富士吉田リネン産地レポート

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富士吉田は、1000年以上の歴史を持つ織物の産地。美しい空気と富士の雪解け水に恵まれた環境を生かし、今も多彩な生地づくりが行われています。今回は、クチュリエの新商品「半日で完成! 富士吉田生まれのリネンで作る みんなで着られるノーカラージャケット」に関わってくださったふたつのファクトリーをレポート。美しいものづくりの背景にある熱い想いを、現場からお届けします。

「ゆっくり」だから心地よい。

パタン、パタンと耳心地のよい音が聞こえてくるテンジンファクトリーは、富士山麓、標高700mの場所に位置する小規模なリネンの織物工場です。

代表の小林 新司さんは、工場を遊び場のようにして育った3代目。かつてはコートの裏地やネクタイなどをメインに作っていたものの、時代の移り変わりとともに徐々に需要も下火に。そんなときにヨーロッパのアンティークリネンと出会い、時を経るほどに美しさを増す独特の風合いに魅せられたことが大きな転機になりました。

2000年当時の日本では今ほどリネンが普及してはいませんでしたが、学べば学ぶほどリネンが日本の人々の暮らしにフィットするすばらしい素材であることを実感。こうして、小林さんのリネンづくりの日々が始まりました。

1896年に豊田 佐吉が発明した織機をルーツとする、昔ながらのシャトル織機。

テンジンファクトリーの最大の特徴は、古いシャトル織機を使って作られるセルビッチリネン。「セルビッチ」とは、シャトル織機で織られたリネンに必ずできる織物の「耳」のこと。カットする必要がないため使いやすく、耐久性にすぐれ、またデザインのポイントにもなる特徴的な部分です。

セルビッチ(織物の両端にできる耳の部分)ができるのがシャトル織機の特徴。

ゆっくりとしか織れないシャトル織機では、1日にわずか5メートルほどしか進まないものもあり、決して効率的とはいえません。生産性を重要視する今の時代に逆行するかのような製法ではありますが、アンティークリネンのような奥行きのある表情や、使うほどに心地よくなるふんわりとした風合いは、繊細な糸に負担をかけずゆっくりと織り上げることのできるシャトル織機だからこそ。

よこ糸は「管(くだ)」と呼ばれる棒に巻いて使われる。
たて糸によこ糸を通すための道具「シャトル」。数分でよこ糸がなくなってしまうため、その都度職人の手で新しいシャトルに交換される。

古い機械なので扱いがむずかしく、ひんぱんによこ糸を交換する必要があるため手間もかかりますが、工場にある5台のシャトル織機は、小林さんのリネンづくりにとっては欠かせない存在です。

工場内を案内してくださるテンジンファクトリー代表の小林 新司さん。

洗濯機で手軽に洗えて、ぬれてもすぐ乾き、静電気にも強いリネンは、夏はシャリっと涼しく、冬は体温を含んであたたかさを保ってくれるため、一年中快適に過ごせる不思議な素材。夏は高温多湿、冬は乾燥した空気に悩まされる日本の気候にぴったりで、クロスやタオルなどの日用品から、カーテンやシーツなどのインテリア、包まれるような心地よさが実感できる洋服まで、幅広い付き合い方が楽しめます。

工場では5台のシャトル織機が稼働中。シャトル織機ではよこ糸が弧を描くようにゆっくりと移動するため、ふんわりとした立体感のある風合いに織り上がる。 

「大量生産ができないからこそ、目の届く範囲で時間と手間をかけ、スタッフみんなで話し合いながら、自信を持ってよいと言えるリネンを日々作っています。これからも、リネンのすばらしさを伝え続けていきたいです」

使うよろこび、育てるしあわせ。

織り上がったセルビッチリネンが整然と並ぶ工房。色柄のデザインも小林さんの手によるもの。

日々肌にふれ、からだを包み込み、使えば使うほどにとろけるような肌ざわりに変化していくリネンは、まさに「育てる織物」。ファクトリーに並ぶ新品のリネンは、工程を終えた完成品であると同時に、これから伸びやかに育っていく生まれたての赤ちゃんのようにも感じられます。

天気のよい日は美しい富士山が眼前に。

「新しい生地ができたときがいちばんうれしい」と話す小林さんは、ご自身も自社のリネンを愛用中。1年後、10年後にリネンがどう育ち、お客さまにどう感じていただけるかというところまでを想像しながら、日々誠実にリネンと向き合っています。
「光や風を身近に感じることのできるリネンのカーテンのさわやかさ、リネンの寝具にくるまれて眠る安心感、リネンの服に手を通したときの包まれるような心地よさなど、実際に自分が使うことで実感できる魅力はたくさんあります。自分たちが使いたいと思えるものを作りたいという気持ちは、私たちのものづくりの根幹にあるもの。リネンは決して特別なものではなく、シンプルで親しみやすく、毎日使うほどにその魅力を実感できるものだと思います」

「吉田のうどん」は富士吉田の郷土料理。

クチュリエの新商品「半日で完成! 富士吉田生まれのリネンで作る みんなで着られるノーカラージャケット」は、ファッションブランド「サリゲナク」さんがデザインを手がけ、テンジンファクトリーで織り上げられたリネンを使って、世界に一着の洋服が作れる特別なキット。
「サリゲナクさんのすばらしいパターンで作っていただくのにふさわしい、自信を持っておすすめできるリネンを織りました。自分の手で洋服を作るよろこびと共に、着れば着るほど極上の風合いに育っていくリネンのよさを楽しんでいただけたらうれしいです」

TENJIN-FACTORY
ゆっくりとしか織れないシャトル織機を導入し、日本の暮らしに寄りそう上質なリネン織物を展開するファクトリー。オリジナルリネンのカーテン、シーツ、カバーなどのカスタムメイドも好評です。

www.tenjin-factory.com

Instagram:@tenjinfactory

生地の魅力を引き出すために。

生地の風合いを変えたり、機能性を高めたりと、多彩な加工を行なっているのが富士山生地加工合同会社。富士山の湧き水を贅沢に使える環境と、職人の専門技術の高さにより、多くのメゾンから信頼を集めています。代表の小杉 真博さんが案内してくださった広い敷地内には、全国から集まった生地がずらり。目の前で次々と作業が進められていく様子は圧巻です。

左:ずっしりと濡れた生地をテンポよく扱う洗い加工は、かなりの腕力と職人技を必要とする作業。/右:加工の終わった生地は、機械を使ってていねいに巻いていきます。

クチュリエの新商品では、テンジンファクトリーで織られたリネンの洗い加工と糊づけ加工をご担当。やさしい風合いに仕上がる洗い加工の後に糊づけ加工を経ることで、やわらかなリネンがパリッと扱いやすく、ソーイングしやすい状態に整います。
「私たちの仕事は、加工することで生地を扱いやすくしたり、生地の新しい魅力を引き出したりすること。テンジンファクトリーさんのリネンはとても上質で、繊細な風合いがあるので、そのよさを大切にしながら、使う方が長く愛用できるよう、心を込めて加工をさせていただきます」新商品でその風合いをぜひお楽しみください。

富士山生地加工合同会社
ニードルパンチやシワ加工、タンブラー加工や撥水加工など、お客さまがイメージする理想の生地をクリエイティブに追求する生地加工専門のファクトリー。
https://fujisanfabrics.jp/

 

 

富士吉田産リネンでジャケットを作ろう!

本記事で紹介した富士吉田リネンを使ったジャケットは、次のブログで詳しくご紹介!

今日作って明日着られる服・Sarigenaku × 織物産地・富士吉田市 / Couturier 2025-’26秋冬新作キット

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