#002 [2023/10.14]

わたしたちの、このごろ

私は周りから見ると芯がブレているように
見えるかもしれません。でも、これまでやって
きたことは全て今の自分に繋がっていて、
そのどれもが必要な時間だったんです。

中城あやのさんAyano Nakajyo

2023年4月から、障がいや精神疾患を持った方々の就労を支える支援員として、大阪府で奮闘する24歳の中城あやのさん。

相談に来る一人ひとりとじっくり向き合い、自己理解を深めるところから、どんな配慮を得れば働けるのかを考えるところまで、時間をかけて伴走していく仕事だという。
やわらかい雰囲気を纏った中城さんは、話し上手で聞き上手。まさに彼女にとって今の仕事は天職のように感じるが、数年前まで自分が本当にしたいことがわからず、暗闇の中で悩み続けていたそう。

好奇心旺盛。
興味を持ったら
なんでもやってみたい

宮崎県の片田舎、延岡市で生まれ育った中城さんは、好奇心旺盛で興味を持ったことはなんでもやってみたくなる性格。

中城さん:やりたいことをやりたいままにやらせてくれた父のお陰で、習い事も沢山していましたね。そのなかでも一番興味を持ったのが英語だったんです。小学校のALTの授業が大好きで。言語一つで人種も文化も違う人と繋がれることに楽しさを感じました。

あと私、褒められることが何よりも好きな子どもだったんです。人に喜んでもらえることがしたいというか…きっとそんな性格もあって、小学校の授業で海外の難民事情について知ったとき、大好きな英語が使えて人助けができる、そんな仕事がしたいと漠然と考えるようになりました。

小学生で芽生えたその想いは高校生になるまで途絶えることなく、外交官やNGO職員を夢見て外国語大学への進学を決めたという。しかしその夢はある出来事をきっかけに突如として途絶えてしまう。

現在シェアハウスで暮らしている中城さん。
シェアメイトとの会話がストレス発散に繋がっているそう。

突然なくなった希望の光。
道を見失っていたときに出会った
コミュニティー

中城さん:大学2回生のとき、スタディーツアーでフィリピン・カンボジアに3週間滞在しました。滞在期間中、教育や産業などの側面から課題を見つけ、その課題解決のためのプロジェクトを作るというツアーだったんです。私はカンボジアで障がいを持った人の雇用機会をテーマにしたのですが、現地の当事者へのヒアリングが必須で。障がいを持っていることで働くことができず、お寺の前で物乞いをしている方々に困り事を聞いて回ったのですが、現地に住んでもいない人間がそこで信頼関係を築けるわけもなく、すごく壁を感じました。同じ目線ではなく、どこか自分が上に立っているような感覚で、申し訳ない気持ちになりました。人助けがしたいというより、私はただヒーローになりたかっただけなんじゃないか。自分が本当はなにをしたいのか、わからなくなってしまいました。

長いあいだ彼女を動かし続けてきた希望の光が突然なくなってしまい、途方にくれていたそんなとき。知人の紹介で通うようになった「生き方テラコヤ」というコミュニティーに救われたという。そこは、人との対話をとおして自分の考えや価値観を深ぼったり整理していく場で、まさに道を見失っていた中城さんにとってうってつけのコミュニティーだった。


いつの間にか、自分もこうした場を
作ってみたいと思うように

中城さん:いろんな人と話をするうちに、自分の考えがどんどんまとまってきて。いつの間にか私もこうした場を作ってみたいと思うようになりました。海外で大勢の人を救うことはできないけれど、自分が救われた方法でもっと身近な人を救っていきたい。

新たな光を見つけた中城さんは、目指すべき道をさらに明確にするため、大学3・4回生のころ、地域留学制度を利用し、地元・宮崎で自分にできることを探しはじめた。

本当にやりたいことは
困っている当事者に
寄り添うことだと気がついた

中城さん:人が自分の大事な価値観に気づけるための場所を作りたいという想いは芽生えたものの、どういった手段で実践していくのかはまだ見つけられていませんでした。宮崎では昼間は仕事場、夜は語り場という一風変わったコワーキングスナックで働き、あらゆる分野で活躍するゲストをお呼びして、さまざまな人が語り合える場の企画・運営をさせてもらいました。
でも、企画ってやってみると想像以上に大変で……。途中で力尽きてしまったんです。私はなにかを生み出して沢山の人を動かしたり、場をつくる側ではなく、困っている当事者一人ひとりに同じ目線で寄り添い、じっくり話を聞くことが本当にやりたいことだと気づきました。

そんな想いからその後の就職活動では、本当に一人ひとりにじっくり向き合うなら?と、教育や福祉の業界を考え始め、今の職場にたどり着いたという。

中城さん:説明会に参加したとき、直感的に「ここだ!」と思いました。今は心から自分のやりたいことができていると実感できていて、楽しいです。
誰もが自分に自信を持って生きられる社会を目指して、今後も自分にできることをしていきます。

編集部のまとめ

忙しない社会の中では、自分の歩いている道に疑問を感じても、違う道を選ぶことで失敗しないか、周りに遅れを取らないか、そんなことを考えて、来た道を歩き続ける人が多いだろう。しかし、そこから目をそらさず、フラットな気持ちで道を変えていくことが、自分の人生をさらに豊かにするのかもしれない。少しの勇気があれば、いつからだって人生は変えていけるのだと、中城さんに教えてもらった。

STAFF
photo/text: Nana Nose