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俳優として魅力的なのは“嘘”がなくて“嘘”が上手い人 「劇作家・演出家」のお仕事 ー瀬戸山 美咲さん(前編)ー【連載】推し事現場のあの仕事 #006

わたしたちの“推し”が輝いている劇場やライブ会場などの“現場”。そこではふだんスポットライトを浴びることが少ない、多くの人々によって作品が作られています。本連載では、現場の裏側から作品を支えるさまざまなクリエイターたちに焦点を当て、現場でのモロモロや創作過程のエピソードなど、さまざまな“お仕事トーク”を深掘りしていきます。

第6回目のゲストは、演出家、劇作家、脚本家としてご活躍の瀬戸山 美咲(せとやま みさき)さん。<前編>ではジャニーズメンバー出演作品の演出や上演台本の執筆も多い瀬戸山さんに、演出家・劇作家としてのお仕事の過程や、ご自身が魅力的と感じる俳優像についてうかがいました(編集部)

瀬戸山美咲さん

瀬戸山 美咲さん

――瀬戸山さんが演出家としてお仕事をなさる場合、企画も含め初日のどのくらい前から動かれるのでしょうか?

瀬戸山 カンパニーの規模や形態にもよりますが、企画段階から考えると3、4年前から動いていると思います。たとえば9月に全国公演を終えた屋良朝幸さん主演の音楽劇『スラムドッグ$ミリオネア』は、担当のプロデューサーさんとかなり以前から「なにか一緒にやりましょう」とお話していて、お互いが観たものや読んだものを定期的に持ち寄るミーティングを重ねていました。そこから具体的に作品の選定をおこない、実現した舞台です。

――大手主催の舞台って、多くは先に上演作品が決まり、そのあとで演出家にオファーがあるものだと思っていました!

瀬戸山 もちろんそういう場合もありますが『スラムドッグ$ミリオネア』については作品のチョイスからわたしも関わりました。映画として有名な作品ですが、たまたま原作の小説を読んだ時に「これ、じつは映画より舞台向きでは?」と感じ、提案させていただいたところ、そこから話がどんどん進んで実現、という感じでしたね。

――実際にお稽古に入る前、どういう流れがあったのかうかがいたいです。

瀬戸山 『スラムドッグ~』は上演台本も担当しましたので、稽古開始の半年くらい前には台本が上がるように書き始めました。全編オリジナルの音楽制作に加え、本番での生演奏を想定していましたので、どなたに頼むかなど製作サイドとの打ち合わせを重ねました。また、演出上、パルクールを取り入れたかったこともあり、初日の何ヶ月も前からパルクールのスタジオ見学に行き、舞台装置についてもスタッフさんと意見交換
をさせていただきました。

――大手主催ではなく小劇場作品ですと、企画が動くのがもう少し後ろになったりもするのでしょうか?

瀬戸山 これもいろいろなバージョンがあるとは思いますが、小劇場の場合は助成金の関係などもあり、そんなにギリギリにいろいろなことが決まるという印象はないです。人によって違うと思うので一概には言えませんが、わたしの場合、現時点で仕事の話が進んでいるのは2年後、3年後の作品です。

――近いようで遠い先の話ですね。

瀬戸山 そうなんです、3年後の世の中がどうなっているのか予想もつきませんし、その時の自分がその作品とどう向き合うのか現時点ではわからなくて。ただ、演出の仕事の依頼があった時には、今だけでなく未来もやりたいと思えるだろうな、と信じられる作品を選ぶようにはしています。わたしが仕事をお引き受けする時の決め手のようなものはふたつあって、ひとつはその作品や戯曲に強い興味を持つことができ魅力を感じるかどうか。もうひとつは、その人たちとやりたいと思うか、です。

――後者はスタッフさんや俳優さん?

瀬戸山 一例ですがs**t kingz(シットキングス)のshojiさん、Oguriさんとやった朗読劇『My friend Jekyll』は出演者ありきの企画で、主催サイドから「ご一緒しませんか?」とお声がけいただき、彼らのダンスに魅了されていたこともあって「ぜひ!」とお返事して実現した舞台です。この時もいくつかの企画を提案した中から、『My Friend Jekyll』を選んでいただきました。

――演出家としてだけでなく、劇作家としてもキャリアを積まれている瀬戸山さんならではですね。

瀬戸山 いえいえ(笑)。ただ、わたしは与えられた仕事を受けるというよりは、自分からも提案して一緒に作っていきたいと思うタイプなので、そういう発信は多めかもしれません。まず自分が前のめりくらいに乗れないと動けないんです。瀬戸山美咲さん

演出家であること、劇作家であること

――昨年、戯曲を書かれた『彼女を笑う人がいても』(演出=栗山民也)は、岸田戯曲賞の候補作にもなりました。演出家と劇作家の両方をおやりになっている強みってなんでしょう?

瀬戸山 演出家としては劇作家でもあることのメリットを強く感じます。たとえば海外戯曲の上演台本執筆や古典の翻案を自分でやれることで、原語から訳す際のせりふの細かいニュアンスなども他の人の手を借りずに表現できますし、稽古場での手直しも可能ですから。逆に劇作家として戯曲だけを書く仕事で演出もやる人間としての強みをどう生かすかというのは難しいですね(笑)。強いて言うなら、演出家として自分以外の作家が書いたものを徹底的に読み解いたり、他者の思考回路を辿る経験の蓄積が作家としても役立っているという感じでしょうか。
わたしはとにかく稽古場に行って俳優さんの演技を見ていたい人間で、じつは戯曲だけを書く仕事というのは苦心しがちなんです(笑)。『彼女を笑う人がいても』は完全オリジナルなので、自分で題材を提案しておきながら、生みの苦しみをとことん味わいました。結局、10ヶ月以上かけてなんとか書き上げたと思います。

世田谷パブリックシアター『彼女を笑う人がいても』撮影:細野晋司

世田谷パブリックシアター『彼女を笑う人がいても』撮影:細野晋司

――演出家として稽古中の俳優さんとのコミュニケーションで心に置いていることがあれば教えてください。

瀬戸山 以前は自分の中で役に対する確固たるイメージがあって、そのイメージ通りに演じることを俳優さんに求めていました。今はそういう頑なさは手放したいと思っています。俳優さんが主体的にいきいき演じているのがベストですし、オーダーも一方的にならず、一緒によい方法を見つけていきたい。全体として目指す方向は示しますが、個々の俳優さんの芝居については、以前より幅広く面白がることができるようになりました。そうなるまでは演出家としての場数も必要だったと思います。

ジャニーズのメンバーと舞台を創って感じたこと

――瀬戸山さんはジャニーズのメンバーとも舞台のお仕事をたくさんされていますよね。

瀬戸山 2015年に東京グローブ座で小瀧望さんが主演した『MORSE-モールス-』の上演台本を書いたのが最初で、そこから東京グローブ座では『グリーンマイル』(加藤シゲアキ主演)、『THE NETHER』(北山宏光主演)、『染、色』(正門良規主演)、そして東宝主催の『スラムドッグ$ミリオネア』(屋良朝幸主演)と担当させていただきました。上演台本と演出を両方担った作品もありますし、『染、色』は、原作小説の作者である加藤シゲアキさんが執筆した脚本をわたしが演出しています。

――わたしはアイドルとしてのジャニーズに強くハマらなかった10代、20代を過ごしたのですが、のちに彼らの出演舞台を観たり、演劇現場での取材をさせていただくようになって、そのポテンシャルに毎回驚かされています。

瀬戸山 彼らのポテンシャルの高さ、本当に凄いですよね。一緒に仕事をする中で、日々の戦いを勝ち抜いて第一線に立っているプレイヤーなのだと実感しますし、正念場やプレッシャーにもとても強い。座長としての責任感や意志の強靭さも近くで拝見していてよくわかります。皆さんとにかく努力家ですよね。

――わかります、観客や共演者を信じて舞台に立っているのも強く伝わります。

瀬戸山 つねに自分たちを観にきてくれるお客さんのことを考えて舞台に立つ人たちだと感じますし、舞台経験の豊富な共演者に対するリスペクトがしっかりあると思います。表現が難しいですが、人間として良い人たちだから、共演者の方たちも彼らのことを好きになるのだな、と。瀬戸山美咲さん

――上演作品の選定もかなりバラエティに富んでいて、中でも瀬戸山さんの演出作は内容的にも“攻めて”いる気がします。

瀬戸山 そうかもしれません。特に東京グローブ座発の舞台は観客を楽しませるという大前提はありつつ、お客さんが想像することの少し“先”の作品をチョイスしていると感じます……わかりやすいだけではないというか。その挑戦するモードがわたしはとても好きなんです。

――東京グローブ座発の瀬戸山さん演出作品を2本取材させていただきました。『グリーンマイル』は濃密な内容でありつつ映画化されているのでご存じの方も多かったと思いますが『THE NETHER』は近未来を描いたとても衝撃的な戯曲でした。

瀬戸山 『THE NETHER』は英国・ロイヤルコート劇場で上演された作品で、元戯曲の主人公は女性なんです。日本版ではそれを男性に置き換えての上演でした。主人公を男性に置き換えても戯曲の本質は損なわれない、むしろ新たな視点が生まれると作者の方に何度も手紙を書いて改訂のOKをいただきました。そういう過程もあったので、いろいろな意味でわたし自身もとても勉強になった作品です。舞台上の効果や仕掛けへのこだわりにも製作サイドがとことん付き合ってくださって、夜中の倉庫に皆で集まりスモークを焚いて、舞台で使用する幕と映像のバランスを調整する時間もありました。作品を創る過程でそういう試行錯誤ができたのもありがたかったです。

――ジャニーズメンバーの出演舞台を観て、そのまま演劇を好きになってくれる若い観客が一定数いますよね。これは本当に素晴らしいことだと思います。

瀬戸山 わかります! 観劇後にとても丁寧な感想を書いてブログ等にあげてくださっている方もいますし、『グリーンマイル』を観た後に死刑制度についてあらためて考えました……とか、『THE NETHER』の戯曲を取り寄せて読んでいますとかうかがうと、若いお客さんの世界を広げるお手伝いができたことをしあわせに感じますし、その後、共演者が出演する作品やわたしが演出する舞台を観にきてくれたりするのもうれしいです。
ただ、チケットを取るのがやはり難しい作品もあって、既存の演劇ファンが“尖った”ジャニーズの舞台をなかなか観られる機会がないのはもったいないとも感じますね。本当に作品のチョイス、攻めていると思うので、個人的には多くの人に観てほしいと思っています。

――演出家として瀬戸山さんが想う“魅力的な俳優”ってどういう人でしょう?

瀬戸山 わああ、言語化するの難しいです! まず、せりふに実感があって嘘がない人……なんですが、そもそも戯曲に書かれたせりふ自体が“嘘”じゃないですか。だから、演劇において“嘘がない人”って、まるで本当のことのように虚構を表現できる“嘘が上手い人”かもしれない。ちゃんと企みを持って演じられるけれど、その企みが一切見えないのが理想だと思います。……あとはなんだろう、リアリティのギリギリのキワを攻めるニュアンスでせりふを成立させてこちらの予想をつねに裏切ってくれる人。そして、言葉が劇場の空間にスっと溶け込んでお客さんに届く人。うん、これはとても難しい問いですね(笑)。瀬戸山美咲さん

<後編>では演劇にかかわりながら続けたちょっと意外なお仕事や、瀬戸山さんご自
身の推しについてもうかがいます!

(取材・文・撮影=上村由紀子)

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