ことば部やまけんの本屋巡りの旅 第3回『の君に本を』
こんにちは、ことば部のやまけんです。
僕は昔から本屋さんにいくと、なんだか無性に心がワクワクします。
自分の手元に無限の可能性がある感覚。
目当ての本を買う日もあれば、何も決めずに行って、その日出会った本を買って帰ったり。
子どもの頃から、26歳になった今も変わらず、本屋さんが大好きです。
大好きという気持ちは、段々と憧れに変わってきました。
いつか本屋さんを作りたい。その気持ちを胸に、ことば部やまけんが街の本屋さんにたくさんのことを教えてもらう。
『ことば部やまけんの本屋巡りの旅』はそんな連載です。
第3回は大阪、谷町六丁目にある『の君に本を』さん。
中に入ると、はじめに現れる赤いポスト。本棚では「言葉でなく、愛を届けたい君に」や「子どもが近くにいる君に」など誰かのために本が並べられていて、棚の間には腰掛けるソファーもある。聞きたいことも、気になることも、なんだかたくさん。
そんな『贈り物にこそ本を』をコンセプトにしたこの場所で、本屋さんのことをお聞きしました。
大きく「の」と書かれた暖簾をくぐり、初めてこのお店を訪れた時、驚いた。
赤いポストや本の一節を抜き出し掲示した照明、ジャンルではなく対象の誰かに向けた本棚。本屋さんでは初めて見るような光景が、そこに広がっていたからだ。
だけれど、そこには落ち着きがあった。
ある人は少しワクワクした顔で本棚を見つめ、ある人はソファーに腰掛け本を読んでいる。
訪れた人たちそれぞれが、この場所でゆっくりとした時間を過ごしている。
あたたかい空気の流れる場所。なんだか居心地がよく、そこにいるだけで嬉しくなった。
今回は、そんなお店の店主チエさんに、取材をさせてもらう。
ポストのこと、本棚のこと、聞きたいことは山ほどある。
でも、今回お話を聞いた1番大きな理由は、自分がいつか本屋さんを作るなら、『の君に本を』さんのように、あたたかさの流れる場所にしたかったからだ。

「楽しい時間を共有するということが大事なんだろうなと思ってて」
『の君に本を』さんは、『贈り物にこそ本を』をコンセプトとしていて、店内の至る所にそのコンセプトが伺える。まずは、”本を贈る”ということについて聞いてみることにした。
「誰かに贈り物を贈る時って、自分の想いを伝えたかったり、誰かのことを考えたり、想いがあると思うんです。本ってそれ自体に物語や内容があるじゃないですか。誰かへの想いと、本にある物語がリンクした時、より深い贈り物になるんじゃないかな、そういうことがご提案できる場所を作りたいな、と思って始めたのが最初なんです。私自身も誰かに本を贈ることが多くて、結婚式で本を片手にスピーチしたこともあったりなんかして。」

ラッピングはリボンの他に「ふくふく」をつけることができる。素敵な贈り物に。
そう話してくれるチエさんは、なんだか楽しそうで、本当に本や贈り物が好きなんだろうな、と聞いているこちらにも伝わってきた。
このお店はもうひとつ、絵本がメインの書店になっている。それはなぜだろう。
「子どもが生まれてから、絵本の読み聞かせのボランティアをずっとやっていて。そうやって絵本のことを知っていくと、大人の方から赤ちゃんまで、こんなに幅広く楽しめる絵本って素晴らしいなと思ったんです。元々好きではあったんですけど、だんだんと絵本の可能性に魅せられていきました。」
こちらの話をうんうん、と聞いてくれて、本のことや絵本のことを話す時にはとても楽しそうに話してくれるチエさんは、なんだかピュアで素敵な人だなあ、と話しながら思った。
そしてお話の中で出てきた、絵本の読み聞かせのことも気になる。どんなふうに読み聞かせをされているのだろう。
「読み聞かせは、何かお話を一方的に届けるというよりは、楽しい時間を共有するということが大事なんだろうなと思ってて。ひとりよがりでもなくて、子どもに合わせるでもなくて、一緒に楽しめたらいいな、と思ってやってますね。」
「買ってもらう、というよりは、手にとって読んでもらう場所であってほしい」
読み聞かせのお話の時に出た「時間を共有する」という言葉が、自分はなんだか、このお店に流れる心地よさに繋がっている気がした。
ソファーがあり、誰かを想った棚があり、ゆっくり時間が流れている。
この空間は一体どのようにして作られているんだろう。
「買ってもらう、というよりは、手にとって読んでもらう場所であってほしいなということを思ってます。本だけじゃなくて、誰か届けたい人、それは自分でもいいんですけど、その人のことを想って、本を選んで欲しかったんです。だとしたら、のんびりとゆっくり過ごしてもらえる空間だったらいいな、と思って、ソファーを置いたりしていきましたね。」
「さっき、自分でもいいって言ったんですけど、お客さまに『ああ、わたしは今こういう本が欲しかったのかってここに来て気づきました』って言ってもらえたこともあって。本自体に出会うのもそうだけど、自分のこととか、誰かへの想いとか、そういうものにも出会える場所であれたらいいなあ、と思ってます。」
自分が最初にこのお店を訪れた時のことを思い出す。ある人は少しワクワクした顔で本棚を見つめ、ある人は店主のチエさんとお話をして、ある人はソファーに腰掛け本を読んでいる。
自分がこの場所で感じたあたたかさは、お店やチエさんだけでなく、そこに訪れる人も一緒に作ったものだったのかもしれないな。
そう思うと、なぜかより一層、嬉しくなった。

届けたい誰かのことを、自分のことを、想える棚
どの棚にあるかで出会い方も変わる
もう一つ、どうしても聞きたかったのは入り口近くにある赤いポストのこと。
このポストには「のてがみ」という誰かへ本をオススメするための手紙を入れることができる。
読みたい本を探している人は、となりの棚にある誰かからの「のてがみ」を読んで、あたらしい本と出会うことができるのだ。
「私が誰かに本を贈るときには手紙も一緒に贈ることが多くて。だから『のてがみ』を作りました。のてがみは宛先を”知らないだれかさんへ”としているんですけど、そうやって書いたものが思いもよらない誰かに届くかもしれないし、読んだ人が自分では手に取らなかった本に出会えるかもしれない。そういう繋がりがたくさんあれば嬉しいな、と思ってます。実際にお客さまにもたくさん楽しんでもらえていて、凄く嬉しいんです。」

本の1行を抜き取って照明にしていたり、本棚もそうだけれど、この場所では、本との”出会い”を大切にしているところを節々から感じる。
「照明もそうですね。1文でも人生が変わるくらいの言葉に出会えることもあったりするので、言葉に出会ってもいいし、その1文から気になって本に出会ってくれても嬉しい。そんなきっかけになったらいいな、と思ってますね。」

「本棚も、「〇〇な君に」という形だったら、あの人はこの棚が好きそうだな、とか、今の自分はこの棚をよく見ちゃうな、とか、イメージしやすいんじゃないかな、と思っています。本って読み方やタイミングによって受け取り方が全然違うし、どの棚にあるかで出会い方も変わるだろうなと思うので、今この本はこの棚だなあ、と入れ替えることもあったりして。店主さんはこの本をこの棚に置くんだな、も楽しんでもらえたら嬉しいです。」
チエさんのお話を、自分は自分がやっている様々な活動のことにも重ねて聞いていた。
自分がいつも1番嬉しいのは、文筆活動やバンド、ことば部など何かの活動を通して誰かと誰かの繋がりを作れた時や、誰かにとっての新しい入り口を作れた時。
自分が将来本屋さんを作る時にも、そんな場所になったらいいなあ、そう思いながら、お話を聞いていた。
そうだバンザイ生まれてバンザイ
最後にチエさんに好きな言葉をお聞きする。
「どれにしようかずっと悩んで……」と、たくさん迷った末に俵万智さんの歌集『プーさんの鼻』から短歌をひとつ教えてくれた。
『バンザイの姿勢で眠りいる吾子よ そうだバンザイ生まれてバンザイ』
「赤ちゃんのことだけに限らず、生きてると悩みもあるし、思うことも色々あるけど、でも生まれてバンザイやん!って思えたらいいな、と思っていて。お店にいる時に、友達や恋人同士、家族で来た人たちが本のことを話しているのを見たり、声には出してないけどお一人で来てゆっくりと本を選んでいるのを見たり、それが全部本当に嬉しくて、そういう時しあわせやなあ、って思うんです。その気持ちが、この歌に繋がってるなあって。」

発行元(河出書房新社)
チエさんのお話を聞いたあと、なんだか温泉に浸かった後のように、ほくほくと温かい気持ちになった。
あたたかさ。それはこのお店に最初にきた時に感じたものでもある。
置いてある本や流れている音楽それだけではなくて、誰かが誰かを想うこと、その想いが流れるあたたかい場所。
チエさんは読み聞かせの話の時、「お話を一方的に届けるというよりは、楽しい時間を共有するんです」と言っていた。一方的に何かを受け取るんじゃなくて、話したり、過ごしたりしながら時間を共有する。それがだんだんと場所になる。だから居心地がよくて、そこにいるだけでなんだか嬉しかったんだ。
自分もいつか、そんな場所が、本屋さんが、作りたいなと思った。

『の君に本を』
11:00-18:00 |月火水定休
大阪府大阪市中央区瓦屋町1丁目2−11 からほりかわらやえん 103号
◼︎Instagram
https://www.instagram.com/nokiminihonwo/?hl=ja
