自由がうれしい刺しゅう道 / お笑い芸人・刺しゅう作家グッドウォーキン・上田 歩武さん

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漫才コンビ「グッドウォーキン」のメンバーとして、古着芸人、スニーカー芸人として、さまざまなメディアで活躍中の上田さんのもうひとつの顔は、全国からラブコールの絶えない人気刺しゅう作家。今年で8年目に突入したという作家活動について、実際に目の前で刺しゅうをしていただきながら、いろいろなお話をお聞きしました。

いつだって、手を動かしていたい。

手刺しゅうをほどこしたキャップブランド「goodwalkin」が大人気の上田さん。幼少期からさぞかし手づくり好きだったのかと思いきや、実は大人になるまで興味も経験もほぼゼロ。刺しゅうを始めたのは、8年前のあるできごとがきっかけだったといいます。

「手痛い失恋を経験して、その痛みを忘れるために思いつきで刺しゅうをしてみたのが最初です。動画などを参考に見よう見まねで始めてみたら、意外と楽しくて、気づけば没頭していました。キャップに刺しゅうをした作品をSNSに載せてみたら、少しずつうれしい反応をいただくようになって」

ひっぱるとおしょうゆの糸が出るギミックがかわいい。

人生初の刺しゅうからわずか半年で、なんと大手のアパレルから受注イベントのお誘いが。2日間で、合計80点以上のオーダーが入ったそう。
「そんなに受注をもらえると思っていなかったから本当にびっくりして。当時入っていたアルバイトを休ませてもらって、夢中でオーダー分を刺しました。刺しゅうが仕事になったはじめての経験で、達成感もすごかったです」

ポップアップで販売する作品たちはいずれも一点もの。

それから今に至るまで一度もオーダーが途絶えることなく、全国各地からのラブコールにこたえてポップアップイベントを重ねる日々。最初のうちは「ヘタウマ」と称されていた腕前も、この8年ですっかり上達し、名実共に立派な刺しゅう作家に。上田さんにしか表現できない独特の世界観で、着実にファンを増やしています。

ジップバッグにいれて選びやすく整理された大量の糸。

主なモチーフは、食べものや動物、人物や身近な雑貨など。刺しゅう自体は比較的シンプルながら、なんともいえない味わいがあり、視界に入るたび思わず笑顔になってしまいます。
「この8年間ほぼ毎日刺しゅうしているので、モチーフ選びは永遠の宿題みたいなものですね。とにかく手は動かしていたいから、なんだかんだとアイデアをしぼり出しています。自分だけの持ち味については、正直自分でもよく分からないけど、お笑い芸人としてのものの見方や、大好きなファッションの要素など、44年生きてきたなかで培ってきたものが反映されているのかもしれません。お客さんに喜んでもらえたらうれしいなと思いながら刺していますが、一方的に押し付けたくはないので、必要以上に作品の解説はしません。オオカミを犬だと思ってもらってもいいし、フリーダ・カーロを親戚のおばさんやと思ってもらっても全然いい。その人なりに受け取ってもらえたら、それが正解やと思うから」

正解がないから、失敗もないんです。

上田さんのはじめての書籍『ひまつぶ刺しゅう』は、潔いほどシンプルな刺しゅうの本。「『失敗かな』と思ってもそのまま最後まで縫ってみましょう。意外となんとかなっているはずです」「正解なんてないと思うので、どうやって縫っていいかわからなくなっても、とりあえず縫ってみてください。おもしろいものが生まれたりします」など、載っているアドバイスもとにかく自由でノンルール。上田さんが不定期で開いているワークショップでも、その姿勢は徹底しています。

「ワークショップは毎回緊張しますが、やりがいもあります。失敗したかも、できないかも、と不安そうにしている方には、とにかく全肯定で、最後までやればなんとかなる! とお伝えしています。個人で楽しむ刺しゅうには正解も失敗もないし、どんな仕上がりでも、自分がいいと思えばそれはもう100点満点。刺しゅうの楽しさを味わえたなら、その時点で大成功です」

直接キャップに下絵を描くと、すばやく色を決め、着々と刺しゅうを進めていく上田さん。その迷いのない手つきに、一同目を奪われながらの取材となりました。
ついに完成! 編集チームの「日本の素敵なもの」というリクエストから、富士山、柴犬、桜を刺していただきました。独特のバランスがかわいい!

正確な数は把握していないものの、今までに少なくとも5000個近くの手刺しゅうキャップを完成させてきたという上田さん。ここまで続けてこられた原動力は、一体何なのでしょうか。
「身も蓋もないことを言うと、刺しゅうは生活の手段なので止めるわけにはいかないんです。でも同時に、やっていて楽しいから、好きやからここまでこれた、っていうのも本当で。いちばんの原動力は、やっぱり喜んでくださる方々の声ですね。そもそも刺しゅうは、誰に頼まれたわけでもなく、ひとりで勝手に始めたことなのに、いつのまにか声をかけてくれるお店の方や、集まってくれるお客さんがたくさんいる。こんなにありがたいことはないです。本当に、人生って不思議です」

まだまだ満足できない、まだまだ刺しゅうの可能性を探したい、まだまだ新しいことに挑戦したい。取材中、何度も「まだまだ」を口にしていた上田さん。その尽きない向上心と刺しゅう愛こそが、上田 歩武という刺しゅう作家の人気の秘密なのかもしれません。
「この前、作業に疲れたから休憩しようって思ったときに、無意識に別の刺しゅうを刺し始めていたことがあって。何してんねん、刺しゅうの気晴らしに刺しゅうするって意味わからんやん! って自分で自分にツッコみました(笑)。それぐらい、いつのまにか刺しゅうが自分の一部になってしまっているのかもしれませんね」

お笑い芸人・刺しゅう作家 上田 歩武(あゆむ) さん

1980年滋賀県生まれ。2015年、同期の良平さんと漫才コンビ「グッドウォーキン」を結成。2017年に刺しゅうを始め、キャップに手刺しゅうをほどこしたブランド「goodwalkin」を展開。古着やスニーカー等への造詣の深さも話題に。著書に『ひまつぶ刺しゅう』(オークラ出版)。

Instagram @goodwalkinueda

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