#45 [2026/06.17]

わたしたちの、このごろ

場を育て、人と人との関係性をつくること。
それが自分のやりたいことです

田中萌々花さんMomoka Tanaka

こう語るのは、埼玉県の川越市にある書店兼カフェで店長として働いている田中萌々花(たなか・ももか)さん、23歳だ。

「みんなみたいに、どうして素直にできないんだろう」
就職活動に違和感を覚え立ち止まったとき、舞い込んできたのが今の彼女の仕事だ。

田中さんのこれまでを聞いていると、ピースをひとつひとつ拾い集めた先に、その仕事があるように思えた。

物語と木登りが好きな子どもだった

埼玉県の中でも特に自然豊かな地域で生まれ育った田中さん。人と遊ぶのが好きだったが、ひとり遊びも上手な子どもだったという。

田中さん:ひとりっ子だし、家も田舎にあるから周りに子どもが少なくて。自然とひとりでも楽しめるものも好きになりました。

インドアもアウトドアも好きだった田中さんのひとり遊びの選択肢は、本を読むか、木登りをするか。自然いっぱいの田舎町で、唯一身近にあったエンタメが本だった。

田中さん:本を読むのも、物語を作るのも好きでしたね。あまりに本好きだったので、親戚からの誕生日プレゼントが全部図書カードだったこともあったくらい(笑)

田中さんが選書している本たち。まちの本屋にはない本を積極的に置いているという

サポートするやりがい

本好きの田中さんだが、学生時代は意外にもずっと運動部に所属していた。中学まではバレーボール部で選手として活動していたが、あるとき転機が訪れた。

田中さん:ケガをしてしまって、しばらくマネージャー業をすることになったんです。そしたら、選手より楽しいじゃん!って思って。

サポートすることにやりがいを感じる自分に気がついた田中さん。高校では、90人の選手を抱えるサッカー部のマネージャーに。想像以上のきびしさと忙しさだったが、同時におもしろさもあったという。

田中さん:人それぞれの特性やルーティーンがあるじゃないですか。それを覚えて要求される前に先回りして自分が動く。それで場が円滑に回ることに、どこか快感があったんですよね。

その話を聞きながら、カフェで接客している田中さんの姿を思い返す。常連さんがいつも頼むドリンクを覚えていて、注文される前に準備をはじめていたのだ。

田中さん:「このお客さんはミルクが必要」とか「レシートがいらない」とかも覚えて先に動いてますね。気がきくねと言われたらよしよし、って思ったりして。

本が好きなこと、マネージャーの経験。今の仕事につながるピースが集まり始める。さらに田中さんを今の仕事に導いたピースを求め、話を聞いた。

まちづくりに関わる大人を知る

田中さんは、大学でまちづくりを学んでいたんだそう。その道に進むきっかけは、ゲストハウスの運営や、建築の仕事をしていた父親の影響だった。

田中さん:父にすすめられて、川越の空き家や空き地を活用するプログラムの成果発表会を見に行ったことがあって。そこで、こんなことを考える大人たちがいるのかって衝撃を受けたんです。

そこから、まちづくりのプログラムや、イベントのボランティア活動に参加するようになった田中さん。その間に出会ったとあるイベントの運営にのめり込んだ。

田中さん:オフィス街の大通りや公園などの公共空間で開催するイベントだったんですけど。公共の道だから、世代や職業に関係なく、人が偶然集まってきて交流が生まれる。それに、ものすごく魅力を感じたんですよね。

わたしも、ふだんの生活では関わらない人と話せるのが楽しかった。その感覚を大切にしたいなって思うようになりました。

田中さんが淹れてくれたカフェオレ。店を任される直前に練習したのだという

イベントでの活動に影響を受けて、田中さんはまちづくりの学部に進学。
ふだん通り過ぎるだけの道に、人が留まる理由をつくるにはどうしたらいいか。そんなことを考え、実験を繰り返す日々はわくわくに満ちていた。

そうして、「まちづくりの仕事がしたい」という思いは次第にはっきりと輪郭を持つようになっていった。

就活中に覚えた違和感

まちづくりの会社に就職しようと、会社を探し始めたという田中さん。が、「最初からうまくいかなかった」と表情を曇らせた。

田中さん:就活って、何社も同時進行で受けなきゃいけないじゃないですか。でも、それが本当にできなくて。ひとつの会社に本気で行きたいと思ってる間、ほかの会社に浮気できない性格だったんです……。

非効率なのはわかりつつも、時間をかけてひとつずつ選考を進めていく日々。大学4年生になり義務的にキャリアセンターに行くも、「ESはこう書いた方がいい」「面接はこう答えた方がいい」と、就活は”こういうもの”と教え込まれるばかりだった。

田中さん:みんなができることをなんで自分は素直にできないんだろう。と、だんだん自信がなくなっていきました。

就活への違和感に苦しみ、就職を諦めかけていたまさにそのころ。
「川越にあたらしく本屋ができる。スタッフを募集しているのでやってみないか」そんな話が父から舞い込んできた。

田中さん:ふたつ返事でやる!と答えました。就活で言い続けてきた「顔の見える仕事がしたい」ということが、お店に立つことでできるかもしれない。そう思ったんです。

顔の見えるまちで生きる

今、田中さんは川越の本屋兼カフェスペースで店長として、接客や本の仕入れ、イベントの企画運営まで幅広く携わっている。働くなかで、「まちが人の集合体に見えてきた」と話す。

田中さん:店の近くの花壇は町内会が管理してて、町内会には誰々さんがいて、会長は誰で。ってすぐに顔が思い浮かぶ。まちをつくってる人たちの集合としてまちが見れるようになったのがうれしくて。

田中さん自身も、常連の人の生活の一部になっている。お互いに顔の見える仕事をしていること、誰かの仕事がまちをつくっていること。その豊かさを彼女は感じている。

これからの展望を聞くと、「店をもっとおもしろい場所にしたい」と話す。

田中さん:人からおもしろい企画が生まれるので、お店の関係人口を増やしていきたいです。

自分が何かするというより、場を育て、人と人との関係性をつくること。そしてそこに関わる人をサポートしていくこと。それが自分のやりたいことだなと思っています。

編集部のまとめ

「ももちゃん、本好きだったでしょ?」と舞い込んだ仕事のチャンスは、偶然のようで、田中さんだからこそ手にできたチャンスなのだと思う。
違和感から目をそらさず、自分のピースを大切にしてきたからこそ、パチリとピースのハマる瞬間に出会えた。話を聞きながら私はそう思った。

偶然のようなチャンスは、結局顔の見える関係性の中から生まれる。
自分にきたチャンスをしっかりと掴んだ田中さんはこれから、あの店で人と人との関係性を紡ぎ、誰かのチャンスを生み出していくのだろう。

STAFF
photo / text : Hinako Takezawa