- 最後に人の心に残るのはストーリーある「物」語りだけ -
私が高校一年のころ、母がおもむろに小さな細工箱から、いくつかの指輪やイヤリングを見せてくれた。ふだんアクセサリーを着けない母が、そういった物を持っていることに驚いた。その中で、私が一番気になったのは、不思議な輝きを放つ指輪。それは「オパール」という鉱石で、聞くと父からのプレゼントだったそうだ。母は少し恥ずかしそうに、でも嬉しそうにそのときのことを語ってくれた。男ばかり3人兄弟の末っ子だった私に、思い出を譲ってくれたのかもしれない。それから「オパール」は、自分にとって特別なものになった。
父との思い出は、ひとつの「革鞄」にある。幼少のころ、酔っぱらった父が帰宅時のタクシーの中に忘れた鞄を取りに、翌朝東京タワー近くのタクシー会社まで二人で取りに行ったのが父と初めての外出だった。父はその後もずっとその鞄を愛用していたが、数年後ついにくたびれて買い換えた。でも父は新しい鞄があまり気に入らなかったようで、前の鞄のような本革がいいのに、とよく口にしていたのを覚えている。というより、忘れられなかった。
「オパール」の指輪も「本革の鞄」も、母と父の思い出が凝縮されたもの。私にとって特別なその記憶を原点にしながら、物づくりをしている。「物」がひとりでに語り出す、そんな物づくりをしたいと思うのは、多分自分の経験から。他愛ない立ち話や雑談の中から、ふと誰かの熱い想いにふれたとき、その想いをカタチにしたいと強く思う。それは、最後に人の心に残るのは、そこに込められた素敵な感情(ストーリー)だと思うから。
父が欲しがっていた思い出の中の鞄を再現しようと、2004年に最初の鞄を企画してから十数年が経った。その間にたくさんの人と出会い、たくさんの物語に出会い、たくさんの物づくりを続けてきた。仕事やプライベートで出会う人たちの何気ない日常の中でつむがれたエピソードから生まれるものこそ、私にとって誰かに自慢したい「日本製」だ。
日本の物づくりを通して、たくさんの素敵な物語を伝えてきた「日本職人プロジェクト」。さまざまな魅力的な人たちの想いと共に、「物」語るアイテムを生み出してきた。一人ひとりの中にある物語を読み解き、カタチにしたプロダクトは、届いた人のもとでまた新しい物語をつむいでいく。私たちが作るものは完成品ではなく、物語のバトンのようなもの。世界にただひとつの「物」語りを、これからも続けていく。
鞄メーカーデザイナー
〈 小林 弓子 〉
コピーライター
〈 金輪際 セメ子 〉
プロダクトデザイナー
〈 福井 俊男 〉
福岡鞄作家
〈 岡 政孝 〉
皮革工業所副社長
〈 中嶋 正樹 〉
ジャガー織職人
〈 遠藤 由貴 〉
テキスタイルメーカー
プロダクトデザイナー
〈 丸山 洵平 〉
ファッションスタイリスト
〈 村上きわこ 〉
チョコレートバイヤー
〈 みり 〉
felissimoプランナー
〈 MOE 〉
felissimoディレクター
〈 山猫 〉
金沢時計ブランド
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〈 牛島 孝 〉
長田の靴工房職人
〈 前城 勝 〉
神戸長田靴工場のデザイナー
〈 村上 峻一 〉