[2025/11.25]
暮らしのお買いもの
【真夜中の小さな物語】vol.5
25時、あのころのぼくと出逢わせてくれる
おまじない
2年前の秋ごろから、将来への不安に襲われて眠れない夜がある。
見えない未来を無理に形にしようとして、どうにもならない思考が巡り巡っていく。
その結果、灰色な気持ちが出来上がる。
今夜も同じように眠れない。
将来への不安がぶくぶくと膨らむ。
たまに、泡が弾けてしまうような勢いで。
長い夜を覚悟したそのとき、ふと、親友からのプレゼントを思い出した。
確か「眠れない夜に使って」と、言っていた気がする。
小さな箱には、『25時のおまじない CHOCOLATE NIGHT MIST』と、書いてある。



頭上に「チョコレート?」と、はてなの記号が浮かんだ。
だけど、チョコレートと聞くと少し安心感がある。
小さいころ、好きな食べ物を聞かれると、「チョコレート!」と、必ず答えていた。
でも歳を重ねるにつれて、誰かの視線や見栄ばかりを気にして、自分の本当の気持ちを隠すことが当たり前になった。
気づけば “好きなものを素直に好きと言えるぼく” がどこか遠くへ行ってしまった。
だからこそ、チョコレートという言葉だけであのころの懐かしい気持ちがよみがえり、心が少しあたたかくなった。
25時まであと10分。

せっかくならちょうどその時に、おまじないをかけよう。
場所を整え、気持ちを整え、童心に帰った気持ちを携えて、待つ。
25時。おまじないをかける。

すると、「大丈夫」と、言わんばかりにやさしい香りが僕を包んだ。
どことなくチョコレートの甘さを含みつつ、くどくはない、やさしい香り。
香りに包まれていると、無邪気だったあのころのぼくが少しずつ戻ってくる気がした。
未来のことなんて何も考えず、ただ目の前の今日を、まっすぐに、懸命に生きていたぼく。
そして、本心を隠すことなく好きなものを素直に好きだと言えていたあのころのぼくが。
数時間前までは、黒を黒で何度も塗りつぶしたような暗さだった。
気づけば眠っていたみたい。
目が覚めた時には、やわらかく、それでいて確かな強さをもつひと筋の光が、そっと部屋の中に入り込んできていた。

そして、ほのかにチョコレートのやさしい香りがする。
おまじないの効果は、まだ少し続いているみたい。
おまじない無しで生きられれば、それに越したことはないけれど、生きていれば“なにか”にすがりたくなる瞬間がやってくる。
そんなときに自信を持ってすがれる“なにか”を、僕は手に入れた。
これからも、不安な夜はやってくると思う。
でも、僕にはおまじないがある。
あのころのぼくと、出逢わせてくれるおまじないが。

おまじないのおかげで、本当の自分を取り戻せた気がする。
だからこそ、今日からは、少しだけ素直に生きてみようと思う。
まずは、あのころのぼくと同じように「僕の好きな食べ物は、チョコレートです!」と、胸を張って言うところから始めよう。
今回登場した『25時のおまじない』はこちら

STAFF
photo & text おおすぎこうへい



