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デザインの力で世界をしあわせにしたい。社会課題を持つ人と支援したい人とを結ぶ「アルモンドリング基金」とは?

こんにちは、フェリシモ基金事務局のmotoです。

アルモンドリングとは、フェリシモとユネスコとの協業事業である「デザイン21:ソーシャルデザインネットワーク」のシンボルとして誕生した基金付きの指輪です。

その歴史は1995年にさかのぼります。ユネスコ本部とフェリシモの共催プロジェクトとして、世界のデザイナー育成を支援するプロジェクト「デザイン21」を発足。その後、インターネットの普及にともない、コミュニティをオンラインへと移行し、「デザインの力でしあわせな未来をつくる」をコンセプトとして「デザイン21:ソーシャルデザインネットワーク」がスタートします。社会的な課題をデザインの力で解決していこうというこの取り組みは、当時はまだなかった、ソーシャルとデザインをかけあわせた概念をつくりあげました。そのアイコンとなった「アルモンドリング」は世界のデザイナーたちからも注目を集めました。「アルモンドリング」は海外ではオンラインで、日本ではカタログにて販売され、価格の21%が基金として活用されました。

「デザイン21:ソーシャル・デザイン・ネットワーク」の立ち上げメンバーの一人であり「アルモンドリング」の生みの親である宮本孝一さんにお話を伺いました。

話し手:宮本孝一さん
聞き手:フェリシモ基金事務局

「デザイン21」が「アルモンドリング基金」の出発点

国際デザインネットワーク「デザイン21」は、国連の50周年記念プロジェクトとして採択され、ユネスコ本部とフェリシモの共催プロジェクトとしてスタートしました。世界の若手デザイナーをサポートするプロジェクトとして、国際デザインコンペティションを実施し、パリ、ニューヨーク、東京、神戸、北京、リスボンにて優秀作品の展示会を開催し、デザイン界でも好評を得ました。1995年にスタートして以来、世界を舞台に作品展示を続けてきましたが、リアルな場での作品展示はオペレーションコストがかかることや破損リスクが高いことなどから、2年に1回の開催が限界でした。

アルモンドリング基金について話す宮本さん

そこで、常にアクティブな活動にするために2006年にオンラインでの運営に移行しSNS形式の「デザイン21:ソーシャル・デザイン・ネットワーク」をスタートしました。「デザインの力でしあわせな未来をつくる」をテーマに、社会的な課題をデザインの力で解決するという、それまでになかった取り組みでした。オンラインでのデザインコンペをメインの活動とし、審査には名だたるアドバイザリーボードの方たちにご協力いただきました。2011年には登録者は3万6千人を越え、プロのデザイナー、デザインを学ぶ学生、政府機関や非営利活動団体、企業の人たちが世界130カ国以上からアクセスしていただくコミュニティへと育っていきました。

当時はまだなかった「ソーシャル×デザイン」という概念

2006年当時は、事業活動における営利目的のデザインが一般的な時代ではありましたが、広告やプロダクトなどのタンジブル(形あるもの)のデザインから、コミュニケーションなどのインタンジブル(形のないもの)のデザインの重要性に世の中が気づきはじめた時代でもありました。

そこで私たちは、もう一歩踏み込んで、形のないもののデザインと社会(ソーシャル)があわさった部分に目を向け、デザインクラスターを形成していこうということで、「デザイン21:ソーシャル・デザイン・ネットワーク」というコンセプトのもと、まずはインタンジブルなキャンペーンなどのデザインを手がけていきました。例えば、環境をよくしたい、マイノリティの女性を支援したいなどと、活動の意図をしっかりと持った活動をする人たちがいるけれど、当時はなかなか認知度が上がらないという課題がありました。それをデザインの力で人々に理解してもらおうと考えたんです。

「デザイン21:ソーシャル・デザイン・ネットワーク」は、利益目的のデザインからソーシャルな領域へと視点を変えて、デザインクラスターの形成を目指した。
「デザイン21:ソーシャル・デザイン・ネットワーク」は、利益目的のデザインからソーシャルな領域へと視点を変えて、デザインクラスターの形成を目指した。

オンライン上で行うデザインコンペも、もちろん社会性の高いトピックを選びました。例えば、温暖化防止のオンラインキャンペーン、「SDGs」の前身である「MDGs」のプロモーション、G8環境大臣サミットにおける記念グッズのデザインなどを手がけました。それらはすべて、英語圏、フランス語圏、日本語圏を中心に公募にてデザイン案を募りました。

バングラデシュのノーベル平和賞受賞者であるユヌス博士と共同で、「グラミン・フェリシモ・プロジェクト」をスタート。バングラデシュの経済的自立を支援する“希望のシンボル”となるチェックのデザインを公募。世界52カ国から186作品の応募の中、最優秀賞には米国のデザイナーアンナ・トループさんが選ばれた。
バングラデシュのノーベル平和賞受賞者であるユヌス博士と共同で、「グラミン・フェリシモ・プロジェクト」をスタート。バングラデシュの経済的自立を支援する“希望のシンボル”となるチェックのデザインを公募。世界52カ国から186作品の応募の中、最優秀賞には米国のデザイナーアンナ・トループさんが選ばれた。
(左)G8環境大臣サミット記念風呂敷 (右)東日本大震災の復興支援のために開催したコンペにて優秀賞を受賞したグレタ・ミハリーさん(ハンガリー)のカードデザイン。世界40カ国以上から、359作品の公募があった。
(左)G8環境大臣サミット記念風呂敷 (右)東日本大震災の復興支援のために開催したコンペにて優秀賞を受賞したグレタ・ミハリーさん(ハンガリー)のカードデザイン。世界40カ国以上から、359作品の公募があった。

また、「デザイン21:ソーシャル・デザイン・ネットワーク」では、若く才能と実力はあるけれど、仕事の機会やフィーが少ない人たちに活躍の場を与えることも目的としました。一方で、私たちの活動意義に共感していただいた知名度のあるデザイナーの方たちには、お持ちの技術や審美眼を通して審査をしていただき、若手の才能を発掘するための支援をしていただくという座組みを設計しました。才能豊かでパッションあふれるデザイナーたちのデビューの機会を増やしていったのです。

当時は社会に貢献するといえば、チャリティー(慈善活動)という発想がメジャーで、ソーシャル×デザインという言葉や概念はありませんでしたから、理解してもらうのが大変でした。ですから、まずは「ソーシャルデザイン」という言葉の定義づけが必要と考え、ユネスコとフェリシモのネットワークを活かして、当時活躍されていたデザイナーさんや社会活動をされている教育者の方などに集まっていただき、意見交換しながら定義をつくっていきました。

希望のアイコン「アルモンドリング」誕生

この「デザイン21:ソーシャル・デザイン・ネットワーク」のアイコンとして完成したのが、「アルモンドリング」です。オンラインにアクセスしなくてもそれとなく人の目について、ユニセックスに身につけられるものがいいということで、リングに決定しました。デザインは世界的に著名なオランダのデザイナーであり、アドバイザリーボードのメンバーであったオランダのリチャード・ハッテンさんにお願いし、いくつか提案していただきました。その中で採用させていただいたのが、石があるはずの中心部分が空洞になっているデザインで、間(あいだ)をつなぐことの価値と可能性とが表現され、かつ上から見ると「C」の文字に見えます。その「C」の文字にCommitment:宣誓、Connection:連帯、Continuity:永続という3つの意味を込めて、この指輪を身につけていることが「デザインの力で社会課題を解決する」というメッセージの発信となるような商品コンセプトが完成しました。「Allumonde」とは、フランス語の「allumoer(光を灯す)、「lemonde(世界)」という言葉をかけあわせた造語で、「世界を照らすリング」という意味があります。まさに、希望のアイコンを彷彿とさせるネーミングとなりました。

アルモンドリング

社会課題と支援したい人とをリングでつなぐ

「アルモンドリング」を買っていただくと、価格の2%がユネスコに、19%はお客さまが関心のある社会課題の解決に役立てられるような仕組みをつくりました。支援先は、病を防止するための広報活動、自然環境の保護、こどもの飢餓問題など9つの活動を支援する団体です。デザインで社会を変えるといっても、社会の定義は幅広くあいまいになってしまいますので、できるだけ多くの支援を必要としている方たちのところへ基金が届くように、具体的なカテゴリーをわかりやすく設定し、どのような課題意識を持った方でも興味を持っていただけるように工夫しました。日本ではカタログを発行して商品ごとに支援先が異なるという仕組みにしました。

アルモンドリングについて話す宮本さん

海外ではオンラインにてアルモンドリングの販売を展開し、ネットワークに登録してあるNPO団体から支援先を選べる仕組みにしました。課題を持っている人と支援したい人とがつながるような仕組みは当時はまだ少なく、ユネスコとフェリシモとしても実験的な取り組みではありました。現在はあたりまえになりつつあるクラウドファンディングに近いのかもしれません。この企画はニューヨークを中心にプロモーションを展開しました。特にデザイン業界の方たちに興味を持っていただいて、反応はよかったと思います。

「アルモンドリング」は、シルバー、ステンレス、ゴールド、プラチナ、プラスチックや木など、いろいろな素材でシリーズ展開したのですが、商品展開をするにあたってちょっとした裏話があって。このデザインは、一部が細くなっています。とても美しい形状なのですが、軸となる部分が細くて弱いため、構造的には力学上、作る過程で折れてしまうことがわかったんです。それでもデザイナーさんのこだわりをなんとか形にしたいと思って、世界中を探し回ってなんとか形にすることができました。また、一番強度の高いステンレスは素材が硬すぎて、なんと金型が負けて割れてしまったりして…。ステンレスをあきらめようかと思ったのですが、東大阪の町工場に一つだけ、金型を使うのではなく筒を輪切りにする方法で作っていただけるところが見つかり、やっとの思いで商品化に至りました。

寄付金の2%は教育デザインに活用

ユネスコに寄付した2%の資源を使って、発展途上国の子どもたちに教育を提供する「DREAM Center(ドリームセンター)」というプロジェクトを支援しました。教育環境が整備されていない国や地域に学校を建設したり教育プログラムを実行したりするための支援です。「DREAM」とは、Dance:ダンス、Read:読む、Express:表現、Art:芸術、Music:音楽それぞれの頭文字をとっています。識字率の向上や数学や英語を学ぶなどといった知識の教育だけではなく、感覚や感性を豊かにし、表現するスキルを高める教育プログラムなんです。例え、知識を持っていなくても、自分の感情を表現するツールを身につけてほしいという願いがありました。ユネスコの主導で、教育を受けられる場をつくったり、教育システムとして導入するなど世界各国で展開されることになりました。

最小単位のソーシャルデザインを考える

「ソーシャルデザイン」という概念が当たり前になりつつあるなかで、昨今では「サステナブルデザイン」という概念も出てきました。「サステナブルデザイン」とは、持続可能な世の中をつくるという時間的にも空間的にも広い社会を対象としていると思います。私はその逆かもしれませんが、もっと小さな領域に興味があって。社会の最小単位は2人で、人と人との間に社会が存在します。一人では社会とは呼べない。親子とか友人とか、より小さな社会、つまり個人と個人とのつながりやコミュニケーションをデザインできたら、もしかすると国家間の争いごとさえも防ぐことができるかもしれないと思っています。今の時代、NPOや企業が旗を振らなくても、オンラインで個人同士がつながりやすくなって、エネルギーを紡ぐことができる社会になり、個々人が主役や当事者として社会に参加できる、すごくいい時代になってきたと思います。私もソーシャルのピントを一番ミニマムな部分にあわせて、どのようなデザインが可能なのかこれから探ってみたいと思っています。

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