#012 [2024/02.09]

わたしたちの、このごろ

いつでも来た波にうまく乗れる
準備をしておこうと思っています

田中琴巴さんKotoha Tanaka

こう語るのは、現在大阪府を拠点にフリーランスのデザイナーとして働く田中琴巴さん、25歳だ。

日本の文化や伝統の継承に、デザインの力で貢献したいという明確な目的を持って仕事に取り組む田中さん。その想いは、子どものころから確かにつながっていた。

興味関心は日本の伝統と文化
デザインは仕事という感覚

田中さん:小さいころから日本の文化や伝統を感じるものが大好きだったんです。着物の着付けや、書道を習ったり。今振り返ってみると家族の影響が大きかったと思います。
琴巴(ことは)という名前に込められた「日本人らしい女の子になってほしい」という想いを知って影響されていたのかもしれません。

小学5年生から中学のころまでは、女歌舞伎を習い、能楽堂の舞台に立つこともあったそう。たくさんの伝統文化にふれる中で、それを築き、繋いできた人たちに対するリスペクトの感情が生まれ、より興味が深まったと話す田中さん。
その一方で、表現することが好きだったことや自分で考えて作って遊ぶことも得意で、漠然と将来はデザインの仕事がしたいと思っていたという。

田中さん:紙で家を作っておままごとして遊んだりとかしてました。買ってもらうんじゃなくて、自分の好きなように作って遊ぶのが好きでした。そのころは、得意なことを仕事にしたいな。と何となく思っていたくらいで、好きな伝統文化とデザインを繋げて考えることはしていなかったですね。

興味関心と仕事、その二つが田中さんの中で重なり始めたのは、デザインの専門学校に通っていたころからだった。

文化や伝統の継承と
デザインの相性のよさを感じる。
自分の行きたい方向性が決まった

専門学校ではグラフィックデザインを専攻していた田中さん。デザインの考え方や在り方を深く学んでいくうち、興味のある文化や伝統の継承にデザインで貢献できる可能性を感じたという。

田中さん:まさにそのためにデザインはあるんだと確信したくらいしっくりきました。昔から受け継がれてきた文化や伝統は、知ってもらったり受け継ごうと思ったりする人がいないと消えてしまう。たくさんの人に知ってもらい、誰かを突き動かすきっかけになれるのがデザインだと思いました。

現在業務委託で仕事を請け負う会社の壁に貼られたメンバーのイラスト。
左から3番目が田中さん

進むべき方向性は明確に見えた田中さんだったが、さまざまなことを経験した最後に自分のやりたいことができていればベストと考えていたそう。

田中さん:実践を積んで、いつか自分のやりたいことができるようになったとき、より多くの人に想いを届けるためにも、まずはみんなが経験していることを自分も経験することが大事だと思ったんです。

そんな背景があり、印刷会社のデザイン部門への就職を決めた。

ボリューミーな2年間、そして独立。
うまく波に乗ることを意識していた

田中さん:1年目は大手飲料メーカーのデザインを担当しながら業界のノウハウを学ばせてもらい、2年目からは進行管理や商品開発など、デザイン以外の仕事を担当することもありましたね。本当にめちゃくちゃボリューミーな2年間でした。

入社した当初から2、3年で次のステージへ行こうと決めていた田中さん。あるデザインコンペに参加したことがその思いを強めたという。

田中さん:着物の帯を使って商品を作るというコンペがあって。会社の先輩と挑戦したのですが、トントン拍子に上手くいったんです。「やっぱり私はこれがやりたい!おもしろい!」と改めて思い、そういった仕事ができる場所への転職をぼんやりと考えはじめました。

当初は独立ではなく、転職を考えていた田中さんだったが、コンペを一緒にがんばった先輩社員に相談したところ、タイミングよく彼も新しいステージに進むことを考えていたという。

田中さん:デザインをする上での相性もよかったので、だったら一緒にやるかと。先輩とともに独立することを決めました。

そのとき、田中さんが迷いなく軽やかに独立を決意できたのは、母が言っていたある言葉のおかげかもしれないそう。

田中さん:地元で長年居酒屋を経営している母が、「うまく波に乗る人がうまくいっている」と何気なく話していたことがずっと頭に残っていて。
先輩が誘ってくれたのはすごく自然な流れだったので、その波に乗ろうと。来た波にうまく乗れる準備をいつもしておこうと思っています。

デザインユニット「ことこまか」について書かれた資料

昨年からは「日本の文化を共感をとおして、つなげたい、つながりたい」をコンセプトに「ことこまか」というデザインユニットを結成。
今後も日本の文化や伝統を後世に残していくため、デザインで出来ることを実践していきます!と迷いのない表情で話してくれた。

編集部のまとめ

一本筋の通った人とは、まさに田中さんのことをいうのだろう。
幼少期からの文化や伝統に対する彼女のまっすぐな想いにふれ、なるべくしてデザイナーになったのだと思った。純粋でまっすぐな思いには必ず何かを引き寄せる力がある。
「波に乗った」と表現していたが、これは間違いなく彼女自身が築き上げた道だ。

私も自分の心は何を求めているのか、何がしたいのか、いつもはっきりと分かっていたいと思うのだった。

STAFF
photo / text : Nana Nose