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劇場に行けなくても、スマホ1つで身近にミュージカルを。「アンサンブル」のお仕事 ー可知 寛子さん(後編)ー【連載】推し事現場のあの仕事 #001

わたしたちの“推し”が輝いている劇場やライブ会場といった”現場”。そこではふだんスポットライトを浴びることが少ない、多くの人々によって作品が作られています。本連載では、現場の裏側から作品を支える様々なクリエイターたちに焦点を当て、現場でのモロモロや創作過程のエピソードなど、さまざまな“お仕事トーク”を深掘りしていきます。

第1回目のゲストは、『エリザベート』、『ミス・サイゴン』、『モーツァルト!』、『プロデューサーズ』など、さまざまな大型ミュージカル作品に出演し、ステイホーム期間中に立ち上げたYouTubeチャンネルも大きな話題となったミュージカル俳優の可知寛子(かちひろこ)さんです。

後編では、開設から間もなく登録者数約24000人、累計100万PVを超える人気YouTubeチャンネル『魅惑のかちひろこ』動画撮影の裏側や、Twitterからはじまったミュージカルファングッズ製作についてうかがいました。(編集部)

可知寛子さん

可知寛子さん

▼前編はこちら

1公演で○役を演じる!?役替わりのプロフェッショナル「アンサンブル」のお仕事 ー可知 寛子さん(前編)ー【連載】推し事現場のあの仕事 #001

ツイッターでの何気ないつぶやきから生まれたミュージカルファングッズ

――英語に見せかけてじつはローマ字表記のトートバッグや帝劇最前列センターの席番が印刷されたハンカチなど、可知さんオリジナルのミュージカルファングッズはTwitterでの何気ないつぶやきから生まれたそうですね。

可知 こんなものが実際にあったらおもしろいな、と、「チケットの次に大事なものを入れるポーチ」など、架空のミュージカルファングッズの画像を作成してTwitterに載せたら、思いもよらない数の反響をいただき、そこからいろいろなことが動き出しました。

――多くの反応を受け、架空だったグッズを実際に商品化。

可知 最初はどのくらいの方が実際に購入してくれるのか予想できず、まずは50個、商品を作ってみました。そうしたら一瞬で売り切れて、再販のリクエストも多くいただいたので、最終的には複数のパターンをデザインして、3回受注生産を行いました。

――現時点でどのくらいの方が可知さんオリジナルのミュージカルファングッズを購入しているのでしょう?

可知 わたしが把握している数で3000件くらいは発送したと思います。

――凄い!それはもう業者さんレベル。

可知 本当にそうなんですよ(笑)。一時期は梱包前のグッズに部屋が占領されて、生活スペースがなくなりましたから。最初は手書きであて名を書いて、発送をしにコンビニまで荷物を担いで通っていましたが、途中から、販売サイトのシステムを利用するようになりました。多くの方に購入していただいたのは本当にありがたいですが、ずっと梱包作業をしていると、一瞬、自分の本業を見失います(笑)。

公演中止が続くコロナ禍に開設したYouTubeチャンネル

――そして、ステイホーム期間中に立ち上げたYouTubeチャンネル『魅惑のかちひろこ』が、あれよあれよという間に、登録者数約26000人、累計100万PVを超える人気チャンネルに。

可知 今はミュージカルの現場に行くと、一緒にお仕事したことがない方からも最初に言われますね「YouTubeの人でしょ?」って。あとは、劇場に来てくださるお客さまの反応も変わってきたように感じます。劇場周辺で声をかけていただくことも増えました。

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動画:「CATS」を「DOGS」もありえる…と思った私が馬鹿だった【MakeUp】

――『魅惑のかちひろこ』はすべての動画が高クオリティで、あまり舞台に興味がない人が観ても刺さる内容だと感じます。撮影、編集にはかなり時間もかかってますよね。

可知 はい、結構(笑)。1番時間がかかったのが、ミュージカル『エリザベート』のナンバーを歌いながら朝食を作る動画だと思います。まだYouTubeをやり始めたばかりで、試行錯誤していた時ですね。

――『エリザベート』のシシィと皇太后ゾフィの掛け合いを歌いながらお料理する構成と演出が最高でした。マヨネーズのダメな感じとか(笑)。また、冷蔵庫の中にスマホを置いたり、レタスの接写があったりと、カット数もとても多くて。

可知 あの動画、1日中ずっと撮影したんですよ(笑)。わたしは撮影も編集もスマホ1台でやっているので、4時間くらい集中して撮っているとさすがに疲れてボロボロになりますね(笑)。テロップを入れるだけの短い動画ならもう少し早くアップできるとわかっていながら、撮り始めると凝ってしまうんです。

――スマホ1台であのハイレベル感!

可知 いやいや(笑)。Twitterに短い動画をUPしていた時から、ミュージカルで共演していた城田優さんに「絶対向いてるからもっと本格的に動画をやりなよ!」って背中を押されていたんです。でも当時は古い機種のスマホを使っていて、できることも少なくて。

それでステイホーム期間中に新しいスマホに買い替えたら、あまりの機能の進化に驚いて、これでいろいろ動画を撮ったらおもしろいんじゃないかと。家から出られない時期に、決まっていた公演が中止になったりして、自宅に1人でいると落ち込むばかりでしたので、部屋で集中してやれることを見つけられたのは良かったです。コメントでいろいろな反応をいただけるのも幸せですし。

――ご自身で1番推せる動画はどの作品ですか?

可知 えー、難しい(笑)。視聴者数はそんなに多くなかったですが、自分としては「ミュージカルファンのためのラジオ体操」が好きですね。第1と第2の2本作りました。

――キャラが濃い架空の主演俳優と主演女優が舞台メイクでラジオ体操する動画ですね(笑)。

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可知さん一押しの動画

可知 そうです、そうです(笑)。あとは、昨年出演したミュージカル『プロデューサーズ』の舞台裏というか、作品を支える方たちのお仕事をレポートしたのも楽しかったです。オーケストラピット内の指揮者台に立たせてもらったり、音響さんの卓を触らせてもらったり。

――ふだん、観客が知ることのないオーケストラピットの中や、衣裳の早替え場など、ミュージカルのお仕事現場の裏側が見られました。動画のネタというか、アイディアはどういう時に思いつくのでしょう?

可知 最初の頃はあえて考えなくてもいろいろやりたいことが湧いてきましたが、今は突き詰めないと出てこないです(笑)。メモは必須で、何か思いついた時やヒントになりそうなことを見つけた時、街でおもしろそうな人と遭遇した時は速攻、メモに残します。

話題になった『エリザベート』動画、衣装の仕上げはアルミホイルとビニール袋

――そしてAdoさんの『うっせえわ』を『エリザベート』のシシィになりきって歌った動画は現在53万回以上視聴されています。
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可知 反響の大きさに自分でも驚いています。あれ、衣裳はアルミホイルとビニール袋を使って仕上げているんですよ。コーラスも入れたかったので、ミキシングはプロの方にお願いしましたが、歌は自宅でのスマホ録音。他の動画も、歌は全部自分のスマホで録ったものを動画にかぶせています。

――てっきりスタジオ録音かと思っていました!今後、YouTuber『魅惑のかちひろこ』としてやってみたいことはありますか?

可知 今はまだ状況が厳しいので、すぐに実現させるのは難しいですが、いろいろな方とコラボした動画を作ってみたいです。誰かと一緒に歌うのも楽しそうですし、1人の時より世界も広がりそうな気もします。

――確かに!それは楽しみです。最後に、ミュージカル俳優・可知寛子さんの展望をうかがいたいです。

可知 もし、わたしがやっているYouTubeでミュージカルを身近に感じてくださる方が少しでも増えたのなら、それはとても嬉しいです。自分としては、住んでしまいたいくらい劇場が好きなので。そして、展望といっていいのかはわかりませんが、つねにおもしろいこと、ハッピーなことを見つけてそこに向かっていきたいです。それがわたしのブレない原動力です。

可知寛子さん

【取材note】
アンサンブル=ミュージカル作品を支えるプロフェッショナル集団。今回、可知寛子さんにお話をうかがい、あらためてその多様なお仕事ぶりに驚かされました。

作品の中で役名がないキャラクターを複数担うことも多いアンサンブルキャスト。が、演じる俳優陣はひとつひとつの役のバックボーンや、舞台上で呼ばれることのない登場人物の名前を考え、役に命を吹き込んで作品に熱を与えています。

アンサンブルのスキルが高いミュージカル作品はアツい!次に劇場に足を運ばれた際は、ぜひアンサンブルキャストの活躍ぶりにも注目して夢の世界をお楽しみいただければ幸いです。

(取材・文・撮影 上村由紀子)

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