紬織の人間国宝
志村ふくみの芸術と思想
志村ふくみ
雪の中でじっと春を待って芽吹きの準備をしている木々が、その幹や枝に蓄えている色をしっかり受けとめて織りの中に生かす。まさに生命の色をいただくということ。アトリエシムラでの染めの学びは、「欲しい色」を植物から奪うという発想とは真逆のところにあります。古代の草木染めには、アニミズムの精神や精霊と対話する思想が込められており、植物の色は「邪気払い」「厄除け」として身に纏われてきました。これは植物の中に宿る精霊と対話する行為であり、糸に精霊を宿すという意味合いも含まれています。植物が長い時間をかけて蓄えてきた生命のエネルギーをいただくのが草木染め。植物の最も美しい瞬間を見極める判断力と、時々の状況に応じて変化を感じ取る人間の五感が不可欠。染めという行為は、自然と深くふれあうことそのものなのです。
「紬織」はかつて「屑織」と呼ばれ、農村などで屑繭や織物の残り糸をつないで織る庶民のふだん着の織物でした。志村ふくみさんはそこに「紬織の美」を見出し、代表作『秋霞』は紬織への新たな価値観で世に衝撃を与えました。
思いを受け継ぐアトリエシムラ
2013年に「芸術学校アルスシムラ」を開校したきっかけは、2011年の東日本大震災と福島第一原発の事故。近代文明の危うさを目の当たりにし、染織を通じた芸術教育の場を作らねばと奔走。さらに2016年には、孫の志村昌司さんが志村ふくみさんの芸術精神を継承した染織ブランド「アトリエシムラ」を設立しました。

志村ふくみさんは、経糸と緯糸が交差する平織に「宇宙の原理」が込められていると語ります。さらに手で紡がれている紬糸は太さが均一ではありませんが、その不均一さこそが魅力であり、経糸と緯糸が織りなすシンプルな構造は現代の抽象画にも通じるものです。心の中に生まれた色のイメージが形になり、そこに言葉が重なることで初めて作品になる。志村ふくみさんは、そのように創作の秘訣を明かしています。




