『おそろい短歌賞』
受賞短歌発表

たくさんのご応募
ありがとうございました。

今年は550名の方から合計1369首 ご応募いただきました!審査員を務めていただいた岡野大嗣さんの選評とともに、受賞短歌を発表いたします。


〈金賞〉1名


焼肉の後のキャンディー これからの東京にあなたの暮らす駅

名前植垣颯希

<審査員:岡野大嗣 選評>
一人焼肉というのも最近では珍しくないが、焼肉と聞けばやはり二人以上で囲む景色が浮かぶ。「焼肉の後のキャンディー」は、他者の存在をそばに感じさせるアイテムだ。親しい知人と久しぶりに会う。焼肉の時間は、近況を一通り報告し合うには十分な長さで、これからを語るには少し物足りない。会計を済ませると、小さな籠に盛られたキャンディーを差し出される。丸っこかったり、棒付きだったり。おひらきの駅に向かって歩きながら、まだ話そうと思えば話せることはいろいろある。でも、近い将来にきっとまた会えるという予感を持ちながら、口は会話よりキャンディーに集中していく。用事を済ませた街の明かりは文字情報を意識させず、ただ光だけを感じさせる。ぼんやりと丸っこい、輪郭を失っていくキャンディーみたいな光の中に、少し前までは「あなた」の最寄りではなかった駅が見えてくる。これまでとこれから。その両方の「あなた」とのおそろいが浮かび上がる。


〈銀賞〉2名


雪までの距離がおそろい 私たち止まる電車を跳ねて抜かして 

名前:川南未旅

<審査員:岡野大嗣 選評>
雪に立ち往生する電車だろうか。「止まる」は完了ではなく、いままさに止まりかけていく瞬間を感じさせる。降り続く雪に減速する電車と、跳ねて加速する私たち。静と動のコントラストに、前方への視界が鮮やかに開かれる。吐く息の白さ、頬に触れるひとひらの冷たさ、踏みしめる雪の厚み。その只中にいながらも、眼前に広がる一面の雪景色は、いくら進んでも辿り着かない幻影のようにも感じられる。刹那的な永遠の中を、私たちはおそろいの高揚のまま進んでいく。


真相は分からないけど五年間誤読に誤読で返してくれた

名前:遊鳥泰隆

<審査員:岡野大嗣 選評>
確かめようとするほど遠のくことがある。五年という長さが、それを一度きりの誤りではなく、私たちの作法にしていった。読み違いはすぐ直さない。少し笑って、同じぶんだけ外して返す。正しさを急がない受け方が対話を切らさず、時間を支える。間違いの重ね方に、二人だけの調子が宿っていく。真相は遠いままでいいと思える。伝え損ねた意味が別の入口になり、二人の関係性をより豊かにさえしたかもしれない。誤読だった読みが自分を救ったり、人生を変えることもある詩集のように。


〈銅賞〉3名


ためしにと小指に塗ってあげた色わたしの爪の分身になる

名前:シラソ

<審査員:岡野大嗣 選評>
小指があなたの岬だとすれば、その爪は先端の港。そこへ、魔法のステッキみたいにブラシが触れる。関係のはじっこに立つ一本がこちらの色を受け取り、わたしの爪の分身になる。わたしが塗れない日にはその一本が代わりに光り、逆にわたしの爪もあなたの分身となって、離れていても指先は同じ海を見ている。その海には、色の名で呼べる水平線が一本通っている。手を振る、カップを持つ、鍵を回す。そのたびに薄い波がきらめき、あなたの港からこちらの港へ小さな明かりが届く。


夏休み中の校舎は空っぽの製氷皿とおなじ明るさ

名前:常田瑛子

<審査員:岡野大嗣 選評>
開け放たれた窓から強い日ざしが入り、黒板の緑をくっきり浮かび上がらせる。響き渡る蝉の声はすみずみにしみ入って、かえって無音の静けさがある。並んだ机も椅子も生徒の体温を忘れ始めている。人がいないときの教室に漂うフラットな光の質感は、なるほど、製氷皿のあの明るさだったのか。満ちているときの温度は逆で、製氷皿は冷凍庫でひんやり、教室は体温と声で熱気に包まれる。いまは受け皿としてのかたちだけが整っている。空っぽは、夏の光をたくわえて「これから」を迎えるための明るさだ。


この曲を海と思っている人は他にもこんな海を聴きます

名前:髙山准

<審査員:岡野大嗣 選評>
配信サービスのおすすめの定型文を、比喩の器に差し替えている。似ているのは音そのものではなく、「この曲=海」と感じる感覚。遠浅の午後の海、夜の湾の重たい海、雨の後の鈍い海。おすすめされるのは曲ではなく、そうした海の手ざわりでできた並びになる。聴くのは音だけでなく、それぞれの海。「他にもこんな海」は、他人の再生履歴ではなく、自分の比喩に近い他者の地図だ。アルゴリズムの定型が、気分の共有に変わる瞬間。リストをたどるほどに、元になった「この曲」の海も少しずつ広がっていく。


〈 審査員 〉

岡野大嗣さん

1980年、大阪府生まれ。歌人。単著に『うたたねの地図 百年の夏休み』『うれしい近況』『音楽』『たやすみなさい』『サイレンと犀』、共著に『玄関の覗き穴から差してくる光のように生まれたはずだ』『今日は誰にも愛されたかった』『あなたに犬がそばにいた夏』。がんサバイバー当事者による、闘病の不安に寄り添う短歌集『黒い雲と白い雲との境目にグレーではない光が見える』を監修。連載にmeets regional「レッツ短歌!」。2023年度 NHK Eテレ「NHK短歌」選者。

X:(@kanatsumu)> https://x.com/kanatsumu


おそろい短歌賞とは?

11月11日は「おそろいの日」。
フェリシモが制定し、一般社団法人・日本記念日協会により認定・登録もされた、このあたらしい記念日に合わせて、フェリシモことば部が開催した短歌コンテストです。
くわしくは募集時の記事をご覧ください!