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にぎるって愛!おばあと孫のおにぎりストーリー【第3話】

2022.4.14

にぎるって愛!おばあと孫のおにぎりストーリー【第3話】

粒立ちがよく、噛めば噛むほど甘味が広がるおばあのおにぎり。第3話では、そんなおばあのおにぎりのおいしさの秘訣に迫ります。秘訣はやっぱりおばあの愛情!いやいや、どうやらそんな抽象的なものだけではないようです…。

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大迫 知信(おおさこ とものぶ)

ライター。大阪府在住。2011年、勤めていた電力会社を辞め、京都芸術大学文芸表現学科に入学。生活費を浮かすため大阪の祖母の家の近くに住み、料理を作ってもらうようになる。この祖母の手料理を「おばあめし」と呼び、ブログやSNSで発信。工夫を凝らした晩ごはんや、ランチのおにぎりが話題となる。

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おばあ

6000個以上のおにぎりを作ってきた大迫さんの祖母。今年米寿を迎える。
他では見ないユニークなおにぎり作りが得意。

おばあのおにぎり 本当のおいしさの秘訣

僕の祖母、おばあがつくるおにぎりがおいしいのは、ごはんと一緒に愛情をぎゅっと込めて握っているから!と言いたいところだけど、おいしさの秘訣は『愛』なんて目に見えないあいまいなものではなく、もっと具体的で明確だ。

それは炊飯器が、一般的な電気式ではなくガス式ということにある。おばあが子どものころはかまどを使い、薪の直火で米を炊いていた。「カマ(かまど)で炊いたんと、同じような味や」とおばあは言い、高火力で直火のガス炊飯器を長年使い続けてきた。

たしかに僕がひとり暮らしで自炊していたころ、電気炊飯器で炊いたご飯はいまひとつ味気なかった。それから会社を辞めて大学に入学したことをきっかけに10年以上、おばあに晩ご飯や昼用のおにぎりを作ってもらっている。

カレーやすき焼き、焼き鮭のおにぎりなど僕の好物ばかり……出るわけもなく、ほとんど具なしの前日の味噌汁だけとか煮詰まった煮物だけなんて日もあった。それでも食べてがっかりしたことがないのは、ご飯がおいしいからだ。

「米は電気で炊くようにせなあかん」

ある日、おばあの家に晩ご飯を食べに行くと、ご飯が炊けていなかった。
「ご飯は冷凍してあるやつチンして食べや」
とおばあが残念そうに言う。台所に急ぐと、炊飯器上部のプラスチックの持ち手が割れ、金具が曲がってふたが閉まらなくなっていた。

「前のようには、力が入らへんのや」
とおばあは言い、節くれ立った両手をじっと見つめた。おばあはいつも米を炊くとき、ガスのホースをつなげるため、炊飯器を流し台に移動させる。その途中で床に落としてしまったのだ。

あらためてガス炊飯器を持ってみると、想像以上にずしりと重い。米寿を目前にしたおばあが、こんな筋トレに使えそうなほど重いものを、胸の高さの流し台に移動させていたなんて。腕力のおとろえを嘆くより、昨日まで毎日、当たり前のように持ち上げていたことを誇っていい!

気落ちした様子のおばあを励まそうとすると、
「もう、米は電気で炊くようにせなあかん」
と先におばあがきっぱりと言った。さっきまでうつむき加減だったけど、今はもう悔いはないと決めたような晴れやかな表情だ。たしかにガス炊飯器を新調したところで、すぐにまた落として壊すか、やがて持ち上げられなくなる。まだおばあに炊いてもらうには電源だけで使える電気炊飯器にするしかない。

電気炊飯器来たる

それから数日後、僕がネットで注文した5合炊きの電気炊飯器が届いた。僕は3合炊きで充分だと言ったけど、おばあは「いや5合のやつや!」とゆずらなかった。5合も炊く機会は滅多になくても、おばあのやる気が感じられてうれしくなった。

早速おばあに使い方を教え、いつもの晩ご飯の時間にまたおばあの家にやってきた。ご飯はちゃんと炊けている。色やつや、香りも以前と変わりはない。

問題の味は、口に入れるとひと粒ずつが立っていて、もっちりとして固さはちょうどよく、噛めば噛むほど甘みが出てくる……って、めっちゃおいしいやんか、おばあ!と心の中で叫ばずにはいられなかった。

おいしさの秘訣は、やっぱりおばあの愛情⁉

電気でおいしく炊けるなら、味の秘訣はガスの直火ではなく、まさか……愛情⁉そんなぼんやりとした形のないものが、ご飯の味を引き立てているとは信じがたいけど、噛めば感じる絶妙な食感が、あふれ出る甘みが、それを証明している。

 とはいえまだ半信半疑のまま、食後におばあが作ってくれたおにぎりを受け取った。翌日の昼にそのおにぎりをほお張り、じっくり噛んで味わっていると、これからもおばあが炊いたごはんが食べられるよろこびが湧き上がってきた。

 それと同時にいつか食べられなくなる日がくることにも思い至り、いつものおにぎりがこれまで以上にかけがえのないものに思えた。するとたしかに、おいしさが増した。

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みんなの感想みんなの感想

  • 1. 川上道子さん 2022年04月18日 09:40

    はじめまして、
    今年70歳になるおばあ初心者です。
    元大学の教員(看護・介護・保育)です。
    定年後は、大学や専門学校・高校の非常勤講師をしています。
    いつも応援していますが、おばあさまの健康がきになっています。頑張ってほしいです。

  • 2. naoさん 2022年04月27日 13:51

    電気釜もずいぶん性能が良くなってるみたいですね。
    それに、かなりいい電気釜買ったんじゃないですか。

  • 3. ももちゃんさん 2022年05月01日 18:07

    主人が中学生の時、友達と集まると必ず母親がたくさんの塩結びのおにぎりを作って部屋に。食べ盛りの男の子だから美味しかったと思い出話をしてくれました。今みたいにスナックお菓子も買い置きしない時代でした。今私は娘たちに毎日、おにぎりを持たせてます。ダイエットの長女と保育士の次女に。おにぎりは家族の絆ですね‼️

  • 4. レオポンのママさん 2022年05月16日 11:46

    3年前になくなった姑が元気だった頃、やはりガス釜でご飯を炊いていました。孫が遊びに行くのを楽しみにして、きちんとご飯を作ってくれたなあ、となつかしく思い出しました。おばあさまのおにぎりが美味しいのはやっぱり愛情がつまっているからですよ!作るにも食べるにも元気の源のおにぎり、末長く美味しく召し上がれ。

  • 5. おにこさん 2022年05月25日 14:07

    私は高校3年の頃、大学受験をきっかけに摂食障害になりました。いまも同居するおばあちゃんの作ってくれるおにぎり1つちゃんと食べれません。どこかでこの暖かい食事には会いたくても会えなくなるとわかっていながら、怖くて悲しくて、おばあちゃんとも、おばあちゃんのおにぎりとも向き合えずにいました。
    この記事を読んで、まだ揺らぐかもしれませんが、一口でも多く大切に食べれるようになろうと素直に思えました。本来は、もっと楽しくて、幸せで、あったかいものだったなと染みてきました。素敵な記事でした。
    大迫さんと、おばあさまの健康を祈っています。

  • 6. RUNさん 2022年05月26日 10:08

    おばぁととものぶさんのお互いの愛情ひしひしと感じ何故か涙が溢れました。

    私もアラサーの三男にお弁当作ってますが後何回作ってあげれるかなぁと日頃から思ってますが、まだまだですね。

    おばぁととものぶさんの健康祈りながら私達も仲良く日々大切にしていきます♪

  • 7. しよこたんさん 2022年05月31日 19:27

    私も3才の孫をもつおばあです。本当に孫は可愛いから何でもしてあげたい!私もいつか孫におにぎりを作ってあげたくなりました。

  • 8. パンコさん 2022年06月28日 16:10

    お孫さんを思うチャーミングなおばあちゃんと、おばあちゃんの思いもちゃんと受け止めて味わっているお孫さん。写真のおにぎりからも愛情が溢れています。

  • 9. ショートブレッドさん 2022年06月29日 06:30

    毎日おにぎりを作り続けて十数年、最近ようやく理想の食感塩加減がわかってきたような私なので、「おばあ」さんのレベルに達するには程遠いですが、おにぎりで今思う何かを伝えようとしているのはおなじなんだと少し嬉しくなりました。

  • 10. 松子さん 2022年07月05日 23:22

    バァちゃんのおにぎりって何でこんなに大きいんだろう?と、小さい頃から不思議に思っていたけれど…愛ですね。どデカい!

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