ことば部やまけんの本屋巡りの旅
第2回『本の栞』

こんにちは、ことば部のやまけんです。
僕は昔から本屋さんにいくと、なんだか無性に心がワクワクします。

自分の手元に無限の可能性がある感覚。
目当ての本を買う日もあれば、何も決めずに行って、その日出会った本を買って帰ったり。

子どもの時から、26歳になった今も変わらず、本屋さんが大好きです。
大好きという気持ちは、段々と憧れに変わってきました。

いつか本屋さんを作りたい。その気持ちを胸に、ことば部やまけんが街の本屋さんにたくさんのことを教えてもらう。
『ことば部やまけんの本屋巡りの旅』はそんな連載です。

第2回は神戸元町にある『本の栞』さん。
商店街の脇道を少し歩くと現れる、自然光が優しく入るお店。まるで店主さんのおうちの本棚を覗き見したみたいな素敵な場所で、本屋さんのことをお聞きしました。


元町駅を降りてすぐのところに、元町商店街という素敵な商店街がある。
港町・神戸特有の洋風な雰囲気もあり、古着屋や喫茶店、映画館が立ち並ぶアーケード商店街。
近くには中華街があったり、海も近く、いつも活気で溢れている大好きな場所だ。

そんな商店街の途中、脇道を少し歩くと出会えるのが今回取材する『本の栞』。

実はこの『本の栞』には開店から5年ほど、お客さんとして定期的に訪れている。
初めて訪れた時も、取材をさせていただく今日も、変わらず店内には優しい光が入り、本棚は自分をワクワクさせてくれている。

「この人の感性好きだなあ」と思える先輩の家にお邪魔して、その家の本棚を覗き見させてもらっているような感じが、とても好きなのだ。
ずっと、このお店の店主さんはどんな人なんだろう、と気になっていた。
自分が本屋さんを目指すなら、一度この人のお話を聞いてみたいと思ったのだ。


「まず自分が居心地が良くないと絶対続けられないと思ったんです。」

自分がこのお店を知った開店当初は確か古本を扱っていたはずで、今は新刊がメインになっている。まずはその理由について聞いてみることにした。

「最初始めた時は古本屋でスタートしたんですけど、途中から新刊が面白いな、となって。そのまま新刊へシフトチェンジしました。途中から音楽イベントを始めたりもして。このお店も本屋さんをやろう、が先にあって、そこから考えていったので、結構思いつきのままにやっている部分が大きいです。」

「改装をしたのも、音楽イベントをやるとなった時に、今のままだと動線が悪いなと思ったんです。行き当たりばったりで。あとは単純に飽きた、っていうのがあるかもしれません。飽き性な性格で、飽きたなあと思うと何かを変えてますね。」

田邉さんは素直にたくさんのことを答えてくれる。本屋さんを開いた理由も、「志みたいなものがあったわけじゃなくて、単純に本が好きだったからなんです。」と教えてくれた。
前回、自由港書店さんを取材した時も思ったけれど、人と本屋さんはリンクしている。
田邉さんが素直に答えてくれることと、自分がこのお店に引き寄せられたり、いつもふと立ち寄りたくなることは、なんだか繋がっているような気がした。

古本から新刊へと、お店の業態を変えたり、音楽イベントを始めたり、レイアウトを変えたり。それでも『本の栞』には自分が通い始めた当初から変わらない温度感や雰囲気が保たれている。それはどうしてなのだろう。

「好きなものが、昔からあんまり変わってないからですかね。このお店もまず自分が居心地が良くないと絶対続けられないと思ったので、そこは大事にしてます。自分が良いなあと思うものを置く。本に限らず、お店の物とかも。趣味の店にしたいわけではないけれど、自分の手の範囲内から離れないように、はずっと意識していますね。」

『本の栞』にはきっと店主の田邉栞さん自身が生きている。
そしてそれが、自分がこのお店を好きな理由なんだろうな、とも思った。
このお店に来ると、店主さんはどんな人なんだろう、話してみたいな、と思うことが多かったけれど、どうしてそう思ったかが、分かった気がした。


自分が気に入っている場所を気に入ってくれてありがとう、という気持ち

取材の途中、田邉さんとお話できるのが嬉しくて、自分の文筆活動や好きなもの、バンドをやっていて嬉しい瞬間をつらつらと話した。
「しまった、取材なのに自分のことばかり話しすぎたかな……」と思っていたところ、田邉さんも私も、と本屋さんをやっていて嬉しい瞬間を話してくれる。

「本屋さんをやっていて嬉しい瞬間は、やまけんさんみたいに長く来てくれている人のことを知れる瞬間ですね。それって場所を気に入ってきてくれているんだな、って思うので。」
そう言われて、なんだか少し照れくさくなる。
確かに自分がこのお店に来る時は、ただ本を探しに来ているだけじゃなくて、この場所に流れる雰囲気や時間が好きだから、いつもふらっと立ち寄っているのだ。
「長く来てくれている人の存在を知った時、自分の気に入っている場所を気に入ってくれてありがとう、自分がいいと思っているものを褒めてもらえて嬉しい、という気持ちになりますね。」

自分が本屋さんをやりたいことを話し、本屋さんに必要な能力をお聞きした時、「「もう誰もこの店のことを覚えていないかも」という気持ちになる時もあります。そういう時にじっと同じ場所で待ち続けられるかどうか。待つ能力が必要かもしれません。」と答えてくれた田邉さん。
そうやって待った先に、場所を好きになった人が現れること。そしてそれを嬉しいと思うこと、その全部がとても素敵だなあと思ったし、自分は本屋さんのそんな一面にも惹かれているのかもしれない、と思った。

「私もこの場所が好きで、だからここにお店を構えました。喫茶店がまわりにたくさんあって、映画館と、アーケードの商店街がある街っていいですよね。」

自分が『本の栞』を好きな理由は店内の雰囲気だけでなく、そのお店の場所にもある。
冒頭にも書いたけれど、このお店は映画館や喫茶店が立ち並ぶ元町商店街のそばにある。だから『本の栞』で本を買った後は、近くの喫茶店で少し読んだりもする。そんな時間も好きだ。

「神戸が好きで。海も山も川もあって、歩くのが楽しい街ですよね。そんな歩くのが楽しい街に本屋があると私自身もラッキーって思うので。だからお店も路面店にこだわりました。このお店、自然光も優しく入るんです。」

ふと顔を上げると、入り口には緑の木々が見え、ガラス張りの間口から優しい木漏れ陽が入っている。ああ、だからこのお店が好きなのかもしれないな、と改めて思った。


『その日の天使』

最後に田邉さんに好きな言葉をお聞きすると、中島らも『その日の天使』の中の一節を教えてくれた。

『一人の人間の一日には、必ず一人、「その日の天使」がついている。』

「毎日の中でああ、もうだめだ、みたいな時に、部屋に入ってくる光がきれいだった、とか、風がちょっと気持ちよかった、みたいなことに救われたりする。人からいい言葉をかけてもらったこととか、街ですれ違った人が歌を歌ってた、とか、そういうひとつひとつが、天使みたいにやってきた、っていうのがいいなと思っています」

店主の田邉さんと自分は年齢もそんなに離れておらず、このお店を開店した時はきっと今の自分よりも年下だったはず。
そこから、長く人に愛されるこの場所が出来ていること、凄いなあと思いながら聞いていた。
自分も含めて長くこのお店を訪れる人はきっと、本の栞が好きだから田邉さんのことも好きで、田邉さんのことが好きだから本の栞も好きなのだろう。
自分にもいつか、そんな場所が作れるだろうか。

取材が終わって、話しながら何冊か本を購入させてもらった。
外はまだお昼過ぎ。元町を散歩しながら、喫茶店で本を読んで帰ろうと思う。


『本の栞』
12:00-19:00|水木定休
神戸市中央区元町通4丁目6-26 元村ビル1F北

◼︎Instagram
https://www.instagram.com/honnosiori/