春夏秋冬、旅するように編みつなぐ日々

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旅するように暮らす編み物屋、“Lunedi777”として活動を続ける編み物作家の泉 玉青さん。自然豊かな土地を数年ごとに渡り歩く、長期滞在型の旅のような暮らしを続ける泉さんの作品は、日々の暮らしに根ざした豊かで美しい色遣いが魅力です。泉さんの「好き」が詰まったアトリエで、暮らしと編み物の関係から、独特の色遣いの秘密まで、たっぷりとお話を伺いました。

転勤族な日々から編み物の世界へ

色彩豊かな沖縄で、編み物好きのお母さまのもとで育ちながらも、編み物に興味を持つことがほぼなかったという泉さん。自発的に編んだはじめての作品は、高校生のときに挑戦したプレゼント用のセーターでした。

「毛糸を買ったら編み物も教えてくれる手芸店があって、そこでなんとかゴム編みのメリヤスのセーターを一着編み上げたのが最初の記憶です。決して上手とは言えないできばえで、苦手意識が芽生えてしまい、それ以上続けたいと思うこともありませんでした」

「毛糸のままではピンとこないので、試したい色合わせは必ずある程度編んでみてから決めていきます」。肩こりなどもなく、一日中編んでいても疲れないタイプだそう。

その後結婚を経て、ご家族のお仕事の関係で3〜4年ごとに引っ越しを繰り返す転勤族に。地元で仕事を見つけても引っ越しのたびに辞めなければならず、環境もキャリアもゼロに戻ってしまうことに限界を感じ、「場所が変わっても継続できる仕事はないだろうか?」と考えた末に思いついたのがハンドメイドでした。まずは自作のラッピンググッズなどをネットで販売してみたところ、少しずつ買い手がつくように。もっといろんなものを作れないかと考えたときに頭に浮かんだのが、編み針と毛糸さえあれば始められる編み物でした。

必要な材料や道具が少なく、いつでもどこでもすぐに作業できるのが編み物の魅力。

「身のまわりにも母の作品があふれていたので、知らず知らずのうちに影響を受けていたのかもしれませんね。まずはかぎ針編みのドイリーの本を買って編んでみたのですが、いきなりつまずいてしまって。そのころはタイミングよく実家の近くに住んでいたので、母に直接教えてもらったところ、何度やってもわからなかったところがクリアになった。その瞬間、パーっと霧が晴れ、世界が広がるような自由な感覚を覚えました。そこからは作れるものが一気に増えて、ほぼ独学でどんどん前に進んでいけました」

著書に掲載した湯たんぽカバー。文字モチーフは愛用のマグカップがイメージソース。

夢中で編み上げた小物を通販サイトで販売し、SNSでの発信も始めたところ、だんだんとファンが増え、全国の雑貨屋さんから「作品をうちで販売しませんか」と声がかかるように。

愛らしいニットブローチは泉さんの代表作。

なかでもミトンやニット帽のブローチは人気で、「当時はひと冬でミトンを50セット編んでました(笑)」というくらいの売れっ子に。さらに作品の幅を広げようと、バッグやブランケットなどを編み出したころから色合わせの楽しさに夢中になり、今の泉さんの最大の魅力である、カラフルでハッピーな作風が花開いていきました。

はじめてお客さんのオーダーに答えて作った誕生花のシリーズ。「テーマに沿って作ったものを喜んでいただけたことで、作家としての自信がつきました」

手芸誌や企業への作品提供も増え、2025年には、初の単著『毎日カラフル 一年中の編みこもの』を日本ヴォーグ社より出版。「制作でいちばん苦労したのは毛糸のセレクト。ふだんは手持ちの毛糸を自由に混ぜて使っていたのですが、書籍では読者の方に同じものを編んでいただくために、毛糸の品番まで明記する必要がある。ところがメーカーが異なると同じ色名でも印象が全然違うので、いちからやり直さないといけなくて。大変でしたが、納得する色合わせが見つかるとすごくうれしかったし、出版後たくさんの方に喜んでいただけました」

日常で出会う色を色選びのヒントに

色とりどりのグラニースクエアがずらり。

にぎやかだけど大人っぽくて、色鮮やかだけど日々の暮らしに心地よくなじむ、泉さん独特の色遣い。唯一無二なそのセンスはいったいどこで培われてきたのでしょう?

用途に合わせて各メーカーの毛糸を使い分けて。

「改めて意識したことはないので、はっきりお答えするのはむずかしいのですが……、自然豊かな土地を移り住む旅のような暮らしの中で、私は今までたくさんの色に囲まれて過ごしてきました。庭の畑の野菜や花の色、近所の海や山の色など、当たり前のように目にしてきた春夏秋冬の自然の色を、無意識のうちに吸収しているところがあるのかもしれません。夫には、『なんでもよく見て、しっかり覚えてるよね』と言われます(笑)」

どの土地でも必ず続けている畑仕事。野菜や花は色選びの重要なインスピレーション源。

言語化できない自分だけの色彩感覚を失ってしまうかもしれないから、カラーコーディネイトなどの専門的な勉強はあえて避けてきたという泉さん。無意識のうちに影響を受けてしまうのが怖いから、ほかの作家さんの作品もあまり細かくは見ないように気をつけているという徹底ぶりです。

左:編み針はアンティークのボックスに使いやすくまとめて。/右:気になるお店のDMやポストカードを色別にディスプレイ。何気ないところに独自の色彩センスが光ります。

初心者にはむずかしい、編み物の色合わせ。色選びのコツなどはあるのでしょうか?

見やすいように自作した毛糸の色見本帳。

「迷ったら、まずは同系色のグラデーションがおすすめ。簡単で間違いがなく、初心者の方でも素敵に仕上がると思います。少し慣れてきたら、黄色と水色など、全然違う色同士の組み合わせもぜひ試してみてほしい。たとえば私は、紅芯大根みたいなピンクと黄緑の色合わせが大好きなのですが、こんなふうに個人的に惹かれる色合わせにはきっと何か意味があるので、臆せず編んでみてほしいです。編み物のいいところは、何度でもほどいてやり直せるところ。気に入らなければ、ほどけばいい! という気持ちで、 私も日々チャレンジし続けています」

近所の海岸でのビーチコーミングも大好きな趣味のひとつ。お気に入りのさんごや貝は大切に並べて。

「色のアイデアは至るところにあふれているので、散歩に出てみるのもおすすめです」という泉さん。幼いころに読んだ絵本や、好きな映画、街で見かけた看板まで、ふだんの暮らしの中で出会う色の美しさをどれだけ吸収できるのかが、自分だけの色合わせを育てていくカギなのかもしれません。

エスプレッソマシンのコレクション。新婚旅行で訪れたイタリアは、のちに短期留学で再訪したほど大好きな国。イタリア滞在中に出会った美しい色や風景も、泉さんの日々の創作のインスピレーションに。

「編み物も色合わせも、必ずつまずくときはきます。でも、そこで決してあきらめないでほしい。私も最初の編み物では挫折してしまったけれど、二度目のときは、母に聞くことで問題を解決することができました。詳しい方がそばにいなければ、本でもネットでもなんでも利用してほしい。最初のつまずきさえ乗り越えることができたら、世界が一気に広がると思うので、ぜひ、編み物の世界を自由に楽しんでくださいね」

「編み物CAL」の編み図をデザインしていただきました

クチュリエが毎年開催している「編み物フェスタ」の人気コンテンツ「編み物CAL」。2025年の編み物CALで、編み図をデザインしていただきました。図案は全部で6種類!無料で公開しています!

lunedi777(ルネディ ナナナナナナ)
泉 玉青(いずみ たまおさん)

旅するように暮らす編み物屋。どこで暮らしても継続できる手仕事の編み物のよさに目ざめ、独学で学ぶ。ハンドメイドサイトで人気を獲得、現在では手芸誌などにデザインや作品提供。沖縄出身。

Instagram : @lunedi777

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