真」網が引っかかったまま陸上で寝ているアシカ

鍵井さん:
寝ているようですが割と起きていて、手を伸ばしても目をちょっとあけては僕の手からするっと遠くに行ってしまいます。かわいそうで取ってあげたいと思ったのですが、残念ながら取ることができませんでした。観察していると陸上に上がってこんな感じでした。痛々しかったです。でもこんなふうに寝ている彼女の表情を見ていると痛々しいけれどかわいいし、複雑な気持ちになりました。

「#写真」

鍵井さん:
これはグアムに近いチュークというところで撮影したサメです。前にしか泳げないサメですが、口もとにゴムの輪っかのような物をくっつけていました。残念ながら僕たちが海に捨ててしまった物です。

「#写真」

鍵井さん:
まるで「取ってください」というかのように近くには来てくれるのですが、もちろん手を伸ばしても僕の手の中に来てくれる気はなく、残念ながら外すことはできませんでした。海の中でたくさん美しいシーンを見せてもらいますが、真逆のこういうのも目につくことがあります。

「#写真」

鍵井さん:
これは和歌山の須江で撮影しました。ハリセンボンの目の所にエギが引っかかって目の上のとげだけがワサッと出て痛々しかったです。釣りをやる人がどうとかそういうことをいうつもりはないのですが、海に潜っている方もたくさんいらっしゃると思いますが、こういうシーンは結構見られます。実は撮影した後、僕はつかまえることはできなかったのですが、その時一緒に潜っていた*クラタ*さんというガイドさんがこのフグをつかまえて、「外したで、鍵井ちゃん」と言って上がってきてくれました。

「#写真」釣り針が魚の口に引っかかっている

鍵井さん:
意外といっぱいいます。魚が集まるところで潜らせてもらう機会が多くて、僕たちもロケの合間の時間に「鍵井さん、釣りしますか」と言われて「じゃあ、する」と釣りをしていて、カマスが多かったりするとカマスはすぐ糸が切れてしまうから「ヤベえ、切れちゃった」と言って、たぶん俺の使っていたやつがこんなふうになってカマスが泳いでいるかもしれないです。

「#スライド」

鍵井さん:
PADIという指導団体がある時、「ゴミが自然界で分解されるのに要する期間」という表を出していました。およその目安ですが、例えばガラス製のボトルは何もしなかったらこの世からなくなるのに100万年かかります。釣り糸は600年、プラスティックのボトルや紙おむつは450年、アルミ缶は80年、こんなふうにあるみたいで、なかなか消滅していかないです。

「#写真」

鍵井さん:
向こう側はびんだから800年でこっち側は空き缶だから80年。文句も言わずお魚たちが住んでくれています。

「#写真」

鍵井さん:
本来ならイソギンチャクのところに丸い石が置かれていることが多いのですが、これは残念ながらこんな感じで空き缶が置かれていて、ここにクマノミが卵を産みつけています。本来なら丸い石に卵を産みつけるのですが、このクマノミは僕らが捨てた空き缶を利用して卵を産みつけて、そこで子育てをしています。割と見られます。先週もインドネシアの海で普通にこういうのを見ていました。

「#写真」魚の腹から出てきたプラスティック

鍵井さん:
2年くらい前から都内の中学校でトークショーを始めたのですが、これを使うことが多いです。最近、テレビでニュースをつけるとプラスティックが大変問題になっています。マイクロプラスティック、粉々になったプラスティックが最後はお魚の体の中に入っていくという現象です。今ここでみなさんにご説明するまでもないですが、捨てられたプラスティックが例えば紫外線を浴びてほかの有害な物質とくっつきやすくなって粉々になったプラスティックをお魚が食べて、僕たちの食卓に戻ってくるみたいなストーリーになっています。この前、本を読んでいると、魚がこの写真のようにプラスティックを食べて、現時点でこの魚を僕たちが食べたから僕たちの体にプラスティックが入ってくるかというと、まだそうではないらしいです。この魚は食べただけで、魚の体までこのプラスティックの成分が届くわけではないので、現段階ではそこはないという話になっていて、今後どうなっていくかわからないけれど魚の生態までプラスティックがしみついているわけではないという感じです。といっても、最近は食卓で使う塩にマイクロプラスティックが軽く混ざっているのではないかと言われているので、なかなか怖い世界になってきたと思います。中国、インドネシア、フィリピン、タイといった今、経済的に伸びようとしている国からゴミが出るみたいです。1回、すごいのを見ました。ここです。

海面にゴミが漂っている画像

鍵井さん:
この海に潜りに行ったことがある人もいると思いますが、インドネシアのアンボンに行ってパッと見たら海がこんなでした。「ヤベえ。すごいとこに来てしまったな」と思いました。潜って海底に行ったら珍しい魚がたくさんいる素晴らしい海でしたが、水面は残念ながらこんな感じです。ゴミがワーっと流れていて上がるところが見つからないくらいです。どこに顔を出そうかなという感じで、ガイドさんがエアーを出してゴミをどけてくれてみんなで浮上しました。実はこの写真自体は借りた物で、僕はこんな写真は勇気がなくて撮れなかったのですが、去年、またここに行き、今度はじっくりゴミの写真を撮ってやろうと思っていました。そうしたらその時は風が強くて、ゴミが全部沖に流されてきれいな海が広がっていました。ハハハ。でも風向きが変わるとまた戻ってくるらしいです。こういうことを中学校で話して後で感想を言われる時に、「鍵井さんはこのゴミ問題に対してなにか活動されているのですか」と中学生に言われます。「すみません」という感じです。僕なりになにかしたいと思ってダイビングショップの人に「このゴミってどうするの?」と聞いたら、「一応、国も気をつけていて、河川が海に流れるところにネットを張ってゴミを収集して、今後はゴミをなくす方向で動いています」という答えは聞きました。いつそうなるかはわかりませんが、インドネシアも一応気にしているみたいです。

「#写真」

鍵井さん:
海の中に潜っているといろいろなものを見ます。後から震災の映像を見てもらいますが、僕たちがやっていることを海がすべて包み込んでくれている、そんな大きな寛容さ、やさしさを持っているようにも見えるけれど、それもいつまでなのかなと思ってしまいます。

これもすごいなと思いました。捨てられた空き缶を数年かけてサンゴが包み込むようになっています。「自然は僕たち人間がやっていることに対してこういうふうに対応してくれているんだ」と思うと、なかなかみんな覗く機会の少ない海の中ですが、こういうことが起きていることもご報告したいと思います。

■震災の海に潜る

「#写真」

鍵井さん:
では、後半にいきます。「震災の海に潜る」。僕は3月11日の震災直後から震災の海に潜り始めました。今も潜っています。潜っているところはここ、この黒い津波があって、この辺です。この7年間、ずっと僕はこの辺で潜っていて、場所は岩手県の宮古市というところです。

「#スライド」地図

鍵井さん:
地図で見ると、盛岡がこの辺にあって車で2時間くらい沿岸に行ったところに宮古市があり、僕はずっとそこに通っています。

「#写真」

鍵井さん:
震災直後の海。昨日まで使われていたであろうアップライトピアノや

「#写真」

鍵井さん:
沈んだ家の中ではソファを見つけました。

「#写真」

鍵井さん:
壊れた防波堤です。よくこんなところに潜っていたなと。一人で潜ることも多かったのですが、怖いとかは全くなくて何かを写したいという気持ちでした。

「#写真」

鍵井さん:
一匹のダンゴウオが震災の海に潜る勇気を持ち続けさせてくれたのですが、それをまとめてもらった8分ほどの番組があるので見ていただきたいと思います。

「#動画」「未来シアター」

「#写真」長靴

鍵井さん:
まとめてもらった物を見ていただいたら何をしているかいちばんわかりやすいのでみなさんに見ていただきました。僕はずっと同じところに潜りつづけていて、僕が潜っている場所はまだいっさい海底のお掃除がされていないところだから、7年もたっているけれどある意味、その時の様子をとどめている場所です。僕はどこに何が沈んでいるかすべて知っているから、この長靴も友だちです。この時は長靴の皮のところにフサギンポというお魚が入っていました。「魚、入ってる」とか思いながら。

「#写真」

鍵井さん:
これはひっくり返った車のタイヤから天然のワカメがワーッと繁茂しています。海底に沈んでいる車は悲しいものだけど、自然が力強く上に伸びていこうとする姿がこの時の震災の海の姿ではないかと思って、これは象徴的な写真だと思いました。

「#写真」

鍵井さん:
2011年の12月に潜った時にもこのクジメという魚たちは、いろいろな物が沈んでいるけれど、全然普通に産卵していました。

「#写真」

鍵井さん:
この子のおなかのところを見ると、これは卵です。自然は全然タフで、その季節がくると魚たちは恋をして産卵をして、それは震災が起きても変わりませんでした。すべてがすべて変わっていないわけではないけれど、そういう変わらぬ営みは力強く見せてもらいました。

「#写真」

鍵井さん:
ずっと観察している車です。季節によってアオサが繁茂して

「#写真」車にアオサがついている

鍵井さん:
こんな感じでかわいくなっています。どんどん行きましょう。

「#写真」屋根がとれた車

鍵井さん:
さっきの車です。屋根がぶっ飛んでいます。これは水深10メートルくらいのとこにあって、冬は海が荒れるので。

「#写真」同じ車が枠組みだけに

鍵井さん:
すごくないですか。さっきの車がこれ、2カ月後です。3年後はこんな感じです。

「#写真」崩壊してしまった車

鍵井さん:
先ほどゴミの話で水中でいろいろな物がなくなっていかないという話をしましたが、これは特に浅瀬にあるからだと思いますが、7年で車ですらこんなに朽ちていくのなら100年後なんてもうなにもないのではないかと。でも、ここには写っていませんが、タイヤだけは全然変わらずあります。僕は定期的に撮影することに何かしら意味があると思って沈んでいる人工物の撮影をしてきましたが、ぶっちゃけ7年もずっとこればかり見ていると疲れます。僕もモチベーションを高く持って行かなくてはいけないから違う目標が欲しいのです。僕の心を動かしてくれるものが必要になって、沈んでいる物以外の岩手県の海底の景色を見るとこんな感じです。

たくさんの赤い水玉写真について話す 鍵井さん

「#写真」たくさんの赤い水玉

鍵井さん:
すべてがすべてではないのですが、ちゃんと見つけるとこんなふうに外国の海にも負けないくらいの色彩がそこにはあったのです。「うわー、きれいだなー。なんだ俺、この7年間、何を見てきたんだ」みたいな感じで、もう少し視野を広げていろいろなところを見ると岩手県の海が持っている本来の美しさが僕の中にドカンと入ってきて、「僕がもっとこの海に通い続ける理由はこれなんじゃないか」と思いました。

「#写真」

鍵井さん:
これも全然色をさわっていない写真です。見た目はこんなふうには見えませんが、ここにストロボをバッとたいて、「どんな感じで写ったかな」と思ってカメラの液晶を見たら、赤とか黄色が僕の中にズコンと入ってきてすごい宝物を見つけてしまいました。今度はこういう美しい写真集をまとめて発表したいという新たな気持ちで岩手県に通い出しています。2020年のオリンピックももちろんありますが、僕にとって大きなことは2021年、震災から10年の年までに、僕は岩手県の海はこんなふうに傷ついてしまいましたという写真をいっぱい世の中に出してしまったから、次は、そんなことは忘れて岩手県の海は本来はこんなに美しいんですよという写真集を出すことが今の僕の目標だと思っています。

僕の講演会に来てくれている方は何回か同じ話があったかもしれませんが、新しい話もさせてもらえたと思います。ありがとうございます。これで一部を終わります。次は質問コーナーがあるので、もう少しざっくばらんにみなさんと楽しみたいと思っていますのでよろしくお願いします。

フェリシモ:
まだまだお話をお伺いしたいのですが、第1部終了のお時間になりました。その前に、本日は鍵井さんの書籍も販売させていただいております。おすすめや見所があればお伺いできますでしょうか。

鍵井さん:
まだ発売されていないカレンダーを今回20部だけ持ってきました。去年から山と渓谷社というところで作ってもらっていて、すごくかわいいカレンダーですのでぜひ見てください。書籍はたくさんあります。

フェリシモ:
これより鍵井さんの書籍の販売を行います。書籍を購入いただいたお客さまには講演終了後にサイン会も予定しております。どうぞこの機会にお立ち寄りくださいませ。

鍵井さんの書籍

第2部

質問1

お客さま:
普通、魚は写真を撮ろうとするとすぐ逃げてしまうと思うけど、どうやってこんなに上手に撮れるんですか。

鍵井さん:
まず、カメラはキヤノンを使って時計はセイコーを使い、本当にすみません、冗談です。ほんまのこと言っていい? ようわからへんねん。ハハ。自分は魚に近寄れるカメラマンだと思っているけど、よそのカメラマンを見てもめっちゃ近づいているから自分だけが特別ではないです。お魚がご飯を食べている時とか、クリーニングといって体についている虫を食べてもらったりする時があるので、そういう時に僕はお魚にさっと近寄って写真を撮ることが多いです。まじめだけどいいですか。

質問2

お客さま:
鍵井さんは魚を操る特別な笛を持っているといううわさを聞いたのですが本当ですか。持っているなら貸してください。

鍵井さん:
持っています。フェリシモさんで商品化してもらおうと思っているので、海とかもめ部でたぶん魚を寄せる笛が販売されますよね。

フェリシモ:
ぜひ検討させていただきたいです。

鍵井さん:
ご興味のある方はフェリシモの海とかもめ部でお願いします。

質問3

お客さま:
今、いちばんお気に入りのダイビングスポットはどこですか。

鍵井さん:
ここで葉山と言ったらいやらしい感じになるよね。いちばんお気に入りのダイビングスポットですか……。ごめんね、すぐ答えた方がいいのですがいろいろなからみがあるから。ハハハ。本当のことを言います。いちばん好きなのはインドネシアのコモドです。言っちゃった。あっ、モルディブが好きです。12月にツアーをするのでよろしくお願いします。

フェリシモ:
モルディブということで。ご質問、ありがとうございました。

鍵井さん:
トークショーが終わってから僕、ざっくばらんでリラックスです。

フェリシモ:
はい、ありがとうございます。

鍵井さん:
先ほどしゃべらせてもらいましたが僕のことを初めて見る人と、ずっと応援してくださる方が混ざっているから内容のバランスがむずかしくて。ありがとうございます。はい、行こう。

質問4

お客さま:
で海での撮影で危ない経験はありますか。また、モチベーションを上げるためにされていることはありますか。

鍵井さん:
モチベーションは、最近、年配のダイバーさんから聞いたのですが、アミノペプチドでしたっけ、ミツバチが遠くに飛べる、そんなサプリを飲んだらいいと言われました。違いましたか? ごめんなさい。まず、危ない目は結構いっぱいあっています。言ったネタ以外では、グアムでダイビングをしていたらすごく揺れて波が高くて、これは危ないとなってアンカーをかけたらちぎれて、もう一個、予備のアンカーをかけたらそれもちぎれて、船はエンジンが動かなくなってウワーっと左右に大きく揺れていました。これはヤバいとなって、米軍のヘリが迎えにきてくれていたので僕はカメラを2台抱えてとりあえず海の中に入りました。米軍のヘリコプターが飛んできてロープがピュッとおりて、かっこいい米軍の男性が降りてきて胸がちょっとキュンとなって、そのまま助けてもらってヘリコプターの中に入って、俺は水中カメラをここに持っているのでわからないように写真をバーっと撮って。ヘリコプターに吊り上げられていく時にブワーっと揺れている波に船があって、船の大きさはこのステージくらいですが、アメリカ人の船長が船で仁王立ちして波の向こうに消えていきました。「かっこええなー。やっぱり船長は降りないんだ」と思って、とかいろいろあります。米軍の人に助けてもらったり、流されて漂流しかけたりとかいっぱいあります。

フェリシモ:
船長はどこへいかれたのですか。

鍵井さん:
船長はそのまま船と一緒に座礁していました。僕はそこに陸上の撮影機材をいっぱい置いていたのですが、船が米軍基地内で座礁してしまったので僕は船におきっぱなしにした陸上のカメラやパスポートを取りにいけませんでした。翌日、濡れた僕のカメラバッグが宿泊先に届いて「何、これ?」と言ったら「カメラ屋さんで売られていたんだけど、君のバッグでしょ?」という話でした。座礁した船できっと米軍の誰かが僕のカメラを見つけてそれをグアムの町中のカメラショップに持って行って売り飛ばそうとしたけど、その事故は新聞にも載っていたから「これ、おまえのじゃないんじゃないの?」と言われて、そいつは走って逃げて行ったらしくて、パスポートが入っていたから僕の物だということがわかって。別に怖い話でもなんでもなくて、ただのアクシデントです。

フェリシモ:
すごい。

鍵井さん:
いい思い出です。

フェリシモ:
お手もとに戻ってきてよかったです。

鍵井さん:
でも濡れたから全部だめになっていました。

フェリシモ:
そうなのですね。ありがとうございます。

鍵井さん:
モチベーションは常にいい写真を撮りたいと思っています。

フェリシモ:
なるほど。

鍵井さん:
あっさりすぎる?

フェリシモ:
いや、もうそれがすべてですね。

鍵井さん:
どんな写真を撮りたいかということは1部でいっぱいお話させてもらったから。

質問5

お客さま:
海に潜っている時や撮影している時にいちばん気をつけていることやポリシーがあれば教えてください。

鍵井さん:
震災直後は全く着底しないというポリシーを作りました。ダイビングや撮影をしていたら底についてしまって、そこにいる生き物を傷つけてしまいます。震災で傷ついた海をこれ以上傷つけることは僕はできないし、誰かに何かやろうぜということはむずかしいから、自分一人で何かできないかと思った時に、ゴミ拾いをしようかとかいろいろ考えましたが無着底でしようと。言っていること、わからないでしょう。ダイビングで海底に降りずにずっと浮いたままで撮影します。僕はそれを3年くらいしていたのですが、震災から7年たってだんだん疲れてきたのか僕の体もフワーっと下の方に沈んでいって、気は使っていますが全く無着底ではなくなりました。震災前よりも海底とか環境は意識していますが、水中で気をつけているポリシーはそういう感じです。「海が美しいですよ」ということを表現したくてこの仕事をしているのに撮影している自分が海底にあるものを殺したり、つぶしたりしていたらそれはあまり素敵ではないと思うので。あと、かっこいい理想みたいな言い方をしたら、撮影した後に魚が逃げないでおいてくれたらうれしいです。僕たちは生き物がこのへんにいて撮影をします。撮影していたらストロボの光も当たるし、近寄って撮った方がいいなと思う時は近寄ったらこの魚はやっぱりベロって逃げてしまいます。これは理想ですが、撮影してもずっと魚がここにいてくれて、いい写真が撮れた後に「ありがとう」と言って状況を何も変えずに立ち去れたらそれがいちばんいいです。

フェリシモ:
そんなことが可能なのですね。

鍵井さん:
それは普通にできることだけど毎回できるわけではないので、そうできればいい写真が撮れたのと同じくらいいいと思います。

質問6

お客さま:
鍵井さんご自身が水中写真に取り組まれたように、好きなことを仕事にするには何が大切だと思いますか。

鍵井さん:
コネ。

フェリシモ:
ハハハ。確かに大切です。

鍵井さん:
コネは冗談ですが、でもコネとかも必要ですよね。いやらしい話になってるよね。僕が水中カメラマンを志した時にどうしてなれたかという大きな理由は、僕がバカだったということです。写真でご飯を食べるなんてとてもむずかしいことなのに僕は絶対にできると思ってそこに対して疑いを持ちませんでした。僕は絶対、水中カメラマンになって活躍すると思いこんでいたし、そうなれないわけがないと思っていたので、よくこんな男に奥さんに来てくれたなと思いながら、ま、いいか。

フェリシモ:
いや、どうぞお話しください。

鍵井さん:
僕は中学2年生の息子がいて、目標は水中カメラマンです。でも実際に彼が水中カメラマンになれるかといったらわからないですよね。なりたいからといってなれる職業ではないと思います。でも好きなことはやっぱり職業にしていただきたい、といってもほとんどの大人は無理ですけど。

フェリシモ:
確かに。息子さんとはよく海に行かれるのですか。

鍵井さん:
去年は2人で沖縄の阿嘉島に行きました。今年の夏は葉山しか行けませんでしたが海は行きます。

フェリシモ:
これからが楽しみですね。

鍵井さん:
水中写真が上手になったらつぶそうかなと。

フェリシモ:
ハハハ。まさかの。

鍵井さん:
昨日、伊丹空港に帰ってきて、1つ下の妹が迎えに来てくれて川西まで連れて帰ってくれた時に、中学校2年の息子が最近インスタを始めて撮った水中写真をあげているのですが、妹が「私、誰かさんの写真よりもりうたの写真の方が好き」とか言い始めて「帰省早々気分悪いな」と思いながら。

フェリシモ:
コラボとかもできたらいいですね。

鍵井さん:
何年後かにりうたがここでしゃべってたらすごいよね。

フェリシモ:
もしかしたら。ありえるかもしれないのでみなさま、お楽しみに。

質問7

お客さま:
これから行きたい海はありますか。

鍵井さん:
ハワイに行きたいです。俺、ハワイに行ったことがないんです。これだけ20何年間、毎月海外に行ってるくせにハワイは未経験です。みんながあこがれるハワイに行ってみたいです。あと、ニューヨークにもスペインにも行ってみたいです。あと、この前写真で見たグリーンランドだったかな、そんなこと言ったらモロッコにも行ってみたいです。

フェリシモ:
めちゃくちゃありますね。

鍵井さん:
めちゃくちゃありました。潜ってみたいところは、流氷ダイビングをしてみたいです。日本で北海道という素晴らしい場所があるのにまだ流氷ダイビングをしたことがないので潜ってみたいです。

質問8

お客さま:
水中写真を勉強中ですが、いつも撮影をする時、警戒されてしまったり驚かせてしまったりして生き物の自然な表情を撮ることができません。鍵井さんの写真に写る生き物たちはとても自然な表情、そしてリラックスしているように感じますが、撮影の際、どのようなことに気をつけていらっしゃいますか。

鍵井さん:
大きなストロボを使って、一発目に目くらましをして動けなくなっている瞬間に近寄ってバンバンバンと撮ります。

フェリシモ:
え?

鍵井さん:
ハハハ。

フェリシモ:
びっくりしました。

鍵井さん:
これくらいのライトみたいにストロボというすごく大きいのを魚たちは目の前でバーンっとたかれます。たぶん、あんなのをこんなところでたかれたら緊張してばっと動かなくなっていると思います。その瞬間です。

フェリシモ:
かたまっている。

鍵井さん:
かたまっている。ハハハ、うそですよ、みなさん。

フェリシモ:
びっくりしました。

鍵井さん:
昔、師匠に言われたことをすごく覚えていて、アシスタントのころは僕は先生のカメラを持っていますが写真を撮っているわけではなくて、その時はすごく魚に近寄れます。伊藤先生はそれを見て、「お前な、魚に近寄れた思ってるやろ。でもカメラ持った瞬間、魚に近寄られへんなるからな」と言われたのですが、どんぴしゃそうでした。自分でカメラを持って撮影しようという気持ちで海の中に入っていったら、カメラを持っていない時はあんなに近寄れた魚に全然近寄れなくなりました。

フェリシモ:
やっぱり違うのですね。

鍵井さん:
ご飯やクリーニングに夢中になっている魚に接近するのもひとつの方法ですが、カメラを持っても生き物たちに接近できるきちんとした答えは持っていません。でも、何となく長い時間をかけて、何がどうしたからどうなったかはわかりませんが、経験をかさねていけば僕だけではなくみなさんにもそのテクニックはできると思います。

質問9

お客さま:
岩手の海で潜られているとのことですが、原発事故で海も汚染されていますが、大丈夫なのでしょうか。故郷の海がこんなことになって悲しく思います。

鍵井さん:
とても心配でした。3週間後に僕が岩手県で潜った時、その下の宮城県で米軍が水中の死体捜索をしていました。その情報を知っていて、米軍の人たちはなにかあるなら潜らないと思っていたから放射線の影響はあまりないと思って潜りました。わからないけれど、あの時生きていた日本人は女性も男性も放射線とか関係なく何か自分でできるならばやるという心構えがあったと思います。それが俺が水中写真を撮ること云々とは違うかもしれませんが。でも、家に帰ってきたら下痢をしていて、「あーあ」と思いながらというのはありました。緊張していたからか、なぜ下痢をしたかはわからないけど、下痢になった時はやっぱり大きな影響があったのかと少し後悔しました。いろいろな勇気を持っていったから大きな後悔はしませんでしたが、そう言っても僕につきあってくれた佐藤輝さんという方もいるから放射線も大変気になります。

これはいい話か悪い話かわからないけど事実として、僕は岩手県で潜る時に漁師さんにお世話になって船を出してもらって行きます。一年くらいたったある日、「鍵井くん、ワカメ採ってきて」と言われて「何するんですか」と言ったら「県が検査するらしいから。放射線がどうかみたいな感じで」と言われて「そうですか」とワカメを採ってきて渡しました。次に行った時に「どうでしたか、結果」と言うと「いやいや、結果なんか俺らに教えてくれへんねん」「そうですか」。それは安全? でも漁師さんたちは「安全だからなにも言わないんだ」という理解をされています。だから、ごめんね、それが事実の全部ではないです。僕が見知ったほんのひとつのことですから、それがすべてに対してということではなくて、僕が活動していく中でそういう会話もあったということだけにしておいてください。

質問10

お客さま:
撮影をしていてこれは撮り逃したなというものはありますか。

鍵井さん:
撮り逃したなんて数えられないくらいいっぱいあります。今、本当に思ったことを言ってもいいですか。

フェリシモ:
大丈夫です。お願いします。

鍵井さん:
やめとこうかな、いや、いいわ。みんな、ここだけにしてね。文字起こしとかはなしね。

TOKIOの山口くんとバリ島にマンボウを見にロケに行きました。1日だけ見に行くのでマンボウを見るのがワンダイブだけでした。俺はマンボウなんて出ないと思っていたから、マンボウの所に行かずにこの辺でオレンジ色のキンギョハナダイとかを撮っていたら、カンカンカンと鳴ったのでなにか起きてるなと思ったら編集長が怒って来て、「そこでさっき山口さんとマンボウが一緒になってたよ」と言われました。そのために潜っているのに、僕はそこについて行かずに普通の景色を一生懸命撮っていて、もうクビじゃないですか、俺。めっちゃうれしそうに彼がガッツポーズで帰ってきましたが、俺はガッツポーズどころではなく「やってしもたー」と思って、編集長と彼は船に上がったけど、俺は「絶対ヤバい」と、それで仕事がなくなることはないですけどプライドが許さなくてずっと水中に居続けて、その後マンボウが出てきたのでマンボウだけ撮って上がっていきました。「大切なシーンを撮り逃したな」と思いました。ほかにもっといっぱいあると思いますが、ふと思い出したのはそれでした。

フェリシモ:
その時はなぜマンボウが出ないだろうとお考えになられたのですか。

鍵井さん:
僕の過信です。この海のことは俺はもう知っていると思って。ハハハ。間違えておりました。ダメですね。

フェリシモ:
とんでもない。でもその後、マンボウが出たのが驚きです。

鍵井さん:
超うれしかったです。ちょっと向こうを向いている写真ですがよかったです。

質問11

フェリシモ:
お客さまからのご質問は以上ですが、私からも質問させていただいてもよろしいでしょうか。

鍵井さん:
イヤだ。

フェリシモ:
そこをなんとかお願いいたします。

鍵井さん:
はい。

フェリシモ:
ありがとうございます。私は沖縄が好きで毎年沖縄に行きます。鍵井さんが思う沖縄のお気に入りの海があれば教えていただきたいです。

鍵井さん:
本当のこと言っていいですか。阿嘉島が好きです。沖縄はいろいろなところに行っていて、石垣島とか久米島も大好きですが、ごめんね。本島からフェリーで行ける慶良間諸島というところがあります。渡嘉敷、座間味、阿嘉島があって、渡嘉敷と座間味は有名ですが阿嘉島はどちらかというとシンプルな感じです。阿嘉島は本当になにもないです。コンビニも信号もないし、商店が1つくらいしかないです。ダイビングが終わったらその商店に行ってキャンディーを買って海岸で食べて、夕方になったら海岸にケラマジカというシカが出てきて、「これオーストラリアやったらカンガルーみたいなもんやな」とか言いながら、そんな感じでなにもなくてお金のにおいが全くしない島なのです。そこが好き。

フェリシモ:
初めて聞きました。

鍵井さん:
外国で言ったらミクロネシアにあるロタというところも好きです。ロタもなにもないです。レストランも3軒くらいしかないし、本当になにもなくて、青い海に囲まれていて、島を歩いていると海は見えないけど青い海を感じてしまうくらい青が優位な島です。好きです。でもニューヨークに行きたいけどね。

フェリシモ:
ハハハ。また間逆ですね。

鍵井さん:
そうですね。

フェリシモ:
どちらも田舎というか、なにもない場所にすごくきれいな海が広がっているという感じですか。

鍵井さん:
そういうのがいいです。

フェリシモ:
チェックしておきます。

鍵井さん:
でもここにいらっしゃる方はそれぞれ好きな沖縄があると思うので怖いな。

鍵井さん書籍 地球上で最も美しい青。

質問12

フェリシモ:
写真集『unknown』を拝見させていただきましたが、迫力満点で気づけばページをめくる手が止まりませんでした。こちらの写真集ができた背景やタイトルのコンセプトなどがあればお教えいただきたいです。

鍵井さん:
たくさん写真集を出させてもらって、明るくてきれいな写真集が多いですが、それは僕なりの戦略があります。明るくてポップなもので販売数をのばして、写真集が売れるカメラマンだということを出版社の人に知ってもらって。

フェリシモ:
そうなのですね。

鍵井さん:
いやらしい?

フェリシモ:
いや、全然。いいことです。

鍵井さん:
僕は20年前から、10年前でもいいけど、『unknown』みたいな写真集を作りたかったのですが、その時の僕は実績がないから出版社が作ってくれないのです。だから、みなさんに手にとってもらいやすい、わかりやすい、明るくて疲れた時に見られるような写真集をいっぱい作って、それが売れていったからやっと僕は『unknown』を作れたのです。言っていることあたっていますか、大丈夫?

フェリシモ:
大丈夫です。

鍵井さん:
でも『unknown』を作ったことによってすごくわかったことがあったので、またいつかお伝えします。

フェリシモ:
そこは。

鍵井さん:
別に秘密ではないですけど、去年の9月末くらいに『unknown』を出して、もっと売れると思ったけどそんなに。超ざっくばらんすぎない? 大丈夫かな。去年、3冊出したのがまず間違いでした。「私はこれ」という感じでみんながみんな3冊買ってくれるわけではないので、そこがまず大きな失敗でした。そして9月末に『unknown』を出してしまったのがこれまた失敗。夏前に出すべきでした。僕は本当に『unknown』の世界をみんなに届けたくてがんばってきたけれど、人間って疲れている時はやさしい写真集を見たくなってしまうのです。だから日本という市場で考えると、やっぱり明るくてポップでみんなの気持ちをやさしくしてくれるような写真集がある意味王道なのかと考えることはあります。この前、甲本ヒロトさんの名言で「世の中でいちばん売れているものがおいしいものならそれはカップヌードルだよね」とあって、おもしろいなと思いました。いちばん売れている物がいいかどうか、そんな感じです。

フェリシモ:
でも『unknown』は鍵井さんが本当に撮りたかった写真集とお伺いしたのですが。

鍵井さん:
そうです。間違いなく。いや、そんなこと言ったらほかの写真集の売り上げに影響が出てくる。ハハハ。

フェリシモ:
いや、どちらも。明るい写真も暗いリアルな海の姿も。

鍵井さん:
暗い。

フェリシモ:
青い、ですかね。

鍵井さん:
ありがとうございます。

フェリシモ:
どちらもよさがあると思います。

鍵井さん:
でも、明るい、気持ちいい写真集を作って『unknown』を作らせてもらった時点で僕の中でひとつ吹っ切ることができたというか、また変われそうな気がするのでありがたいです。

質問13

フェリシモ:
約20年間におよぶキャリアで海の変化を感じますか。

鍵井さん:
年齢による体力の衰えを感じます。

フェリシモ:
やっぱり全然違いますか。

鍵井さん:
昔はジンベイザメと1時間くらい泳げたのですが、最近は3分くらいです。

フェリシモ:
めちゃくちゃ減っていますね。

鍵井さん:
ハハハ。冗談です。海の変化はあると思います。日本でこんなに災害が続いて気象状況が違うように、海もそうです。学者ではないからよくわかりませんが、よくなっているようには思えない、それくらいです。

質問14

フェリシモ:
今、お話が出ましたが、1回のダイビングでどれくらいの時間を潜られるのか気になっておりまして教えていただきたいです。

鍵井さん:
1回で60分くらいです。でも、この前レンベというインドネシアのおもしろい海に行った時は70分から80分、5回潜ったから結構潜っていました。

フェリシモ:
では、海によって長さが変わったり。

鍵井さん:
そうです。先日は6時間くらいいたから割といたという感じです。そう考えるとみなさんに見ていただいている写真も、海の中に潜っているから撮影している時間はそんなに長くありません。のべつ撮影できるわけではないから1日の中で本当にシャッターを切っている時間は割と少ないです。ガイドさんが生き物を見せてくれる時もありますが、自分なりの視点で風景を見たい時は生き物や景色を探したりするから、そういう時間を含めると正味シャッターを切っているタイミングは少ないです。

フェリシモ:
年間を通してどれくらいの期間を海で過ごされているのですか。

鍵井さん:
半分くらいだと思います。本当に数えるのが怖いかな。

質問15

フェリシモ:
やりたいことをやり続けるのはとてもむずかしいと思います。何か好きなことを始めようと思っている方に向けてアドバイスをいただきたいです。

鍵井さん:
それ、すごくむずかしくないですか。

フェリシモ:
むずかしければ次の質問に移らせていただきます。

鍵井さん:
ごめん、むずかしいわ。「大丈夫だよ。俺どんな質問も答えられるからじゃんじゃん来て」と言いましたがごめんなさい。

質問16

フェリシモ:
近くの海と遠くの海、たくさんの海を潜られているのですが、大きな違いは何があると思いますか。

鍵井さん:
大きな違いはないです。最初に見てもらったように、例えば須磨の身近な海でもあれだけ命のドラマはあるし、震災の内海もそうだし、外国の海でも、大きく見たら景色のスケールの違いはあるかもしれないけど、こまかく見ていったら命の営みは一緒だから、遠くに行こうが近くに行こうが大切なものはきっと見つかると思います。

フェリシモ:
確かに須磨の海の中にあんなに魚がいることを知らなかったのでびっくりしました。

鍵井さん:
何、その小学生みたいな感想。

フェリシモ:
ハハハ。潜ることがないので。すみません、ありがとうございます。まもなく講演終了の時刻が迫っておりますので、以上で質問のお時間を終了とさせていただきます。たくさんのご質問をいただき、ありがとうございました。それでは、これにて神戸学校も終了となりますが、最後に鍵井さんに神戸学校を代表して質問をさせていただきます。鍵井さんが一生をかけてやりとげたい夢について教えていただけますか。お願いいたします。

鍵井さん:
ここ数年間、夢とかそういうのがあまりなくて、ちゃんと大きな夢を見つけないといけないと思っているのが本当の気持ちです。毎日のロケをやって、写真集を作って、家族と過ごして、意外とそれだけで精一杯で。3週間くらい前かな、モルディブの船上でわかったのですが、俺、ずっと48歳だと思っていたのですが、47歳でした。「俺、48歳。1971年生まれ」とかしゃべっていたら「計算あわないですよ。たぶん鍵井さん、47歳ですよ」と言われました。なぜか47歳の誕生日を迎えた時に47歳を越えて48歳だと思ってしまって、今、48歳だと思っていたら意外に47歳だったからよかったなと思って、その時間を使ってもう少しがんばろうと思いました。

フェリシモ:
若返った気分ですね。

鍵井さん:
ハハ。でも、いろいろ考えることもあります。僕はここにこういうふうに立たせてもらって、本も作らせてもらったり、カメラマンとして生計を立てて一生懸命がんばっていて、そんなに失敗はしていないというか、成功という言葉があっているかどうかはわかりませんが、何となく成功。そして1回の成功ではなくて、その成功を継続させていきたいというのが今の僕の目標です。夢は、まだ妻にも話していないからここでお話しするわけにはいかないかもしれません。

フェリシモ:
全然、奥さまにお話しいただいてからで。

鍵井さん:
僕が海外ロケに行く時は気を使わない仲間と一緒に行くこともあって、この前インドネシアに一緒に行った人と3年ぶりくらい、久しぶりに酒を飲んで、その時に「もうちょっとがんばれよ」と言われました。何となく彼に話した夢を僕は到達させていなかったから、「それ、俺がサポートしてやるからがんばれよ」みたいなことを言われて、サポートしてくれることはうれしいのですが、「周りにいてくれる人は俺のことをそんなふうに見ているんだな」と思うと「もっとがんばらなくちゃいけないな」と思わされました。ここで大きくは言えないですが、もう少し違う何者かになりたいというのが夢です。

フェリシモ:
鍵井さん、ありがとうございます。

鍵井さん:
ありがとうございました。

フェリシモ:
では、最後にこちらの動画をご覧いただきます。

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鍵井さんと記念撮影
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