ことば部やまけんの本屋巡りの旅
第1回『自由港書店』

こんにちは、ことば部のやまけんです。
僕は昔から本屋さんにいくと、なんだか無性に心がワクワクします。

自分の手元に無限の可能性がある感覚。
目当ての本を買う日もあれば、何も決めずに行って、その日出会った本を買って帰ったり。

子どもの時から、26歳になった今も変わらず、本屋さんが大好きです。
大好きという気持ちは、段々と憧れにも変わってきました。

いつか本屋さんを作りたい。その気持ちを胸に、ことば部やまけんが街の本屋さんにたくさんのことを教えてもらう。そんな連載を始めます。

第1回は神戸市須磨区にある『自由港書店』さん。海の近くにあって、道ゆく人が覗いたり子どもたちが遊びに来たり。そんな自由の風が吹く場所で、本屋さんのことをお聞きしました。


須磨海浜公園駅を降りると、海へ向かって1本の道が伸びている。今回取材を受けてくださる自由港書店はそんな道の途中にある。

初めての本屋さんへの取材。気合いの現れか、はたまた緊張か、予定より10分も前に書店へ着くと、店主の旦悠輔さんはにこやかに迎えてくれた。

旦さんが開店準備をされている間、お店に並べられた本を見ていると、一本道を歩いている人が「ここはなんだろう?」と覗いたり、近所の子どもたちがワーっとお店に入ろうとしたりする。

「そういえばCloseの看板出さなきゃだね」と旦さんは入り口に向かう。

まだ入れないんだよ、と言われた子どもたちの表情や声は、なぜか楽しそうで、こちらもなんだか嬉しくなる。きっとこの場所ではよく起こるやりとりなんだろう。風が吹き抜けるような、そんな時間が流れている。

「答えられない」から始まったインタビュー、『自由港書店』という名前のこと。


「ことば部って本当に素敵な名前だと思うし、そして素敵な活動もしていると思ってるから、僕も真剣に答えようと思う。その上で、その質問には、答えられない、という答えを返したいんだ」

インタビューが始まって5分ほど、書店を開くまでの経歴についての質問に旦さんが自分の目をしっかり見て、そう言った。

「何か分かりやすい理由や戦略があったというわけじゃなくて、ここに至るまでにいろんなことがあって、気が付いたらこの場所と巡り合って、本屋をすることになってた。答えられないと言ったのはそういう意味なんだ」

自分はこの連載を始める前、書店さんの選書や内装のこだわりなど、ある意味では外側のことを聞いて連載にしようと思っていた。
だけれど、ことば部だから、と目を見て、そして真剣に答えてくれた言葉にこもる熱を知って、ああ、この連載は外側のことじゃなくて、心のことが知りたいなと思った。そして、自分が本屋さんをする上で、大切なのはそちらなんだろうな、とも。

「人生ってそんなに単純なものじゃないし、単純な因果関係で説明できるものでもないと思う。そんな分かりやすさやストーリー、それが嫌だったから今本屋さんをやっているんです」

それは自分がことば部を立ち上げた時の気持ちと似ていると思った。気付けば自分も、メモをとることをやめて、旦さんの話を向き合って聞いていた。

「わずか1分の出来事に50ページほど費やして書かれていく小説や、何がどうつながってこうなっているんだろうと簡単には分からないポエム、理由や理屈じゃない、そんな文芸や文学、言葉、そういうものを大切に扱う仕事がしたいと思って、本屋を始めたんですよね」

旦さんの話を聞いているうちに、コンセプトや選書のテーマ、元々聞こうと思って用意していた質問をするのは少し野暮かもしれないな、と思った。というより、今までの旦さんの話の中に、きっとそれは詰まっているのだろうな、と思った。

そう思っている時、外から通行人らしき人がお店を覗く。旦さんが笑顔で「すみません、この後1時からの営業なんです」と話しかける。インタビューを始める前にも見た時間が、流れていく。

「このお店ってね、あんまり本屋さんだと思われないんですよ。本屋さんだと思わずに入ったら本があって、なんだろうここ、っていう。もはや名付けようのない空間になっているんですよね」

ここに来て数十分、自分自身もその光景を何度も見たこと、そしてさっき見た子どもたちのことも伝える。

「そうだね、子どもたちもなんだろうここ、ってよく入ってくるんです。大人になってもそういう心はあって。その度に嬉しい。でも、やっぱりここは本屋さんだから、という気持ちもあって。抽象的な空間でありながらも、港としての本屋でもある。だから『自由港書店』という名前なんです」

青い布が揺れ、外からやわらかな陽がさしている。ここに流れる、風が吹き抜けるような時間のことが、少し分かった気がした。

本屋をするために必要な”繊細さ”

「僕は、”繊細さ”だと思います」

本屋を開くために大切なことを聞くと、旦さんはそう答えてくれた。

「紙を扱う仕事だから、紙に対して丁寧にしないといけない。言葉を扱う仕事だから、言葉に対して繊細でないと作家さんや本を、傷つけてしまうかもしれない。紙袋や手書きの伝票、ひとつひとつの手仕事、ほとんどのものがWebで読める中で、そういった部分にこそ求められていることがあるんじゃないかなと思って、僕は本屋をやる上で1番大事にしています」

前職を辞め、迷い悩んだ時に自然と足を運んだのも本屋という場所だったという旦さん。旦さんが大事にされていることを聞いていると、本屋さんを開く前の旦さんにとって本屋さんがどういうものだったのかが分かるような気がした。

旦さんに本屋としての1日のスケジュールを聞いてみる。朝は本の紹介文や通販、開店準備に営業、見えない事務作業、分かってはいたがお客さん側からはなかなか見えない忙しいスケジュールだ。

「読むことと書くことを自分の生活の中心に置いて、そのリズムがそのまま本屋を営むリズムに繋がる。それを凄く大切にしています」

スケジュールのことを聞いていく中で、旦さんはそう答えてくれた。家に帰ってご飯を食べた後は本を読む時間にあてる。生活と仕事。朝は書き、夜は読む。旦さんの日々も、書店も、そうしたリズムの中にあるのだと感じた。

「君と僕と5ドル」

この連載では1つだけ決まった質問として、『好きな言葉』を聞こうと思っている。
ことば部としても、そして個人としても、言葉を扱う本屋さんの好きな言葉を知りたいのだ。

旦さんが教えてくれたのは映画『リアリティ・バイツ』のセリフ。

『You see, Laney, this is all we need. A couple of smokes, a cup of coffee,and a little bit of conversation.You and me and five bucks.(ねえ、俺たちが必要としているもの。それは、タバコとコーヒー、それからおしゃべり。それだけなんだよ。そう思わない?ーーーそう、君と僕と5ドルだけ)』

「人生っていろんなことを考えますよね。お金稼ぎたい、とか、成功したい、とか、色々あるけど、でも1番大事なことって一緒にいたいなと思う人と少しのお金があれば幸せと思えることだと思う。そういうことを提供できるお店でありたいな、と思います」


インタビューを終えて、たくさんお話ししてくれたこと、そして自分を一人の人間としてお話ししてくれたことの感謝を伝える。

風が入る店内、心が静まる音楽、外から聞こえる嬉しそうな声。少し歩けば浜辺に辿り着くこのお店の魅力が、旦さんから聞いたお話の中に詰まっている気がした。

書店を出る時、今から書店に入ろうとする人とすれ違う。本を探しに来た人、本が好きそうな中学生ぐらいの女の子。それぞれがそれぞれの時間を過ごす。

たくさんの人が流れ着く、自由の港。そんなこの場所に、またすぐに来ようと思った。