[2025/11.28]

暮らしのお買いもの

【真夜中の小さな物語】vol.11
ひとりに還る夜

「ただいま」と、ひとりごとが部屋にぼんやりと広がる。
季節の移り変わりとともに訪れが早くなった夕闇がすでに部屋を飲み込んでいる。

大学生になって以来、ひとり暮らし歴6年目。
家族とともに暮らしていた時は“ひとり暮らしをしたい!”と思っていたわけではなかったが、どうやらわたしはひとり暮らしが向いているタイプの人間だったらしい。
世界的なパンデミックの時期を除いてホームシックになることもなく、ひとり暮らしを満喫している。
誰にも気兼ねすることなく、好きな時にごはんを食べ、好きな時に好きな音楽を流し、夜更かしして見たかった映画にのめり込む。
わたしだけの空間。わたしだけの時間。わたしだけの生活。

だけど今日は心なしか落ち着かない。
夕闇に沈んだ部屋を見た瞬間からなんとなく寂しい気持ちになっていた。

いつもと違うこと……と考えて思い至る。
昨日まで10年来の付き合いの友人と旅行に行っていた。
ふだんは車で3時間ほどかかるところに住んでいる友人とはなかなか頻繁に会うことができないので、昨日が約1年ぶりの対面だった。

いまだに初めて話しかけられた時のことを思い出す。
中学校に入学して間もないころ、偶然にもお互いのつけている時計が色違いの同じモデルで友人から話しかけてくれたのだ。
中高とずっと一緒に過ごしていた友人。
ただ、大学で地元を離れたわたしと地元に残った友人でそれまでのように頻繁に会うことはできなくなった。

でも会えばいつでもあのころのふたりに戻ってしまう。
何を話したか覚えていないほどくだらない話をいつまででもできるし、高校生に戻ったような気持ちで1駅でも2駅でも歩けるし、夜更かしして一緒にドラマを見たり、罪悪感を感じながらラーメンをこそこそふたりで食べたり、会えなかった時間を忘れるくらいありのままの自分で心地よい時間を過ごせた。

大人になってからできた友達もいるが、10代のころからなんでも知っている友人はわけが違う。
今は社会人の仮面をかぶって、ちゃんとしているふりをして生きている自分をお構いなしにあのころに戻してくれる。
そんな関係の友人がいるしあわせを噛みしめた。

当たり前のようにふたりで過ごす数日を経た今。
楽しかった旅行の記録を日記に書き留めながら、ひとりの生活へと緩やかに戻っていく。
物足りなさを補うように、いい香りのミストをかけてみた。
自分におまじないをかけるように。
時計をみるともうすぐ25時。

また次の楽しいことを考えてから今夜は眠りにつこう。
ひとりでやることもふたりでやることもたくさん考えて、ぽかぽかした楽しみな気持ちをベットへと連れていく。

甘い香りに包まれながらわたしの生活は続いていく。



今回登場した『25時のおまじない』はこちら

STAFF
photo & text 橘花