#48 [2026/07.30]

わたしたちの、このごろ

続けることでしか、見えないものがある

梨木ビクトル望さんNozomi Victor Nashiki

こう語るのは、映像制作の仕事をしている、梨木ビクトル望(なしきびくとるのぞみ)、通称ビビさん、23歳だ。

幼いころから自然の中で遊び、ものづくりに親しんで育った少年は、中学2年生のときに偶然出会ったカメラマンの存在をきっかけに映像の世界へ惹かれ、カメラを手にしたことを機に、その魅力へと深くのめり込んでいった。

回り道をしながらも、気づけば映像の仕事だけで生計を立てられるようになっていた。決して安定や余裕がある日々ばかりではない。それでも、自分が心からおもしろいと思える仕事と向き合いながら、今日もカメラを回し続けている。

自由な遊びのなかで育った少年時代

ビビさんが育ったのは、子どもの好奇心や「やってみたい」という気持ちを大切にする家庭だった。

幼いころから自然の中を駆け回り、身の回りにあるものにふれながら、自由な発想で遊びやものづくりを楽しんでいた。決められた正解を追いかけるのではなく、自分で考え、試しながら形にしていく経験が、今のビビさんの表現の土台になっている。

ビビさん:いわゆる普通の小学校や中学校のような環境は、あまり自分には合わなくて。小学校1年生のときだけ一般的な学校に通ったんですけど、その後は和歌山にある私立の小学校へ転校しました。そこでは週に2回ほど勉強の時間があって、それ以外の時間は小屋を建てたり、農作業をしたり、料理をしたりしていました。

自由な環境で育つなかで、ビビさんが特に夢中になったのは、手を動かしながら何かを生み出すことだった。

ビビさん:小学生のころは、大工になりたかったんです。家を作ったり、家具を作ったり、そういうものにずっと興味がありました。木を削ってパンナイフやスプーンを作ったりもしていましたね。

幼いころから、手を動かして何かを生み出すことに夢中だったビビさん。その興味は、やがて別の表現手段へとつながっていく。
中学では、全国から生徒が集まる全寮制の学校に進学することになる。そこで待っていたのは、ビビさんの人生を大きく変えるひとつの出会いだった。

自宅の押し入れが、いつのまにか仕事場に。なんだかロマンがある

目立つものよりも、残るものをつくりたい

きっかけは、その寮にドキュメンタリー撮影で訪れていた、年上のカメラマンとの出会いだった。もともと母親が写真を撮っていたこともあり、カメラに興味を持ったビビさんは、自ら声をかけたという。

ビビさん:「カメラって何がおすすめなんですかね」って聞いたら、「大切なのは、そのカメラで何を表現したいかだよ」って言われて。そこからカメラのことを全部教えてくれたんです。それで中学2年生のときに、お年玉で初めてのカメラを買いました。

もともと映画が好きだったこともあり、映像で何かを表現することへのあこがれは次第に強くなっていった。そんな中、寮では毎年夏に映画制作ワークショップが開催されていた。そこで小型ビデオカメラとパソコンを使い、自分たちで作品をつくる時間は、ビビさんにとって一年の中でも特別な楽しみになっていた。

ビビさん:最初はホームビデオみたいな映像しか撮れなくて、「何が違うんだろう」ってすごく気になったんです。それで毎年毎年、どうしたら理想のクオリティに近づけられるのかずっと考えていました。

限られた機材や環境のなかで、どうすれば頭の中にある理想の表現に近づけられるのか。その試行錯誤の時間こそが、ビビさんを映像の世界へと深く引き込んでいった。

ビビさん:多分、完璧主義なところがあるんだと思います。片付けとかは結構雑なんですけど(笑)、好きなものに関しては、完璧じゃないと逆にやりたくないというか。

好きなものに対して妥協せず、理想を追い求める姿勢。それは、ビビさんの映像制作に対する向き合い方にも表れていた。

その一方で、裏方でいたいという気持ちと、作品を通してだれかに認められたいという思い。その間で揺れながらも、回り道に見えるキャリアのなかで、ビビさんの根底には一貫して映像への興味があり続けた。

現在は、フリーランスとして映像制作の仕事に携わりながら、自分自身の作品づくりや、知り合いのディレクターとの制作にも関わっている。

ビビさん:正直、自分がスポットライトを浴びたいっていう気持ちはあまりないんです。それよりも、「これだけのことをやった」って自分が分かっていればいい。イメージとしては映画のエンドロールに少し自分の名前が載るとか。そういった目立ち方の方が、かっこいいなと思っていて。

一方で、自分のこだわりやその価値を感じてもらえることへのよろこびも語ってくれた。

ビビさん:相手の期待を超えるようなクオリティを出すと、褒められるじゃないですか。それがうれしくて、褒められないものを出すぐらいなら出さない方がマシ、ぐらいの感覚を持つようにしています。

裏方でありたいという気持ちと、自分の仕事をだれか評価してもらいたいという気持ち。一見すると矛盾するようで、ビビさんの中ではどちらも「いいものをつくりたい」という同じ熱量から生まれているようだった。

とにかく、続けること

フリーランスだと、収入が安定しないことも多い。ビビさんも、稼いだ分だけ機材に投資してしまい、手もとにお金がいくら残っているかあまり考えたくない、と笑いながら話す。

ビビさん:学生のころからずっと「自分らしい人生を選びたい」っていう気持ちがあるんです。ナンバーワンよりも、オンリーワンな感じにかっこよさを感じるタイプで。だから、こういう働き方になっている部分はあると思います。

不安定さをおもしろがれる人ばかりではないことも、ビビさん自身よく分かっている。だからこそ、制作を続けていくために、継続的な仕事の軸を少しずつ増やしていくことが最初の目標だったという。

そして最後に、この一年でやってみたいことをたずねると、望みさんは少し照れながら「映画を撮りたい」と答えた。

ビビさん:お金のこととかいっさい考えずに、いったん自分の全力を出し切る形で、作品として昇華したいなと思います。

そして、映像という表現そのものについて、こんな言葉で語った。

ビビさん:映像って、言葉の壁を超えられる気がしていて。文章だと、ある程度どんな人でも同じことを感じやすいと思うんですけど、映像は見た人によって感じることが違う。その、受け手に委ねられる表現がすごくおもしろいなと思っています。今の時代を残せる手段としても、映像にはすごく本質的な価値があると思っていて。

コツコツ貯めては買い足す、仕事道具たち。オールドレンズは沼だそう

売れるかどうか、後に残るかどうかを気にしすぎず、とにかく続けること。それが今のビビさんが大事にしていることだという。

ビビさん:1年半前とか2年前は、全然仕事が来なくて悩んでいたんです。でも続けていないと分からないことが本当に多くて。だから、単純だけどいちばんむずかしい「続けること」を、これからも大事にしたいなと思っています。

いまの自分をひとことで表すと、と聞かれたビビさんは、しばらく考えてこう答えた。

ビビさん:晴れのち曇り、晴れ間もあるけどモヤっとしてる感じです。迷うところもありながら、兆しも見える気がする。いろんな感情が混ざり合っている感じですね。

編集部のまとめ

幼いころから自然の中で遊び、ものづくりに親しんで育った少年は、あるカメラマンとの出会いをきっかけに、映像という言葉のいらない表現に興味を持った。

裏方でありたいという気持ちと、だれかに認められたいという気持ち。不安定さへの不安と、それをおもしろがろうとする意志。

ビビさんの話には、迷いや葛藤を無理に消そうとするのではなく、「まずは続けてみる」という選択を大切にしていることが伝わってきた。

これから先、作品がどれだけ広がるのか、どんな形で残っていくのかはまだ分からない。それでも、迷いながらも挑戦し続ける姿勢こそが、その人だけの強さになる。

ビビさんのこのごろは、晴れとも曇りともつかない天気の中を、それでも歩き続けている途中だ。

STAFF
photo / text : Seiya Natsume