[2025/11.25]
暮らしのお買いもの
【真夜中の小さな物語】 vol.2
チョコレートのおまじないで、夢を見る
眠れない夜だ。
布団に入ってから2時間が経った。
昔から寝つきが悪かった。眠気が我慢できるほうなのか、これまで学校の授業中に寝ることは一度もなかった。でもこんなことになるなら、中高生の時にまじめに授業なんか聞いてないで思う存分居眠りしておけばよかった。
そんなことを考えるくらい、眠れない夜だ。
「将来の夢はなんですか?」
小さいころからしばしば聞かれてきたことを、そろそろ決定して実現しなければならないころだ。
何にだってなれる。
でも、何になれるか分からない。
何になるべきか分からない。
社会人になってからの方がきっと大変なのに、何者でもない学生の今こんなに悩んでいて、私は果たしてちゃんとした大人になれるのかな。
どうしようもない不安に飲み込まれて、だんだん目が冴えてくる。
いつもは必死で目をつぶるけど、明日は土曜日。 もう日付は変わっているから今日か。
こういうときはいっそ起きてみよう。真夜中の静けさを楽しむのも悪くない。
そう思いからだを起こした。


手を伸ばしたのは、「25時のおまじない」というフレグランスミスト。
「おまじない」なんて言葉、何年ぶりだろうか。漫画雑誌の付録についていたおまじないBookが大好きだった小学生のころを思い出す。
パッケージの羊がなんともかわいい。思えばあのころも眠れない日があったっけ。羊を200匹くらい数えた気がする。


ふたを開け、枕に吹きかける。
甘くて、どこか懐かしいような香りに思わず頬がゆるむ。
チョコレートの匂いだけど、何か少し違う。
いつも食べているものはツヤツヤで赤みのある茶色のイメージだけど、この匂いはさらさらで、こっくりした焦げ茶色が思い浮かぶ。
イタリアの調香師が配合した香りらしい。イタリアのチョコレートはどんな味なんだろう。
ベッドにチョコレートの匂いがあるのって、 なんだかココアをこぼしたような気持ちになっておもしろい。
だだをこねた子供がお菓子で大人しくなるように、ざわついた心がチョコレートの匂いで落ち着いてくる。

そうだ、チョコ食べちゃおう。
なんてことない市販の3種のチョコレートアソート。いつもいちばん甘いのと、甘さ真ん中のものを選びがちだから、ブラックチョコがよく余る。大人になりきれてない今の自分みたい。
でも、甘いチョコレートはやっぱりおいしい。

チョコレートを食べながら、同封されていたリーフレットを広げる。
“テオラココ テオラココ わたしはどこに向かっているの?
テオラココ テオラココ きっと、みんなも同じ夜”
私は夜が好きだ。
周りを気にせずに、自分と向き合うことができるから。
それでいて、「みんな同じだ」となんとなく思えるから。

「予言の自己成就」という言葉がある。
社会学では、根拠のない予言も信じていれば当たる可能性が高まるらしい。
例えば、占いで「いい出会いがある」と言われると、無意識に人が多く集まるところに行くようになったり、自分磨きをがんばったりする。だから実際に出会いが増えて、結果うまくいく。
おまじないも同じだと思う。信じていれば、いつかきっとかなう。
テオラココ、テオラココ。
まだ「大人」なんて言えるほどしっかりした自分じゃないけど、今日は子供に戻って夢を見られますように。
テオラココ、テオラココ。
ありのままの自分を受け入れられますように。
チョコレートのおまじないをかけて。

今回登場した『25時のおまじない』はこちら

STAFF
photo & text 紗葉



