見るだけで元気が出るような色鮮やかでユニークなニット作品を生み出し続けるニットデザイナーの藤田 智子さん。作品を見れば見るほど、柔軟な発想とそのユーモアに魅了されます。
藤田さんが考える編み物の魅力や、アイデアの源について、たっぷりとお話を伺いました。
アイデアの源は人を喜ばせ、楽しませたい思い
ホールケーキ、お菓子の家、お寿司、野菜、人の顔……バラエティー豊かな作品を惜しげもなく見せてくださったのは、青森県でニットデザイナーとして活躍する藤田 智子さん。藤田さんの自宅兼アトリエにはニット作品がお部屋のあちこちにディスプレイされていて、膨大な作品数に圧倒されます。
「ふだん作品たちは仕舞ってあるんですよ。今日はたくさん見てもらえて、作品たちも喜んでいるみたい」。ユーモアあふれる藤田さんの作品ひとつひとつが放つ個性は、目を見張るほどヴィヴィッドです。
洋裁店を営むご家族のもとで生まれ育った藤田さんは、たくさんの手芸用品に囲まれ、祖母からは色の組み合わせ方、洋裁師である母からは棒針編みを教えてもらったそう。大学時代は編み物がブームで、当時の彼(現在の夫)との初デートに手編みのセーターを着て行ったのだとか。大きなハートがあしらわれた当時のセーターを広げながら、「気持ちをセーターに込めたのよ」とはにかみながら笑顔で話します。
大学を卒業後に結婚し、転勤が多い夫について専業主婦に。自宅でできることはないかと、編み物に本格的に取り組みます。地域の編み物教室で講師の先生に勧められたことをきっかけに、本来は取得に何年もかかる資格を3年で取得したそうです。「次いつ転勤があるかわからない焦りがあったので、急いで資格を取得したんですよ」と語る藤田さん。1年間に100着ほど編んだというその時期に体得した編み物のさまざまな技術は、藤田さんが自由自在に生み出す作品の表現力を今も支えています。
その後、自分で編んだニット作品を掲載するホームページを自作して発表し始めたことで、編み物好きの仲間とつながるようになり、出版社の目にも留まるように。編み図考案や編み物書籍の出版にかかわるようになりました。「求められているものを提供するのはもちろんだけれど、その中で自分らしさを表現できたらと思っているんです」
食べ物をモチーフにした作品も多く手掛ける藤田さんですが、そのきっかけは、夫の紀生(のりお)さんのお誕生日に毛糸で編んだホールケーキをプレゼントしたことだと話します。「これ、すごくいいよ!とすごく喜んでくれて、こういうのをもっと作ったらいいんじゃない?って言ってくれたんです。食べ物を見て、笑顔にならない人っていないでしょう? 見て楽しんでもらえるものとして、それ以来食べ物のモチーフを作るようになりました。夫は率直な意見をくれる貴重な存在なので、ときどき相談します。いわばソウルメイトですね。すごく信頼してるの」
どんな食べ物も、食べる前にはじっくりと観察し、イメージをふくらませるそうです。数ある作品のなかでも、大小さまざまなフルーツのモチーフがたっぷりとあしらわれた椅子の作品にはびっくり! 糸選びはもちろん、編み方のセレクトにもこだわり、どうしたら本物に見えるかを徹底的に追求する姿勢に、作品の完成度の高さが裏打ちされています。
編み物は自由! オリジナルな作品づくりを楽しんで
藤田さんの作品づくりのこだわりは、なるべく実用的に使えるものにすること。「ポーチやティッシュケース、手袋、靴下……ただかわいいだけじゃなくて、身に着けたり持って歩いたりできた方が、よりいろんな人を驚かせられる(笑)。かばんからピザが出てきたりしたらおもしろいでしょう? とにかく、人を喜ばせたいし楽しませたいんです」
作品のなかには、藤田さんが大好きな「変身」する作品も。ひっくり返すとタコのモチーフのポシェットになったり、お寿司のディスプレイをひっくり返すとケーキに変わったり……藤田さんの発想力とユーモアで、作品がより輝きます。
藤田さんに、どのようにイメージを形にしているか伺ってみると「私はデザイン画を描かずに、試し編みをするんです。まずは想像して、手を動かして編んでみる。失敗作もとっておいて、ほかの作品を作るときの参考にしているんです」とのこと。どの色で編めばぴったりと表現できるのか、毛糸の山を眺めながらじっくり考えることもあるそうです。「たった1本の毛糸から、道具の力を借りて3Dになっていく。それが編み物の魅力。あの編み方で、こうやって編んだらできるんじゃないかなと予測を立てて、実際に手を動かして思った通りの作品が仕上がったとき、いちばんうれしいんです」
藤田さんは自分で編んだ作品そのものを売るのではなく、編み方を記した編み図を販売しています。それには、編み物を多くの人に楽しんでもらいたいという想いが込められています。
コロナ禍でマスクに隠れた顔を表現したくて編み始めたという「顔」シリーズは、藤田さんがいつか編みたいとあたためているアイデアの布石でもあるそう。「青森に暮らしていて身近にあるねぶたをいつか編んでみたいと思っています。作ってみたいものがどんどん湧き上がってくるから、自分の手で形にしていきたい。編み物って、時間を一緒に編みこんでいるものなんですよ。みなさんにも失敗や間違いを恐れず、編むことを自由に楽しんでもらいたいです」
クチュリエでの新企画「暮らしにユーモア かぎ針で編む多肉ちゃんの会」の監修では、実際に植物園へサボテンを見に行ってイメージをふくらませたそう。「形や見た目が異なるサボテンの個性を生かすため、たくさんの糸見本からぴったりの糸を検討しました。編み方はそれほど複雑ではないので、ぜひ挑戦してみてくださいね!」
藤田 智子さんデザインの多肉植物の小物入れ
ぽってりとした多肉植物の特徴を、毛糸で見事に再現した小物入れは藤田さんの真骨頂! 見ると誰もがほほえんでしまうユーモラスな佇まいが魅力です。編んで使ってめでてと存分に楽しんでくださいね。
CHECK! → 暮らしにユーモアかぎ針で編む多肉ちゃんの会
ニット作家 tmkニットルーム / 藤田 智子さん
青森県出身。幼少期から編み物に親しむ。結婚を機に編み物の基礎を学びなおし、以降ニット作品の制作に精力的に取り組む。自身のHP「tmkニットルーム」にて編み図の販売を行うほか、出版社等への作品提供、編み図の提案も精力的に行う。著書多数。
Instagram:tmkknitroom
Web:https://tmkknitroom.thebase.in
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