[2025/11.26]
暮らしのお買いもの
【真夜中の小さな物語】vol.7
余香の道しるべ
かなえたい夢に、なりたい自分に
いつから目を向けなくなった?
ふとそんな疑問が頭に宿る24時、
この時間はどうも深く考え込んでしまう。
幼いころの私はいつだって夢を見ていた。
こんなことがしたい、あんなふうになりたい。
溢れんばかりに思い浮かび、
どんな自分になれるのだろうかと
胸の高鳴りが止まらなかった。
向こう岸の無い可能性が自分の中にきっとある。
目にも見えないし、ふれられなくても
心の底から信じていた。
あれから約20年が経った。
今の私はどうなった?
幼いころからの夢をかなえたはずだった。
でも現実はそう甘くなかった。
目の前の職業をプロとして演じ切り、
役に徹底的に染まりゆくことを求められた。
だんだん消えていく本当の自分。
いったい何者なのかわからなくなっていた。
厚い仮面と重い鎧を脱ぎ捨てたい。
でも身ひとつになることは心細いから
何かやさしいものに包まれたい。
どこまでも弱くそれでいて欲深い。
至極人間らしいと思う。
私はいったい何になりたいんだろう。
何にだったらなれるんだろう。
自分と向き合う時間には香りが必要だ。
いつもお香を炊く私のもとに届いたのは、
『25時のおまじない』。
今日はこの子が私のそばにいてくれる。
1.jpg)
甘く香るあたたかな香りは、
まるでベールが掛かるようにやわらかく、
私を冷たく暗い現実から遠ざけてくれた。
香りと名の通り、
たまには自分を甘やかしてもいいと、
そっと背もたれを与えてくれるようだった。
「今の私だって 人間らしくていいじゃないか」
ふと私の中のわたしが答えた。
完璧であろうとしてもそうはなれず、
数えきれないほどのほころびがあるところも、
それを必死に隠そうとする健気さも、
すべてひっくるめて愛してもいいじゃないか。
人に愛される自信がないうちは
自分で愛してあげるしかないのだから。
甘い香りは教えてくれた。
「そのままでいいんだよ」と。
見えない何かに追われる私を、
そっと包み込むように。
2.jpg)
さっきまで硬く張りつめて絡まっていた糸が、
するりとほどけてのびていくようだった。
あとはこの糸をゆっくりと編んで、
新たな自分を形作っていけばいい。
また際限のない夢が見たい。
未来の自分に心躍らせたい。
ひと粒のチョコレートほどの希望が、
香りにのせられて私のもとへ届いた25時。
おまじないをかければ、
いつでもあの香りが味方をしてくれる。
やさしく灯るキャンドルが、
未来への道筋を示してくれるようだった。
3.jpg)
明日の私はたぶん、
今日よりもやさしく笑える気がする。
幼くも夢を見続けていたあのころのように。
そして明日からの私はきっと、
少しずつ自分を心から愛せるようになるはずだ。
今回登場した『25時のおまじない』はこちら

STAFF
photo & text 𣷓(nagi)



