#46 [2026/06.25]

わたしたちの、このごろ

ひとつのことに重きを置かず、複数の居場所をもっていたいと思っています

なずなさんNazuna

こう語るのは、地元メディアで情報紙制作やSNS運用を担当しているなずなさん、24歳だ。

なずなさんと初めて会ったのは、彼女が社会に出る少し前。まだ大学生とは思えないほど落ち着いていて、凪のような人だと思った。
その後もなんどか会っても、その印象は変わらない。

話を聞いていると、彼女が凪のようであれる理由が少しずつわかってきた。

ネットゲームと学校行事にハマっていた

「人生でいちばんゲームにハマっていたのが、小学生の時でした」
幼少期のことを聞いていて、そんな話がなずなさんから飛び出した。当時の子どもたちが夢中になっていたのはアメーバピグ。彼女もそれにハマっていたのだという。

なずなさん:ネット上で人とおしゃべりするのが気楽だったんだと思います。なんでも友だちに話すので、よく親に怒られてました(笑)

学校では、小学校低学年まで引っ込み思案だったというなずなさん。しかし、とあるきっかけで高学年から学級委員をすることに。

なずなさん:先生から人をまとめるのが向いてるんじゃないかって言われて。お姉ちゃんもやってたし、やってみようかなって。

そこから、中学校では生徒会や、応援団など学校行事で人前に立ち、まとめていく役割に積極的に立候補していったなずなさん。みんなで団結してやっていくこと。そこにおもしろさを見いだし始める。

なずなさん:どういう声かけをしたら、応援の振り覚えてくれるかな?みたいな。やる気のない子にもどう参加してもらえるかを考えるのが、楽しかったんですよね。

”仲間と一緒に” が楽しい

中学では、勉強熱心だった姉のまねをして、勉強にいそしむように。「別に好きではなかったけれど、今思えば楽しかった」という背景には、友だちの存在があった。

なずなさん:友だちと同じ塾に通ってて。毎日一緒に居残りしたり、一緒にごはん食べたり。そういうのが、楽しくて勉強していた気がします。

進学校の中でも、軽音部がある高校に惹かれて入学。念願の軽音部に入り、やりたいと思っていたギターに手を挙げるも……。「キーボードになっちゃったんです」と眉を下げる。

なずなさん:じゃんけんに負けちゃって!ピアノの習い事が好きではなかったので、キーボードはいやだったんですけどね……。

希望はかなわずキーボードの担当になったなずなさん。部活動にも身が入らなかったのでは?と思って聞いてみると、勉強をほったらかしにするほど部活動ひと筋だったという。

なずなさん:キーボード自体はやっぱりそんなに好きになれなかったんですけど(笑)。意見を言い合いながら一緒に音楽を作り上げていくのが、すごく楽しくて。

勉強も、キーボードも、それ自体が楽しくてやっていたというより、”仲間と一緒に”することが楽しいし、がんばれる。”人と人”の支え合いを起点として、楽しさは後からついてくる。そんな彼女のがんばり方がかいま見えた。

心とからだのつながりを知りたくて

毎日軽音部の活動に夢中になっていたなずなさんは、高校2年生の冬、同級生から少し遅れて進路について考え始めた。

いざ考えようにも、やりたいことは特に思いつかない。そんなとき、ふと思い起こされたのは、自分の体調不良についてだった。

なずなさん:高校生の間になんどか、きまってストレスを感じているときに体調不良になることがあって。そこから、ストレスとからだの関係みたいなものに興味がわいて。

心とからだの関係がわかっていけば、自分の体調不良も治せるかもしれない。そう考え、心理学部に進学した。

音楽、写真、詩。大切にしているものが混ざり合う本棚

将来の仕事について考えないまま、ただ興味があって学び始めた心理学。学びの中で、自分に生かせることは多くあった。しかし、将来の仕事を考えたとき、心理職とは大きなズレがあることに、なずなさんは気がついた。

なずなさん:心理職になると、もうすでに心の不調を抱えている人が対象になることが多いんです。でもわたしは、その前の段階でどうしたらいいかが知りたくて学んできたし、そういう支援がしたいと思ったんです。

そうしてなずなさんは、心理カウンセラーなどの専門職ではなく、一般企業に就職することを選び、就職活動を始めた。

くじけそうだった1年目

就職することを決めたものの、やりたいことが明確にあるわけではなかった。人の支援に関わりたい。ぼんやりと人事職を志望し就職活動を始めたが、思うように進めることができず、大学のキャリアセンターに通うように。

そんなときに、知り合いからぽっと「地元の企業でフリーペーパーを作ってるよ」という話を聞いて、説明会に参加してみることに。

なずなさん:学んできた道とは全く違うけど、写真や文章を書くことは好きだったし、おもしろそうって思えたんです。そこからとんとん拍子で内定をもらい、就職しました。

中学生のころから趣味のカメラ。写真展を開催したことも

配属された部署は希望通り、フリーペーパーの制作、サイトやSNSを運営をする部署。地元のお店や企業を取材して発信していく、会社の中では新しい事業だった。

なずなさん:だから、入ったばかりでいきなり企画を考えることになったりして。1年目は、本当に大変だったし、心細かったです。

ただ、いきなり企画を任されるとはいえ、放任されたり、失敗を責められたりすることはなく、周りの人にたくさんサポートしてもらったと語るなずなさん。
くじけそうになったときも、「支えてもらった分がんばろう」と気持ちを切り替えた。

勉強することが心の支えに

そして今、なずなさんは同じ会社で働いて3年目になる。仕事にも少しずつ慣れ、地元に根付いている仕事だからこそのやりがいを感じているという。

なずなさん:自分の関わったフリーペーパーが地元のお店に並んでたり、周りの人からSNS見てるよと声を掛けてもらったり。そういうのがうれしいですね。

社会人になってから日記が習慣に。1年目の終わりには、このごろのノートで自分を見つめ直したという

その一方で、本当にずっとこの仕事を続けたいのかと自分に問うことも増えてきた。その中で、人の支援に関わりたい気持ちがまた芽生え始めた。

なずなさん:数少ない同期が1年目でメンタルをくずして辞めてしまったんですよ。当時はわたしもいっぱいいっぱいだったから話を聞くくらいしかできなくて。やっぱりそういう人に対してなにか支援ができたらなと思って、資格の勉強中です。

彼女がいま挑戦しているのが、キャリアコンサルタントの資格取得だ。自身の就職活動時、サポートしてくれた人が持っていた資格だった。

資格を取った後どうするかは、まだ決めていないという。けれど、日常で誰かの役に立ったり、新しい出会いがあったりするかもしれない。「やりたいことをやっていたら、なにかが舞い込んでくるかも」そんな期待を胸に、机に向かっている。

なずなさん:それに、勉強自体がひとつの心の安定材料になっているなと思うんです。会社だけが居場所じゃないって思えるというか。

仕事でもプライベートでも、ひとつのことに重きを置きすぎずに、複数の居場所をもっていたい。改めてそう感じています。

大学から始めた被写体の活動も、なずなさんの居場所のひとつだ

編集部のまとめ

凪のように見えたなずなさんも、もちろん悩みや葛藤がないわけではない。

でも、希望していなかったキーボードも、友人と一緒にやることを楽しめたように。
仕事に対しても、ままならない状況を嘆くのではなく「この人のためにがんばろう」「自分のスキルにつながるかも」と、心の置きどころを自分でつくってきた。
だからこそ、自分が大きく揺れ動かず凪のようでいられる。

未来のことはあまり考えず、今自分のわくわくする方へオールをこぐ。そして、休みたいときに船を寄せられる場所を、いくつか持っておく。そうやって彼女の船はゆるやかに、すこやかに進み続けてゆくのだろう。

STAFF
photo / text : Hinako Takezawa