絵筆を針に持ち替えて糸で描くファンタジー

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まるで絵本の1ページのような愛らしさで、やさしい色の世界に誘ってくれる「オルソ リカマート」さんの刺しゅう作品。繊細で奥行きのある糸の重なりは、絵画のような趣きもあり、気がつけば大人が夢中に。その「かわいい」だけではない魅力の秘密を、愛知県にある自宅兼アトリエでお伺いしました。

偶然は必然だった!? 刺しゅうとの出会い

魔法の呪文のようにも聞こえる「オルソ リカマート」とは、イタリア語で「くまの刺しゅう」の意。「出身が岐阜県なんです。くま牧場や、テディーベアミュージアムなどの観光施設が身近にあり、幼少からくまグッズを集めたりしていました。純粋にくまが好きで、たまたま目の前にイタリア語の辞書があったので……」というのが、作家名の由来だとか。

桃やタルトは実物からスケッチ。食べたい気持ちを絵にしたという「桃色に染まるくま」と「星のブルーベリータルト」。

洋裁教室に通われていたお母さまの影響で、親子で手づくりを楽しむということはあったけれど、手芸好きな子どもだったかと言えばそうではなく、どちらかと言えば絵を描くことが好きだったそう。後に絵の学校に進学し、デザイン科のイラストコースを専攻します。

数ある作品のなかでも特にお気にりだという「星海探検」。ストーリー性のある構図とブルーのグラデーションが印象的。

卒業後は名古屋にある企業に就職。「スポーツ用品のロゴをデザインして刺しゅうする会社のデザイン部に所属したんですけど、刺しゅう部の人手が足りないということで、そちらを手伝うことになりました。仕事の内容は、服をセットしてデータを入力し、機械で刺しゅうをしていくこと。もともと性格も細かい方だし、結果的にすごく合っていたんだと思います」と当時を振り返る、オルソ リカマートさん。

はちみつやフルーツまで細かに描写された「はらぺここぐま」

淡々と進めていく工程のおもしろさ、機械刺しゅうの精巧さにすっかり魅了され、その後も、デザイン部に戻ることはなかったと言います。

ステッチや使用する糸まで詳細に書き込まれた図案ラフ。

最初は育児アカウントとして使っていたSNSで刺しゅう作品を紹介するようになると、「欲しいです!」というコメントが増え、2020年からハンドメイドサイトでの販売を開始。

美濃焼の器に羊毛を詰めて、針山にアレンジした恐竜が手仕事の相棒。

思いがけず刺しゅう作家としての歩みがスタートしたわけですが、オリジナルの図案を手がけるようになったのは、どんなきっかけがあったのでしょう?

刺しかけの作品と道具を入れたバスケット。持ち運びが便利で、家中どこでも作業スペースになる愛用品。

「友人に何かプレゼントしたくて、彼女の好きなハリネズミを刺しゅうしたがまぐち財布を作ったことですね。技術的には未熟な作品でしたけど、すごく喜んでくれたことがうれしかった。それから、本で見たものを趣味で作っているうちに、だんだん見本との違いが気になるようになってきて……。お手本があるとその正解を目指して、完璧に作りたくなってしまうので、いっそのことデザインも自分で考えた方がいいと思ったんです」

自分のためから誰かのために

お子さまの学習机に並べて配置された、オルソ リカマートさんのワークスペース。  目が合う場所にディスプレーされたぬいぐるみコレクションが日々の癒やしに。

好きなモチーフを好きなように。枠にはまらない自分の刺しゅうを見つけたオルソ リカマートさんの創作意欲はもう止まりません。「だんだんと動物モチーフへのこだわりが芽ばえ、色のやさしさや繊細さを意識するようになりました。絵を習っていたときから、細い線で何色もの色を重ねて陰影をつけるのが好きだったのですが、刺しゅうでもおのずとそんな世界観になっているのがおもしろいですね。何しろ、刺しゅうとの出会いが職場の機械刺しゅうなので、細かくて美しい仕上がりを無自覚に求めていたのかもしれません」 

左:刺しゅう糸は色ごとに整理。使いやすく糸が絡みにくいよう、三つ編みにして収納しています。/右:イベント用に制作したという看板代わりのロゴ作品には、もちろんシンボルのくまが。

これほど繊細な作品になると、子育てとの両立がむずかしくなりそうな気もしますが、その点でのお悩みはないですか? 「子どもが小さいころは、集中したいのに手を止めなければならないことが多く、それが理由で体調をくずしたこともありました。そんな経験から、育児と創作の時間をしっかり分けるようになったので、今はいいバランスで両方を楽しめています。子どもと暮らしているからこそ気がつく空の色や、季節のうつろい、一緒に読んだ絵本からも新しいデザインのひらめきをもらっているので、むしろ感謝したいくらいですね」

大きめのクッキー缶には、モコモコとした特殊な糸たちをストック。

オルソ リカマートさんの作品を象徴する「くま」のように、普遍的な愛らしさを持つモチーフに個性を持たせるのは簡単なことではないはず。にもかかわらず、豊かな色彩と立体感で情緒的に刺し描かれる唯一無二の動物たち。その瞳、口もと、鼻先のシェイプにも、ひと針ひと針に命が吹き込まれているようで、見れば見るほど、夢中になってしまいます。「あくまでも大人の持ち物として『かわいい』作品でありたいので、写実的になりすぎず、それでいてファンシーに偏りすぎない、リアルとデフォルメの中間を心がけています。絵は好きだけど、絵心があるわけではないので、作りたいものが決まったら、しっかり下調べをしてラフを描きます。配色も4、5パターン考えて、2、3日はしっかり悩む。私は、石橋を叩いて渡るタイプなんですよ」

目が合う場所にディスプレーされたぬいぐるみコレクションが日々の癒やしに

クチュリエで監修してくださった「ふわふわの毛並みに癒やされる くまさん刺しゅうポーチの会」は、そんなオルソ リカマートさんの魅力を存分に楽しめるキット。「くまの1日というテーマに沿って、朝食から夜のおやすみまでの物語を創作するのがとても楽しかったです。刺しゅうは、手を動かした分だけ上達するので、焦らずじっくり、気持ちに余裕を持って向き合う時間を大切にしてください」とお話してくれました。

昨年は初の作品集を出版。来春からは、新たに対面でのレッスン講座にも挑戦するなど、刺しゅう作家としての活動を着実に広げながら、魅惑的なファンタジーの世界を刺し描き続けるオルソ リカマートさん。「私の刺しゅう作品をもっとたくさんの方に、気軽に持っていただきたいという意味でも、布小物を増やしていきたい願望があります。そのために、おさいほうの技術を磨いて、バッグとか少し大きめのアイテムも作れるようになりたいです」

オルソ リカマートさんが監修したキットはこちら!

モール糸を刺しゅうすることで、テディベアのようなもこもこの毛並みを表現したくまさんのかわいさたるや! 「くまさんの穏やかな1日」をテーマにした刺しゅう物語をぜひお楽しみください。

「ふわふわの毛並みに癒やされるくまさん刺しゅうポーチの会」

刺繍作家 orso ricamato(オルソ リカマート)さん

2019年より独学で刺しゅうをはじめる。くまや動物をモチーフに、色遣いにこだわった繊細であたたかみのある刺しゅう作品を制作。現在はオンラインショップやイベント、企画展での販売を中心に活動中。著書に『四季を楽しむ 可愛いくまの刺しゅう』(産業編集センター)。

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