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推し事現場のあの仕事ー高橋麻衣さんー

挑戦する気持ちを宿す人と作品を創りたい「舞台プロデューサー」のお仕事 ー梅田芸術劇場 高橋 麻衣さん(後編)ー【連載】推し事現場のあの仕事 #005

わたしたちの“推し”が輝いている劇場やライブ会場などの”現場”。そこではふだんスポットライトを浴びることが少ない、多くの人々によって作品が作られています。本連載では、現場の裏側から作品を支える様々なクリエイターたちに焦点を当て、現場でのモロモロや創作過程のエピソードなど、さまざまな“お仕事トーク”を深掘りしていきます。

第5回にご登場いただくのは梅田芸術劇場所属のプロデューサーとして演劇やミュージカルの製作現場で活躍する高橋 麻衣(たかはし まい)さん。

インタビュー後半では高橋さんがチーフプロデュースを担った作品や宝塚歌劇団現役時代のこと、退団後のカルチャーショックに加え、ご自身の“推し”についてうかがいました(編集部)

高橋麻衣さん

高橋麻衣さん

前編はこちら▼

宝塚歌劇の男役から製作の現場に「舞台プロデューサー」のお仕事 ー梅田芸術劇場 高橋 麻衣さん(前編)ー【連載】推し事現場のあの仕事 #005

これまで担当した作品と、これから本格的に動く作品

――高橋さんがチーフプロデューサーとして関わった作品について、深掘りさせてください。『パジャマゲーム』(2017年)はとても楽しく華やかなミュージカルでした。

高橋 梅田芸術劇場としては『タイタニック』、『グランドホテル』に続き、イギリスの演出家、トム・サザーランドさんと組んだ3作目のミュージカルです。それまでの2作と比べてもポジティブな場面が多くて、古き良き時代の作品といった趣(おもむき)でした。振付家として来日したニック・ウィンストンさんと初めてお仕事できたのも大きな収穫でしたね。とても丁寧に場面を作る方で、キャストの皆さんも楽しんで稽古から本番に入られたと思います。

――トム・サザーランド演出作品を強火で推す観客の1人として思うのですが、トムさんは動く装置や道具、この時はミシンでしたが、その使い方が本当に上手いですよね。

高橋 確かにそうかもしれないですね。『グランドホテル』の椅子やテーブルもそうでしたし、舞台の空間が平面的にならないように装置を巧みに動かしたり“高さ” を出したりと立体感を大切にする演出家なのだと感じます。

――『フォトグラフ51』(2018年)は濃密な空間で展開する会話劇。

高橋 科学者たちの物語なので、とにかく理系の用語が多く、そこは大変でした。この時は主演の板谷由夏さんが初舞台ということもあり、演出家のサラナ・ラパインさんがキャスト全員に対してアツく丁寧なワークショップをしてくださったのが印象に残っています。わたし個人としては、大劇場のミュージカルとはまた違う空間での作品製作や予算の組み方についても勉強させてもらった作品です。

――藤田俊太郎さん演出の『VIOLET』(2020年)は、コロナ禍での一旦中止を経ての上演となりました。

高橋 本来は劇場中央に舞台を組み、その周りをお客さまが取り囲む感じで座るという演出だったのですが、公演再開にあたり、その部分は変更して通常のステージでの上演になりました。じつは、変更になる前のセット、劇場ですでに組み終わっていて、さあ、ここから舞台稽古……というタイミングで一旦中止になってしまったんです。さまざまな許可申請をして、調整も終えて……という時の事態でしたので、さすがに気持ちが折れそうになりました。コロナ禍で仕方ないことではありますが、無念でしたね。

――そんな大変な状況だったのですね……延期を経ての復活『VIOLET』、素晴らしかったです!

高橋 そう言っていただけるとうれしいです。プロセニアムでの上演でしたが、三方にカメラを置いてオリジナルの四方囲いの舞台と同様の効果を生み出せるよう藤田(俊太郎)さんもいろいろ考えてくださいました。

『VIOLET』

ミュージカル『VIOLET』 日本版公演(2020年)より 提供:梅田芸術劇場

――2020年に東京公演のみ中止になってしまった日本人キャスト版・ミュージカル『ボディガード』は、今年、東京を含めた全公演完走を果たしました。

高橋 今回は初演のレイチェル役、柚希礼音さんと新妻聖子さんに加え、May J.さんのトリプルキャストでの上演となりました。特に初演のメンバーの皆さんは、それまで積み上げてきたものが途中でプツンと断ち切られてしまった状況もあり、復活公演は稽古中から団結とエネルギーが凄まじかったです。そこに新キャストの方たちが入り化学反応が起きたことで、よりカンパニーがまとまったのではないかと感じました。

プロデューサーとして立ち会う中、毎公演、出演者全員の強い気迫のようなものも感じましたし「これが最後の1回」という気持ちで皆さん舞台に立っていたのだと思います。そういう状況でしたので、東京で大千穐楽を迎えられた時は、多くの方から「これでやっと次に進めます」との言葉もいただきましたし、わたしも同じ気持ちでした。

『ボディガード』

提供:梅田芸術劇場

――来年、2023年には高橋さんがチーフプロデューサーとして関わる『ジェーン・エア』の公演も控えています。演出はジョン・ケアードさんですが、確かこのミュージカルは以前、別の主催+ジョンさんの演出で上演されていますよね?

高橋 そうです、ただ、前回のバージョンとはキャストも演出も変わります。主演の上白石萌音さんと屋比久知奈さんが日によってジェーンとヘレンを役替わりで演じますし、脚本や音楽のリニューアルなどもあり、いろいろな意味で新たな作品として楽しんでいただけると思います。

『ジェーン・エア』

提供:梅田芸術劇場

――楽しみです!演劇プロデューサーとして、高橋さんが一緒に仕事をしたいと感じるのはどんな俳優さんか教えてください。

高橋 いろいろな可能性を自身で否定しない方でしょうか。

――それは役を演じる上で?

高橋 そうですね、たとえば、自分で“これしかできない”と演技や表現の幅を狭めてしまうのでなく、“やってみよう”と前向きに挑戦するほうが絶対に良いものが生まれる気がします。なので、チャレンジ精神に満ちている俳優さんとの仕事はうれしいですね。

宝塚歌劇団・月組男役時代のこと

――では、高橋さんご自身のプロフィールにも迫らせてください。宝塚音楽学校の試験を受け、最初の試験で合格。音楽学校卒業後は宝塚歌劇団に入団し初舞台を経て月組に配属されます。

高橋 自分のこと、あらためて振り返ると恥ずかしいです(笑)。

――ご出身は関西ですが、やはり幼少時からタカラヅカは身近だった?

高橋 それこそ母と祖母が宝塚歌劇の大ファンで、小さいころから当たり前のように劇場に通っていました。関連のテレビ番組も放送されていましたし、わたしが子どもの頃、1番安いチケットは500円くらいだった気がします。当時は今よりもっと気軽に観に行けたんですよね。

――約17年のタカラヅカ生活。

高橋 中にいる時はそれが当たり前だと思っていましたが、外に出てみて自分は本当に守られていたんだな、と感じました。青春って言葉がありますけど、音楽学校時代から現役の時は、青春以外に当てはまる表現がない毎日でしたね。苦楽を共にした仲間、ずっと付き合っていく友人たち、そしておそらく一生背負っていく“タカラヅカ出身”の肩書き。タカラヅカに入った時はそこまで考えが及んでいませんでしたが、現役時代の経験が、卒業後の自分の人生にここまで深くかかわってくるとは……という感じです。

当時は大変なこともたくさんありましたが、そういうのって時間が経つと笑い話になっちゃうんです。だから今でも同期と会うと「あの時怒られたよねー」って何時間でも喋れますよ。

――在団時の1番の思い出ってなんでしょう?

高橋 おもしろかったこともツラかったことも山盛りでしたが、1番といえば、やはり退団公演でしょうか。舞台に立ちながら“わたし、本当に幸せだったんだな”って胸に迫るものがありました。ライトが当たって、17年間のことがいろいろよみがえる幸福な気持ち、今でも鮮明に思い出せます。高橋麻衣さん

タカラヅカ退団後のカルチャーショックと今の“推し”

――退団後、カルチャーショックのようなものはありましたか?

高橋 自分が思っていたよりずっと強い形で“宝塚OG”という肩書きを意識されるのだな、と驚きました。当たり前ですが、現役時代は“全員タカラヅカ”だったので、そのことを特に意識せず生きていたのですが、退団後はあらゆるところで「タカラヅカにいた人」と認識されるんです。あらためて馬鹿なことはできない……との意識も芽生えた気がします。

退団後すぐに梅芸に入社して舞台製作の現場につかせてもらいましたので、就職当初はまだ髪の毛もショートで明るい茶色だったんです。身長も高く妙に姿勢も良かったので、普通にしていても現場で目立ってしまったらしく「ちょっと変わった人が来た」って、いろいろな方に話しかけられました……。

――高橋さんが将来的に創りたいのはどんな舞台でしょうか。

高橋 タカラヅカがまさにそうですが、観終わったお客さまが幸せな気持ちで劇場を出られるような作品製作に関わっていければうれしいです。それはこの仕事を志した時から変わらない想いかもしれません。

――ありがとうございます!では最後にご自身の“推し”について語っていただけますか。

高橋 K-POPにハマっています。職業柄、日本の音楽だとつい仕事目線になりがちですが、海外の作品やアーティストだとその部分が少し緩和されるので。特に韓国で活躍するアーティストの歌や踊りのスキルやプロ意識を見ていると、本当に凄いな、と思いますし、オーディション番組の時点でファンの心を掴むシステムにいつの間にかやられています(笑)。日本と近くて遠い世界なのが良いのかもしれないですね……今はK-POPに癒やされています。

高橋麻衣さん

<取材note>
企画の立ち上げから初日の幕が開くまで約2年から3年。さまざまなミュージカルや演劇作品をプロデュースする高橋さんにお話をうかがい、舞台の幕が無事に上がるのは“奇跡”なのだとあらためて実感しました。
2年先、3年先の世の中を読み、“未来”の観客がなにを求めているのかを考え、作品を選んでキャスティングを行う舞台プロデューサーのお仕事。熱と夢とを胸に、座組全体を見渡して実務をこなすプロフェッショナルな後姿が頼もしい!
劇場というキャンバスに最初の一筆を入れるプロデューサーの手腕、ぜひ今一度注目していただければ幸いです。

(取材・文・撮影=上村由紀子)

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