[2025/11.27]

暮らしのお買いもの

【真夜中の小さな物語】vol.9
こころをとかす真夜中の処方箋

ゴロン。ゴロン。
布団のなかで何度も寝返りを打つ。
いつもは気にならない時計の針の音が、今日はやけに大きく聞こえて、見ると夜中の1時を指していた。
早く眠らなきゃ。明日も早いのに。
そう思えば思うほど、焦りで頭がはっきりしてくる。

今日は仕事でミスをしてしまった。
なんとかトラブルは収まったけれど、上司に怒られ、先輩に慰められ、なにより自分が情けない。
あのとき、もう一度確認していれば……。
悔やんでも失敗は取り返せないのに、たらればが止まらない。

社会人になって3年。同期のみんなは、大きな仕事を任されて着実ステップアップしているように見えるのに、どうしてわたしはうまくできないんだろう。
反省と自己嫌悪が混ざり合って膨らんで、もやもやトンネルから抜け出せなくなる。

そうだ、こんな夜は、あのミストの出番だ。
チョコレートの香りがする「25時のおまじない」。
おいしそうなチョコレート色の箱に、夜空に浮かぶ星と女の子のイラストがかわいくて、つい買ってしまった。

枕にそっとミストを吹きかけると、ふわっとチョコレートが香った。
一気にあまく、しあわせな世界に誘われる。
大きく深呼吸したら、やさしい香りが心の奥まで入ってきて、少しずつもやもやが溶けていく。

ついでに、おまじないも唱えてみよう。
「chocolate」の綴りをアナグラムにした「テオラココ」。
なんだか、魔法の呪文みたい。

目を閉じて、「テオラココ、テオラココ……」。
疲れた心に「がんばったね」と声をかけているようだった。
あまい香りとおまじないで、ざらついていた心がすーっと静かになって、いつの間にか眠りに落ちていた。

その夜見た夢は、前を向いてがんばっているわたしだった。
大丈夫。わたしのペースで、わたしらしく。
一歩ずつ進んでいけば、失敗もいつか成長のための栄養に変わる。

毎日いろんなことがあるけれど、夜は必ずやって来る。
おなかがよじれるほど笑った日も、落ち込んで立ち直れない日も、胸が締め付けられるようなつらいことがあった日も。
心穏やかに眠れない日だって、たくさんある。

でも大人になったわたしは知っている。
「今日もがんばったね」と自分をいたわってあげること、そしてどんな夜もやさしい眠りにつくことが、心のいちばんの処方箋。
ぐっすり眠れたら、きっと明日もがんばれるから。

今夜もおまもりに「25時のおまじない」をベッドサイドに置いておく。
テオラココ、テオラココ。おやすみなさい。また明日。




今回登場した『25時のおまじない』はこちら

STAFF
photo & text 松杉わかば