#34 [2025/11.19]
わたしたちの、このごろ
いつかわたしも、誰かの視野や可能性を広げてあげられるような人になりたいです
北条奈々さんNana Hojo
こう語るのは、現在、神戸市の小さなデザイン事務所で、グラフィックデザイナーとして働く、北条奈々(ほうじょう・なな)さん、23歳だ
私が彼女に初めて出会ったとき、「なんて心地のよいコミュニケーションを取る人なのだろう」と思った。笑顔が素敵で、誰に対しても平等にあたたかく接する。そこには気取ったところがなく、自然体のまま相手の言葉を受け止めているように見えた。
今回じっくり話を聞くうちに、彼女がどうしてそんなふうに人と関われるのか、その理由が少しずつ見えてきた。
バレーボールに打ち込みながらも、
心の片隅でデザイナーを夢みていた
北条さん:本当にバレーボールひと筋だったんですよ。
どんな子ども時代を過ごしたのかを問うと、「うーん……」と少し悩んだあと、ひと言こう返ってきた。両親がそろってバレーボール経験者だったこともあり、気づいたころには自然に始めていたという。
北条さん:子どものころにみんながハマるようなアニメやゲームに夢中になることもなく、小学校から高校まで、ひたすらバレーボールに打ち込んでいました。そのなかでも、わたし自身が大切にしていたのは、「この仲間と一緒にがんばろう!」と常に思えるような、人と人とのいい関係性を築くことだったように思います。

「人と関わる時間」を大切にしていたその姿勢は、今の彼女の在り方にそのままつながっているように思える。
彼女の心地よいコミュニケーションの根底にある、人と人との関係性を大切にしたいという思いは、もしかすると、このころから確かに芽吹いていたのかもしれない。

そんななか、バレーボール一色の人生から、別の生き方を考え始めたのは、高校卒業後の進路を決めるタイミングだったそう。北条さんの頭の中に真っ先に思い浮かんだのが、デザインの道だった。
北条さん:実は、バレーボール以外に、幼いころから絵を描くことが好きだったこともあり、なにかをつくることにはずっと惹かれていました。中学生のときに書いた将来の夢を見返すと、デザイナーと書いていたくらい。高校を卒業したら、そっちに思い切って舵を切ってみようと思い、グラフィックデザインを学べる専門学校への進学を決めました。
デザインは人の想いや意思を体現したもの
専門学校に入ってすぐ、彼女はひとつの発見をする。
それは、自分が「かわいい」「かっこいい」と思っていたチラシやポスターには、すべて「なぜこうなっているのか」という理由がある、ということだった。
北条さん:今となっては当たり前のことなのですが、当時は無知だったので、デザインってもっと直感的につくるものだと思っていたんです。でも実際は、クライアントの想いを汲み取って、それを広く伝えるためにデザインに落とし込んでいく。いいデザインはデザイナーとクライアントの人と人とのいい関係性があってこそ生まれるんだと。それがすごくおもしろいと思いました。
「表現する」ではなく、「誰かの想いを伝える」。
その視点を得たことで、北条さんの中でデザインは、技術や装飾だけではなく、関係性の言語へと変わっていった。

2年しかない専門学校の学生生活はあっという間に過ぎていき、いよいよ就職先を探すタイミングにさしかかったときも、彼女の軸になったのは、人やまち、土地との関係性を大切にしながら働ける場所だった。
北条さん:そう考えたときに、大手の広告代理店などではないな、と。クライアントさんの「何がしたい」をじっくり直接聞きながら仕事ができる小さな事務所を求めて、全国の気になるデザイナーさんに、まずは会いに行ってみようと思いました。
いくつもの出会いから
視野が広がった就職活動期間
彼女がそこで出会ったのは、仕事を「人と長く関わるための手段」として使っているような、あたたかいデザイナーたちだったという。
北条さん:わたしもこういう人になりたいと思う方ばかりでした。学生のわたしにも真摯に進路相談に乗ってくれて。実際に仕事に同行させていただいたりもしたのですが、ずっと人や地域のことを考えて、密接に繋がりながら仕事をつくっていく姿にあこがれました。デザイナーとしても人としても、わたしの視野と可能性を広げてくれた時間でした。

いくつもの出会いを経て、北条さんが初めての職場に選んだのは、神戸・塩屋にある小さなデザイン事務所だった。
北条さん:大きな案件というよりも、地域と心地よく繋がりながら仕事をつくっている場所で、わたしの理想の働き方ができそうだったことから、就職を決めました。
働き初めて、今年(2025年)で3年目。
行政や地元企業の広報物、イベントのフライヤー、店舗のロゴやカードづくりなど、さまざまな仕事を経験してきた。2人しかいない事務所だが、無理のない働き方で、余白のある時間を大切にできているという。

北条さん:仕事に追われるのではなくて、一つひとつのクライアントさんとしっかりと人間関係を築ける余裕を持ちながら仕事ができています。仕事だけで終わる関係性ではなくて、やっぱりわたしは、人と人として繋がりたい。そこからよりよいデザインも生まれていくと思っています。
将来的には、独立することを目標にしているが、今は焦らず、さまざまなことを経験しながら、目の前の関係性を大切に積み重ねていきたいと話す北条さん。
北条 さん:いつか、これまでわたしが出会った人たちのように、わたしも誰かの視野や可能性を広げてあげられるような人になりたいと思っています。
彼女と話していると、こちらまで肩の力が抜けていく。
きっとその穏やかさは、これまで出会ってきた人たちから受け取ったものを、今度は誰かに手渡していこうとする想いの表れなのだろう。
デザイナーとしての北条さんは、ただかたちを整えるよりも、想いをすくい上げることを大切にしている。
言葉にならない気持ちや、その人らしさを見つめながら、丁寧にデザインへ落とし込んでいく。
そうして生まれるのは「作品」ではなく、「関係」だ。
人と人のあいだに、やわらかく橋をかけるように。
その橋の先に、また新しい誰かの可能性が広がっていく。
それこそが、北条さんのデザインであり、生き方そのものなのだと思う。
STAFF
photo / text : Nana Nose



