部員のはなし
私たちが好きな岡野大嗣さん
の”おそろい”短歌
『おそろい短歌賞2025』は審査員に歌人の岡野大嗣さんをむかえ、ことば部の部員やまぐちとたっきーが主導となり運営している短歌賞です。
そんな部員の二人は普段から、岡野大嗣さんの短歌を読んでそばに置いたり、大切にしたりしています。
今回はやまぐちとたっきーで、好きな岡野大嗣さんの”おそろい短歌”のことを話しました。
よければぜひ、お読みください。
私たちが好きな“おそろい短歌”
ーやまぐち
今回は、『おそろい短歌賞2025』にちなんで、岡野さんの短歌の中で”おそろい”を感じる短歌のことを話せたらと思います。
岡野さんとの往復書簡でもお話したのだけど自分は短歌をお風呂の前とか、散歩の前とかその後に時間が取れるときに読むことが多くて、たっきーはどんな時に短歌を読んだりするだろう。
ーたっきー
私は仕事帰りの電車で読んだり、夜寝る前に布団に入ってほっと一息つく瞬間とかに短歌を読むことが多いです。
岡野さんの短歌を読む中で、私は
”ひとりとひとりとひとりとひとりだけのミニシアターのまばらな嗚咽”
がおそろいを感じるなあ、と思いました。
ーやまぐち
この歌のどういうところがおそろいと思ったの?
ーたっきー
その場にいる人と同じ気持ちを共有している歌なので、おそろいを感じるなと思い、選びました。
わたしもよく一人で映画を見に行くんですが、名前もどんな人かも知らない人同士が、同じ映画を観ようと思ってここにいて、時間をともにしていると思うと嬉しいなと感じるときがあります。
映画が終わったあと、同じ気持ちを共有している感覚とか、それこそ、この歌にもあるように自分と同じように泣いている人がいると、おそろいを感じます。
ーやまぐち
気持ちが”おそろい”って、とってもいいね。
例えば、好きな人でも、仲のいい友達でも、何かを見て同じことを思ったとき凄く嬉しく思うもんね。
自分は
”ファミレスは小さな足湯 近況をどこまでさかのぼって話そうか”
という歌におそろいを感じました。
さっきたっきーが言ってくれた映画館で感じることとも近いかもしれないけど、ファミレスって凄く時間を共有している感覚がある。
この中にはいろんな家族や、いろんな出会い方をした人たちがたくさんいて、そういう人たちが一同に会して、同じ空間で食事をしている。それっておもしろいし、あったかいなあと感じます。自分はその感覚が”おそろい”なのかな。と思いました。
電車もそれに近いことを感じます。知らない人同士が同じ箱の中で、どこかへ向かってる。
ーたっきー
その感覚もすごく面白いですね。そう言われてみれば電車も不思議な場所ですね。
私が次に選んだ短歌も、もしかしたらそれに近いかもしれないです。
”なみだめで見つめる団地の窓の灯はいろんな国のはちみつの瓶”
電車に乗っている時とか、街を歩いているときふと見上げたマンションの窓ひとつひとつに色んな人の生活があるんだなぁと思うとなんかぐっとくるときがあって、この歌はその時の自分の気持ちとリンクしました。
直接おそろいを歌ったものではないのかもしれないけれど、一見並列して見える人々の生活は、よく見るといろんな国のはちみつのように色や味わい手ざわりもさまざまで、そんな中を必死に生きている。そういう意味ではおそろいなのかなと思いました。
人生につかれたとき、味わいたくなるようなあたたかい歌で大好きです。
ーやまぐち
帰り道に見えるマンションの灯りって、なんだか優しく見えるよね。
そして、今その灯りを思い浮かべたとき、たしかになんだか色とりどりな感じがする。
今回のおそろい短歌賞はルールとして「ふたりやおそろいに関すること」とあるけれど、たっきーが言ってくれたみたいに、確かに直接的におそろいを歌ったものじゃなくてもいいのかもしれないね。
例えば、
”洗いもの溜まってますか そうですか 桜が散るまで寝ていましょうか”
という歌も凄く好きで、これもおそろいや、ふたりを感じます。
歌の中でふたりとは言っていないけど、昼下がりにゆったり会話しているふたりが確かにそこにいる。
昨年のおそろい短歌で銀賞を受賞した
”本棚を混ぜて暮らせばほんのりとキャラメルポップコーンのにおい”(asano)
も自分はそんな歌に感じた。
ーたっきー
ふたりにも、おそろいにもいろんな形がありますよね。
”人間はしっぽがないから焼きたてのパン屋でトングをかちかち鳴らす”
みんながついついしちゃう行動を歌ったものだったので、私はこれもある意味おそろいな歌だなと思いました。
パン屋さんでパンを選びながらトングかちかちしちゃいますよね。あれって犬でいう、しっぽをふりふり喜んでいる動きと同じだったんだ!とはっとして。
どのパンにしようかそわそわ、わくわくする気持ちとともにパン屋さんに響くかちかちかちというトングの音がなんともしあわせな空間だなぁとその時間がより一層好きになりました。
ーやまぐち
今回の『おそろい短歌賞2025』でも、直接的なおそろいやふたりももちろんだし、いろんな形のおそろいやふたりが浮かんだらいいね。
ーたっきー
そうですね。いろんな形のおそろい短歌が集まったら嬉しいです。
改めて、今回の『おそろい短歌賞2025』では「おそろい」をテーマに短歌を募集しています。
初めての方も短歌を書いてみるきっかけに、日々のことに気付くきっかけになればいいなと思っています。
募集期間は10月19日(日)まで。
ぜひ、お待ちしております。
『おそろい短歌賞2025』ご応募はこちらから
岡野大嗣(おかのだいじ)さん
1980年、大阪府生まれ。歌人。単著に『うたたねの地図 百年の夏休み』『うれしい近況』『音楽』『たやすみなさい』『サイレンと犀』、共著に『玄関の覗き穴から差してくる光のように生まれたはずだ』『今日は誰にも愛されたかった』『あなたに犬がそばにいた夏』。がんサバイバー当事者による、闘病の不安に寄り添う短歌集『黒い雲と白い雲との境目にグレーではない光が見える』を監修。連載にmeets regional「レッツ短歌!」。2023年度 NHK Eテレ「NHK短歌」選者。
X:(@kanatsumu)> https://x.com/kanatsumu