[2025/05.24]

暮らしのお買いもの

【このごろコラム】
自分をとりもどすための誘惑セット

ふと時計を見上げる。
時刻は23:00。

「え、もうこんな時間?」
思わず声をあげてしまった。

仕事から帰り、さっと夜ごはんを作る。
本当は作るのも億劫だけど、冷蔵庫の食材をダメにしてしまう方がよっぽど億劫だ。

やっとの思いで作ったごはんを一瞬で食べ終わったら溜まった家事をもろもろ片付けて、ほっとひと息ついて携帯をいじったら、もう23:00である。

一日が早すぎる。
早すぎるというよりかは、なんだか手ごたえのない毎日。

今日もこうして一日が終わるのか。もったいないな。

なんだか心がもやもやしてきた。なんなら、思い出さなくてもいいあれこれまで胃の中からふつふつと湧き出る感覚まで出始めた。

なんとかしてこの気分を晴らさなければ明日にも支障がでそうだ。

このままではまずいな……よし。

そんな気分のときに、わたしが決まって行う儀式がある。
その名も「23時の誘惑セット」である。

さっそく箱を開けると、おしゃれな瓶に詰められたおいしそうなコーラのシロップと、スプーン、なんともかわいらしいステッカーがわたしを出迎えてくれた。

うん。もうすでにいい感じ。

いい感じの気分をさらに持続させるために、コーラのシロップをバニラアイスにかける。
それを欲望の赴くままに食べる。

いたってシンプルな儀式なのだが、その儀式でしか乗り越えられない夜があるのだ。

「いただきます。」
とろりとしたシロップは、そのままでも充分おいしいバニラアイスを十二分においしくさせる。

口に入れると、シロップの持つ瀬戸内レモンの風味と和漢ハーブのさまざまな香りが鼻を抜け、澱んでいたわたしの気持ちをふわっと持ち上げてくれる。

ただ甘いだけじゃない、甘さの奥に何層にも広がるスパイスのぴりっとした味わいが、口いっぱいに広がる。

「うまぁ~」
思わず声が出る。

夜にこうしてゆったりアイスを食べていると、自分もずいぶん大人になったなあ、としみじみ感じる。

すべてのものがセンチメンタルに思えた10代は、自分の機嫌をとるどころか、いちばん自分の感情をないがしろにしていたように思う。

他人の目を気にして、自分がどうしたいかよく分からなくなって……を繰り返していた。

時は経ち、いまだに悩むことの大半は人間関係や自分自身のことだけれど、それでも少しずつ自分なりのセーフティーネットになりうる対処法を手に入れることができた。

無理に元気にならなくてもいい。ただ、どん底まで落ち込んだときに、いつか自分で地面を「えいっ」と蹴ることができるように、自分なりの立ち直り方はいくつも持ち合わせていた方がいい。

いつの間にかぺろっとアイスは食べ終えてしまった。

明日は違ったシロップの使い方をしてみようかな~と、早くも夢が広がる。

いつか、豚の角煮を作るときにコーラを入れるとお肉が柔らかくなる、と聞いたことがある。料理の腕はそこまでないが、シロップもあることだし、たまには試してみようか。

ふと、23時の誘惑セットに入っていたステッカーが目に留まる。
シロップを飲み終えたら瓶を洗って、このステッカーを貼って花でも飾ろうかな。

気のせいだろうか、ステッカーに描かれた女の子がやさしくわたしに微笑んでくれたように思えた。

今回登場した『23時の誘惑セット』はこちらから▼

編集部による紹介記事はこちら▼

平日の23時、やりきれない気持ちを誘惑するものとは?

STAFF
photo & text :結城りん