「芸術の秋に、絵画を鑑賞する気分で楽しめる時計を」と、プロジェクトリーダー・山猫が相談を持ち掛けたのは、金沢の時計工房のアートディレクター・牛島孝さん。日本画家としても活躍する牛島さんに、「山猫が敬愛する大好きな画家と牛島さんが共演する作品を観てみたい!」とお願いしました。
山猫が提案したのは、いずれも19世紀後半から20世紀初頭のフランスで活動した画家 オディロン・ルドン(Odilon Redon)の作品。そして牛島さんが選んだのは、ルドンの後期の色彩豊かな作品『ペガサスにのるミューズ』でした。神話世界を描いたこの作品の世界観を、牛島さんは天然の岩絵具で丁寧に表現。鉱石を砕いた岩絵の具は古来から伝わる日本画の画材で、この文字盤に使われているのはソーダライト、アマゾナイト、ルビー、ガーネット。和紙の上に岩絵の具を塗り重ね、神々しい世界を描き出しています。鉱石の色彩は見る角度によって小さくきらめき、まさに見惚れるほどの美しさ。
手作業で一点ずつ丁寧に描かれた文字盤は、どれも世界にひとつの存在です。時間を示すインデックスも和紙に金箔を貼り、丸く打ち抜いたもの。文字盤を包み込む本体は、木目が美しい欅(けやき)を使用。漆器の木地を作る職人さんが、回転する木にカンナを当てて削る「ろくろ引き」の技法で製作しています。裏面のカバーも牛革製のものを使用し、見えない部分まで完璧な仕上がりです。
日本画や工芸の技法を使い、西洋絵画の世界観を表現したこの時計は、道具というよりアート作品の域。牛島さんとルドンの時空を超えたコラボが、想像以上の作品に昇華しました。絵画を飾るように、日々の暮らしの中で小さなアートを楽しんでください。
※実物の作品『ペガサスにのるミューズ』は、群馬県立近代美術館に所蔵されています。